SGLT2阻害薬「カナグルOD錠」への期待 門林宗男 (前兵庫医療大学薬学部教授・元兵庫医科大学病院薬剤部長)

研究開発型製薬企業として患者・医療従事者の様々なニーズに応えた製品を提供

 「カナグル錠」(一般名:カナグリフロジン水和物錠)は、田辺三菱製薬が創製した日本オリジンのSGLT2阻害薬で、2014年9月、2型糖尿病治療薬として上市された。さらに、2022年6月20日には、「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く」について国内適応追加承認を取得した。
 その後も同社は、患者のさらなる利便性や服薬コンプライアンスの向上を目的に、口腔内崩壊錠(OD錠)の開発を推進。本年3月15日にSGLT2阻害薬初のOD錠の剤形追加承認を取得し、5月22日に「カナグルOD錠100mg」を新発売した。
 そこで、カナグルOD錠への期待とともに、同剤発売以来約10年間に渡って積み重ねてきた有用性と安全性に関するエビデンスを改めて検証したい。

カナグルを服用する全ての患者にOD錠のメリットを

 田辺三菱製薬では、「安心・安全な医薬品で患者・医療従事者の様々なニーズに応える」という理念の下、錠剤への製品名印字やOD錠の開発など同社の高い製剤技術を駆使した製品を市場に提供している。
 今回の「カナグルOD錠」も、カナグル錠を服用している患者に「利便性や服薬コンプライアンス向上などのメリットを享受して頂きたい」という観点から登場したものだ。
 カナグル錠は通常、1日1回朝食前または朝食後に1錠(100mg)服用するが、カナグルOD錠は、舌の上にのせて唾液を浸潤させると崩壊するため水無しまたは少しの水分で服用可能で、毎日服薬する患者の服用時の負担を軽減する。
 加えて、糖尿病では、様々な生活習慣病や合併症を併発しているケースが多く、1日に多くの薬剤を服用している患者が少なくない。こうしたポリファーマシーでよく聞く「服用している薬剤が多剤になればなるほど、薬を飲むときに喉への負担が大きい」という患者の声も含めて、カナグルを服用している全ての患者にOD錠のメリットを提供するのが同社のコンセプトである。
 糖尿病患者は、高齢化やポリファーマシーにより、服薬アドヒアランスが低下傾向にあり、その改善にはOD錠に期待するところが大きい。ポリファーマシーの患者では、「1錠でもOD錠になれば、飲みやすくなる」という評価がある。
 また、「糖尿病患者が多くの薬を服用する中で、OD錠が1錠だけ入ってもあまり意味がないのでは」との指摘もあるが、OD錠は口中で崩壊する薬剤であるため、多くの薬剤が喉を通過するとき、1錠でも口の中で溶けていれば飲み易くなる。
 ポリファーマシーにおける服薬アドヒアランスの向上のみならず、嚥下機能が低下した患者も、OD錠によってその課題が解決できる。多忙で飲み忘れの多い患者に対しても、また、旅先など飲用水が直ちに入手できない状況等での服薬にもOD錠は少ない水や水無しで服用できる点で大きなメリットがありアドヒアランスの向上に繋がる。
 実際、2021年6月18日にDPP-4阻害薬「テネリアOD錠」が発売され約3年間経過したが、嚥下機能低下した患者や、ポリファーマシーの患者からこうしたOD錠のメリットが医療機関からMRを通じて同社にフィードバックされている。加えて、それ以外の患者からの「医師や薬剤師に相談してOD錠に切り替えて貰って、飲みやすくなった」という声も少なくない。
 カナグルOD錠開発時の田辺三菱製薬のマーケット調査でも「SGLT2阻害薬の中でOD錠があれば興味があるか」の問いに対して、多くの患者は「興味がある」と回答している。どの患者も、「より飲みやすさを追求した改良製剤」を求める傾向にある。
 その一方で、医師は「OD錠は、飲み難さを辛いと思っている患者のオプション」と考えているケースが多く、患者と医師の認識は必ずしもマッチしていないようだ。
 田辺三菱製薬ではこれまで、新薬創製に加えて上市後もOD錠の開発や錠剤への製品名印字など、患者や医療従事者の利便性を向上する工夫を企業理念として行ってきた。カナグルを始めとする2型糖尿病治療薬への製品名印字は、識別性が高まることで、シックデイ時などで休薬しなければいけない際の取り間違え防止に寄与している。
 選択的DPP-4阻害剤/SGLT2阻害剤 配合剤「カナリア配合錠」についても、本年2月20日にOD錠の剤形追加申請を厚労省に行っている。カナリアは、服薬錠数を増やさずに血糖管理が可能で、薬剤費負担の軽減にも寄与する薬剤として医療現場で繁用されている。

有用性・安全性に関するエビデンス CANVAS試験では心血管リスクの有意な減少を確認

 カナグル発売以来約10年間培われてきた有用性と安全性に関するエビデンスとしては、まず、 2017年6月ADA(米国糖尿病学会)で発表されたCANVAS試験がある。CANVAS試験は、心血管リスクの高い2型糖尿病患者1万142人を対象とし、カナグリフロジンの心血管アウトカムを検証したプラセボ対照無作為化二重盲検試験(観察期間:平均3.1年)である。
 心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中のいずれかの発現を主要評価項目としており、カナグリフロジン投与群でプラセボ群と比較してこれらの心血管リスクを有意に14%減少させた(出典:Neal B, et al. N Engl J Med 2017; 377(7): 644-657)。

CREDENCE試験では世界で初めてSGLT2阻害薬の糖尿病性腎症に対する腎ハードエンドポイント達成

 続いて、2019年4月ISN-WCN(国際腎臓学会)では、アルブミン尿(アルブミン/Cre比)が300mg/gCre以上の顕性アルブミン尿(腎機能障害が進行してしまっている)まで進行した糖尿病性腎症を有する2型糖尿病患者4401人を対象としたCREDENCE試験結果が発表された。
 CREDENCE試験は、カナグリフロジン100mg投与による腎アウトカムを検証したプラセボ対照無作為化二重盲検比較試験(観察期間:中央値2.62年)である。主要評価項目は、末期腎不全への進行、血清Creの2倍化、腎疾患による死亡、心血管死のいずれかの発現であり、カナグリフロジン投与群でプラセボ群と比較してこれらの腎イベントリスクを有意に30%減少させた。(出典:Perkovic V, et al.: N Engl J Med 2019; 380(24): 2295-2306)
 同試験はSGLT2阻害薬による腎アウトカムを主要評価項目とした世界で初めての大規模臨床試験であり、レニン・アンジオテンシン系阻害薬に続き、18年ぶりに糖尿病患者における腎保護効果を示した試験結果として注目を集めた。

CREDENCE試験と国内P3試験により2つの適応症に対して用量の変更なく治療可能に

 その後、2022年6月、CREDENCE試験結果と追加で実施した国内P3試験結果を受け、カナグルは、「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病。ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く」の適応症を厚労省から取得した。
 この適応症取得により、新規や継続して治療可能な腎機能マーカー(eGFR)の範囲が広がった。また、2型糖尿病の適応と同じく100㎎の用量であることから、2型糖尿病から治療を開始してその後腎機能が低下して慢性腎臓病を併発したとしても2つの適応症に対して用量を変更することなく治療が可能である。そのメリットについて、患者からは「継続服用で安心感がある」、医療従事者からは「治療し易い」との評価を得ている。
 適応によって用量が変わらない1規格により、薬剤費負担を増やすことなく治療できる利点も見逃せない。また、わが国のCKD患者数は1300万人を超えており、その患者の多くが将来的に糖尿病を合併していくケースもあるので、カナグルが腎臓の適応症を有していることは多くの患者に役立つものと考えられる。

CANPIONE試験でカナグルの末期腎不全への早期進展抑制効果確認

 最近のトピックスでは、2023年10月に岡山で開催された第38回日本糖尿病合併症学会で宮本聡先生(岡山大学病院 新医療研究開発センター)が「糖尿病合併症治療の新たなエビデンス」のセッションで発表したCANPIONE試験がある。
 CANPIONE試験は、アルブミン尿が50~300mg/gCre未満の微量アルブミン尿(腎機能障害が少し進行している)を有する糖尿病性腎症合併の2型糖尿病患者98人を対象としたカナグル100mg投与による腎アウトカムを検証した試験(観察期間:52か月)である。
 主要評価項目はアルブミン尿の変化、eGFR傾きの変化という2つの腎臓に関する項目で、カナグル投与群でプラセボ群と比較して有意に抑制された(未論文化、学会発表のみ)。
 腎保護のエビデンスは、カナグル以外にも2剤のSGLT2阻害薬が有しているが、これらはいずれも有意差が付きやすい腎機能障害が進行してしまっている顕性アルブミン尿を主な対象としたP3試験で示されたものだ。
 従って、カナグルは、腎機能低下があまり進んでいない微量アルブミン尿を対象としたP3試験で腎保護の有意性が示された初めてのSGLT2阻害薬である。加齢とともに腎機能は低下するが、CANPIONE試験によって早めのカナグル投与が腎機能低下速度の遅延に貢献できることが裏付けられた。

服薬指導では適度な水分補給に留意

 2型糖尿病治療においてSGLT2阻害薬は、安全性・有効性のエビデンスが積み重ねられ、2022年後半あたりから高齢者以外の患者に対して最初に投与される傾向が強くなってきた。
 服薬指導では、その作用メカニズムから尿量や排尿回数が増えるケースがあるため、「脱水に注意し、適度な水分を補給」を促す必要がある。
 また、過剰な糖が尿と一緒に排出されるため、尿路の感染症や性器感染症に留意しなければならない。治療中に発熱、下痢、嘔吐、食欲不振のため食事が取れなくなるシックデイにも注意を要する。
 飲み忘れの対応は、「1回とばして、次の指示された時間に1回分服用する」ように指導する。
 また、2型糖尿病でのカナグルの使用では、HbA1c値を基準に効果判定を行っていたが、「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病」では末期腎不全への進展抑制を目的に使用するため、eGFRの低下速度などが基準となるため定期的な腎機能検査を推奨したい。


 

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