ロナセンテープの有用性と服薬指導のポイント 岩田仲生氏(藤田医科大学医学部医学部長・精神神経科学講座教授)に聞く

 統合失調症治療は、服薬アドヒアランス不良による再発・再燃率の高さが大きな課題となっている。ある海外データでは、統合失調症治療における再発・再燃率は57.3%にも上り、統合失調症患者の2人に1人が再発・再燃を起こしている。こうした中、統合失調症治療のアンメットメディカルニーズ解決に寄与し得る新たな治療選択肢として、本年6月18日、世界で初めて非定型抗精神病薬のテープ製剤「ロナセンテープ20㎎、30㎎、40㎎」が製造販売承認を取得した。
 これまで統合失調症治療で繁用されてきた経口剤、注射剤に続くテープ製剤の登場により、より充実したSDM(患者と医療者等が共同で治療方針を意思決定)や、服薬アドヒアランス向上が期待される。そこで、岩田仲生氏(藤田医科大学医学部医学部長・精神神経科学講座教授)に、ロナセンテープの有用性や服薬指導のポイントを聞いた。

アドヒアランスの可視化がテープ製剤最大の特徴

 ロナセンテープの最大の特徴は、「アドヒアランスの可視化」にある。貼付剤という特性上、患者や家族・医療者が、確実な体内への薬剤投与が確認できるため、服薬アドヒアランス向上が期待できる。統合失調症治療の再発・再燃に関する因子には、「服薬を止める」、「病識の有無」、「病歴の長短」、「健康状態」などがある。これらの様々な因子を解析しても、再燃・再発でしっかりと差が出るのは「服薬を止める」で、服薬を中止すれば4~5倍近く再発リスクが上昇する。
 海外では、抗精神病薬のプラセボ対照試験が実施されており、プラセボ群は悪化していくデータが明確に示されている。従って、治療薬を服用して効果があり安定している患者こそ、服薬を止めてはならない。
 医師は、統合失調症患者を診察していて調子が良くなったり悪くなったりした場合「薬を飲んでいましたか」と訪ねる。すると患者は押しなべて「飲んでました」と答える。
 この患者とのコミュニケーションの中で、テープ製剤なら貼ったか貼っていなかったかが明確に判るため、服薬アドヒアランスの正確な判断が可能になる。正確な服薬アドヒアランスの把握は、医師の精密な症状評価にも繋がる。

 テープ製剤による投与量の視認も見逃がせない。ロナセンテープは、最初から治療用量が使えるというメリットがある。現在使用されている抗精神病薬の殆どは、最初に少量から始めて、その患者に適切な治療用量まで増量していく。ロナセンテープは40㎎~80㎎まで概ね3段階で評価する必要があるが、40㎎を貼付して2~3日後には十分な血中濃度に達するため、最初から治療用量の投与が可能である。
 投与量の増減も、錠剤よりも早く変更できる。錠剤から貼付剤への切り替えや、かぶれや発疹が出た時等の経口剤への切り替えも簡便だ。
 ロナセンテープで特筆すべきは、40㎎と80㎎では、80㎎の方が効果が大きいということが、これまでの治験で示されていることである。ドーズディペンデンシティが科学的に裏付けられているため、効果が不十分な場合は、80㎎まで増量投与する根拠がある。
 ロナセンテープのように、用量を上げれば効果が増大するエビデンスを有する抗精神病薬は少なく、経皮吸収型テープ製剤の設計技術の賜であると考えられる。ただし増量すれば、高用量となり副作用頻度がやや増えるので、錐体外路障害やアカシジアなどに留意する必要がある。
 一方で、悪性症候群などの重篤な副作用が出現した場合には、テープ製剤なら即刻剥がすことで対応できるが、持効性注射剤(月1回投与)はもちろんのこと経口剤も一度投与した薬剤を体内から除去することはできない。
 テープ製剤には食事の影響を受けないという利点もある。食事の影響を受けるケースがある経口剤は、特に、老人や身体症状が悪化して吸収に問題がある症例等では使い難い。また、食生活が不規則であったり、嚥下困難等で経口薬が適さない患者であっても、テープ製剤なら投与が可能となる。
 さらに、テープ製剤は、小腸や肝臓の初回通過効果がないため代謝の影響を受けにくく、薬物バイオアビリティの向上が期待できる。標的臓器にかなり速いスピードで有効成分が到達することも確認されており、内服薬とは異なる経皮吸収型ドラッグデリバリーシステムが生むメリットは少なくない。
 また、ロナセン錠は1日2回服用するのに対して、ロナセンテープは1日1回投与で究極の徐放製剤であることも特徴の一つだ。24時間安定した血中濃度を維持してピーク・トラフがほぼ無いため、ピーク時での不要な副作用出現が抑制され、トラフ値の最小血中濃度で効果を示すため、良好な有効性および安全性が期待できる。

   服薬指導
患者のライフスタイルに合った貼り替え時の提案がポイント

 保険薬局等での服薬指導のポイントとしては、まず、患者自身が統合失調症という自らの疾患をどのように認識しているかを確認する必要がある。その上で、治療薬を毎日飲み続ける意義を患者に理解してもらうためのコミュニケーションを毎回繰り返すことが、テープ剤選択による服薬アドヒアランス向上の重要なバックグラウンドとなる。
 患者とのコミュニケーションの中で、生活様式を洗い出すことも重要だ。ロナセンテープは、1日1回何時でも貼付可能であるが、患者のライフスタイルに合わせて決まった時間にきちんと貼り替える習慣付けをすることが不可欠となるためだ。
 通常、入浴後の貼り替えが好ましいが、毎日入浴しないケースもあるため、「どのタイミングなら毎日貼り替えれるか」の提案を、薬剤師から患者個々に積極的に行ってほしい。患者だけでなく、家族や訪問看護、ヘルパーといった周りの人たちの協力も得られる提案が望ましい。
 貼付部位は、胸部、腹部、背部のいずれも可能で、首筋など直射日光の当たる部位は避けるように指導する。テープ剤ならではの副作用である発赤やかゆみのケアにも留意したい。
 訪問看護においても、看護師の注射剤による薬剤投与は認められていないが、ロナセンテープなら家族も含めて貼付が可能なため、より支援し易くなる。
 近年、統合失調症の治療では、服薬アドヒアランス向上の手段として、患者が医療スタッフと情報を共有・相談しながら治療方針について意思決定する共同作業としてSDM(Shared Decision Making)が注目されている。
 従来の経口剤、注射剤に加えて、新たな投与経路を持つテープ製剤の治療選択肢が加わったことは、SDM推進にも寄与すると考えられる。
 医療者は、「統合失調症治の治療では薬剤の継続投与が必要不可欠」であることを患者にきちんと説明した上で、錠剤、注射剤、テープ剤のメリット・デメリットを話し合い、その患者に適した剤型を患者・家族と一緒に選択するのが好ましい。
 その結果、患者が納得してテープ剤を選択すれば、服薬アドヒアランスもより向上するものと思われる。
 非鎮静系の統合失調治療薬で、幻覚や妄想にも作用するロナセン錠は、2008年4月に日本で発売され、主に国内で使用されて、わが国の精神科医や医療現場において高い評価を構築してきた。
 今回、そのロナセン錠に、新たな投与経路として加わったテープ製剤の選択肢が、SDM推進や、服薬アドヒアランスの向上に寄与し、社会機能の回復を目指す統合失調治療に貢献することを期待したい。

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