2型糖尿病治療におけるツイミーグへの期待 植木浩二郎氏(国立国際医療研究センター研究所・糖尿病研究センター長)に聞く

 生活習慣や社会環境の変化、急激な高齢化に伴い、わが国の糖尿病患者数は1000万人超に上り、今後も増加傾向にある。2型糖尿病の薬物治療では、既存の薬物治療だけでは血糖コントロールが難しい患者も多数存在するため、新しい作用機序を持つ2型糖尿病治療薬の登場が待ち望まれている。
 こうした中、本年6月23日、グルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(糖新生抑制・糖取り込み能改善)の2つの作用を併せ持つと考えられる大日本住友製薬の2型糖尿病治療剤「ツイミーグ」(イメグリミン)が製造販売承認を取得した。そこで、ツイミーグの有用性や2型糖尿病治療におけるツイミーグへの期待を、植木浩二郎氏(国立国際医療研究センター研究所・糖尿病研究センター長)に聞いた。

メトグルコ
ツイミーグ

 ツイミーグは、ミトコンドリア機能を改善する低分子化合物のスクリーニングから得た薬剤である。ツイミーグの基本骨格は、メトホルミンと類似しており、細胞内に入るトランスポーターも同様であるが、両剤で異なる点も多々ある。
 ツイミーグは、ATPやNAD+の産生増加を介して、膵β細胞におけるグルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、ミトコンドリア呼吸鎖複合体ⅠおよびIIIへ作用して肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(糖新生抑制・糖取り込み能改善)の2つの作用機序で血糖降下を示すと考えられている。両作用機序には、体内のエネルギーのATPを効率よく生産するミトコンドリアを介した各種作用が関係しているものと推定される。

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 ミトコンドリア機能の改善では、ツイミーグには、メトホルミンと同様に電子伝達系のミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを阻害するとともに、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅲの活性を上昇させる作用があり、AMPキナーゼの活性化作用は有していない。メトホルミンは、ATPを下げてAMPを上昇させてAMPキナーゼを活性化させて糖の代謝を促進する作用が存在するのに対して、ツイミーグがどのように糖代謝を促進するのかは、今のところ判っていない。
 ツイミーグとメトホルミンとの決定的な違いは、ツイミーグがグルコース依存的にインスリン分泌促進作用を発揮する点にある。加えて、ツイミーグには、糖新生抑制作用や、骨格筋でのインスリン作用を強化するインスリン感受性促進作用があると考えられる。
 モデル動物においてもヒトにおいても、ツイミーグにはグルコース依存的なインスリン分泌上昇作用が観察されるが、モデル動物において認められる糖新生の抑制や糖取り込みの亢進などの作用はヒトでははっきりとは示されていない。
  半世紀にも及ぶ使用経験と確かなエビデンスを併せ持つメトホルミンも作用機序に関して今なお新しい論文が発表されていることからも、ツイミーグのそれも今後長きに渡って解明されていくと思われる。

インスリン分泌促進とインスリン抵抗性改善を併せ持つメリットに期待


 2型糖尿病は基本的に、インスリン分泌が低下し、そこに肥満や生活習慣の乱れによるインスリン抵抗性が重なり合って惹起する。どの2型糖尿病患者にも、必ずインスリン分泌低下とインスリン抵抗性の2つの病態が様々な割合で存在するので、ツイミーグにはそれを同時に改善する可能性がある薬剤としてメリットがある。
 これまで、インスリン分泌を促進する薬剤とインスリン抵抗性を改善する2つの薬剤を投与しなければならなかったケースでも、患者によってはツイミーグ1剤で良好な血糖コントロールが期待できる可能性がある。
 インスリン分泌を促進するSU剤は、血糖値と関係なくインスリンを分泌させるため、低血糖の副作用が出現しやすい。これに対してツイミーグは、DPP-4阻害薬と同様にグルコース依存的にインスリン分泌を促進するため、これまでの臨床試験においても単剤では低血糖が殆ど起っていない。ツイミーグは、消化管から分泌されるインクレチンホルモンには関与しないが、グルコース依存的にインスリン分泌を促進する点でDPP-4阻害薬と類似している。

 メトホルミンは、2型糖尿病治療において優れた薬剤ではあるものの、脱水や腎機能が低下した場合に重篤な副作用として乳酸アシドーシスが発現する。メトホルミンは、ミトコンドリアのグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(mGPDH)を抑制することで、脱水状態時等に乳酸濃度を上昇させる。一方、ツイミーグにはmGPDH抑制作用がないため、乳酸を基質としたATP合成を阻害しないことで乳酸アシドーシスを惹起し難いと考えられている。また、メトホルミンは、1割程度の2型糖尿病患者では消化器症状が強いために服用できない。対してツイミーグは、今のところ「強い消化器症状発症」について主だった報告はない。
 加えて、ツイミーグは、その作用機序から腎機能が低下した人にも投与しやすい薬剤であると推測される。とはいえ、慎重を期してツイミーグの添付文書は、「中等度又は重度(eGFRが45mL/min/1.73m2未満)の腎機能障害のある患者を対象とした有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施しておらず、投与は推奨されない。」となっている。  
 GLP-1受容体作動薬も、便秘や吐気のような消化器症状が少なくない。その理由は、GLP-1受容体作動薬は、胃からの食物排泄を抑制する作用によって、血糖値を上がり難くしたり食欲を抑制する効果を発揮しているからである。ツイミーグに関しては、現在のところ同剤に特異的な副作用の報告はないものの、市販後に副作用調査による検証が必要である。


 ツイミーグと他の2型糖尿病治療薬との併用における安全性・有効性については、TIMES2試験で検証されている。TIMES2試験は、日本人2型糖尿病患者を対象とした52週間のツイミーグと既存の血糖降下剤(DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、ビグアナイド薬、SU薬、グリニド薬、α-GI薬、チアゾリジン薬、GLP-1受容体作動薬)との併用療法およびイメグリミン塩酸塩単剤療法による長期での安全性および有効性を検討する非盲検、並行群間比較試験である。
 TIMES2試験では、併用する薬剤によってHbA1cの下がり方は異なる。その中で、インスリン分泌を亢進する薬剤同士のツイミーグとDPP-4阻害薬の組み合わせが最も効果が高く、他の2型糖尿病薬との組み合わせでも結構良い成績を得ている。GLP-1受容体作動薬との組み合わせた時のHbA1cの下がり方は他の組み合わせに比べて良くないが(図)、その理由はよく分かっていない。
 副作用については、インスリン分泌促進薬のSU剤との併用では少し低血糖が増加するものの、併用できない特定の2型糖尿病治療薬は無かった。

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今後のエビデンス取得で2型糖尿病の第一選択薬にも


 ツイミーグの登場により、2型糖尿病治療における選択肢が一つ増えたのはメリットである。現在、わが国の2型糖尿病における第一選択薬はDPP-4阻害薬が7割を占めている。一方、海外では、メトホルミンが第一選択薬として使用されている。
 DPP-4阻害薬は、グルコース依存的にインスリン分泌を促進する作用、メトホルミンは肝臓からの糖新生を抑制してインスリン分泌と関係なく血糖値を下げる作用をそれぞれ別々に有している。
 こうした中、その両作用を併せ持つ可能性のあるツイミーグは、一剤のみの投与で良好な血糖コントロールも期待できるため、今後、2型糖尿病治療の第一選択薬のひとつになる可能性があると考えられる。勿論第一選択薬になるには、今後、インスリン分泌促進とインスリン抵抗性改善の2つの作用を合わせ持つ薬剤であることの実証とその有効性を検証する必要がある。実際、大日本住友製薬では、そのための研究・臨床試験を予定していると聞く。


ツイミーグの服薬指導では夜の飲み忘れとSU剤併用による低血糖に注意


 ツイミーグは、半減期が12時間のため、1日2回服用する必要がある。外来診療していると、「夜に服用できない患者」や、「夜に飲み忘れる患者」がかなり存在すると感じられる。従って、ツイミーグも夜の飲み忘れを如何に防ぐかが重要である。
 また、剤形が大きいため少し飲みにくい可能性があるものの、低血糖や消化器症状の副作用は少ない。従って、特にツイミーグだから気を付けないといけない注意点はないと思われる。
 ただし、他の薬剤と併用する場合、とりわけインスリン分泌促進剤との組み合わせでは、低血糖に留意する必要がある。DPP-4阻害薬も、当初は低血糖の副作用は殆ど出ないと考えられていたが、SU剤との併用で一定の低血糖が出現したので、ツイミーグも最初のその点に十分注意する必要がある。

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