細胞の多様性をもつ次世代血管付属人工皮膚モデル構築に成功 ロート製薬

 ロート製薬は14日、東京女子医科大学先端生命医科学研究所の清水達也教授との共同研究により、生体皮膚が持つ複雑な「細胞の多様性」を自律的に再現する次世代の血管付属人工皮膚を構築したと発表した。
 同モデルは、従来の培養法では維持が困難だった生体皮膚に特有の線維芽細胞や血管周皮細胞様の細胞集団を培養し、生体に近い皮膚バリア機能と弾力性の獲得に成功した。
 さらに、ビタミン C が血管周囲の細胞を介して皮膚の老化兆候を改善するメカニズムの一端も明らかにした。今回の成果は、動物実験に代わる倫理的かつ高精度な評価系として、次世代スキンケア製品や医薬品開発の加速につながるものと期待される。これらの研究成果は、オンライン科学雑誌「EMBO Reports」(4月1日付)に掲載された。

図1.血管を付与する事で、ヒトの真皮間葉系細胞多様性とその機能を高度に再現した人工皮膚が開発された

 皮膚を構成する細胞は表皮角化細胞、真皮線維芽細胞など、その形や機能によって大まかに分類されてきた。近年、単一細胞遺伝子発現解析などの技術が発達した結果、同種に分類された細胞1つ1つには個性と言えるような機能や性質の差が存在することが明らかになった。
 老化とともに真皮の間葉系細胞の個性が失われることが明らかになり、肌の老化や疾患の重要な因子と考えられはじめている。だが、従来の細胞培養技術では、こうした細胞の多様性を再現・分析できないために、老化との関連性の証明やケア理論の構築が困難であった。さらに、世界的な動物実験削減の流れを受け、生体の複雑さを模倣できる高度な代替試験法が求められている。
 そこで同研究では、細胞の多様性維持に血管が重要な役割を果たすと考え、血管付属人工皮膚を構築することで人間の細胞多様性を再現した人工皮膚モデルの構築に着手した。
 さらに、人工皮膚における血管の有無を比較することで、血管に支えられた細胞多様性が皮膚にどのような影響を与えるのかについて調べた。
 一般的な人工皮膚は、表皮角化細胞と真皮線維芽細胞の2種の細胞からなる表皮と真皮の2層モデルである。まず研究チームは、表皮角化細胞、真皮線維芽細胞、臍帯由来血管内皮細胞の3種の細胞を用いて血管構造を持つ人工皮膚モデルを構築しました(図1)。
 次に、構築した人工皮膚に含まれる細胞を対象に単一細胞 RNA シークエンス解析を実施し、真皮に含まれる細胞の性質と多様性を評価した。生体ヒト皮膚の真皮には多様性のある線維芽細胞と血管周皮細胞が含まれるが、研究用にこれらの細胞を平面培養した細胞では多様性が喪失されていた。
 その一方で、構築された人工皮膚の線維芽細胞と血管周皮細胞の多様性分布パターンが生体ヒト皮膚と非常に類似したパターンであることが確認された(図2)。この結果は、従来困難とされていた線維芽細胞と血管周皮細胞の細胞不均一性の再現には、三次元環境と血管と皮膚の細胞間相互作用が重要な役割を果たすことを示している。
図1.血管を付与する事で、ヒトの真皮間葉系細胞多様性とその機能を高度に再現した人工皮膚が開発された。

図2.単一細胞 RNA シークエンスによるヒト皮膚と人工皮膚の真皮間葉系細胞多様性の比較
【試験方法】
正常ヒト表皮角化細胞、正常ヒト真皮線維芽細胞、ヒト臍帯血管内皮細胞の 3 種の細胞を使用して、①シャーレ上で培養した3種の培養細胞、②表皮角化細胞と真皮線維芽細胞の2 種の細胞で構築した従来型人工皮膚、③従来型人工皮膚に血管内皮細胞を組み込んだ血管付属人工皮膚を構築し、各サンプルの細胞について単一細胞 RNA シークエンス解析を実施。得られた網羅的遺伝子発現プロファイルデータを公開ヒト皮膚細胞データと統合したうえで主成分分析し、更に遺伝子発現の類似した細胞をクラスリングし、その結果を UMAP に二次元プロットし、遺伝子発現の類似した細胞集団を可視化した(ロート製薬研究所実施)。

 次に、血管の有無による人工皮膚の機能性を比較した。その結果、肌の保湿バリア機能、透明感等に重要な役割を果たすターンオーバー機能、しわたるみに関わる肌の弾力性について、血管付与による改善が認められた(図3)。

図3.血管導入による人工皮膚モデルの機能性変化
【試験方法】
血管を含まない従来型人工皮膚と、血管付属人工皮膚を構築し、表皮ターンオーバー、バリア機能、真皮弾力性について解析した。表皮ターンオーバーは免疫組織学的解析法を用いてKi67陽性表皮基底細胞数をカウントした。経皮水分蒸散量は Tewameter TM HEX を用いて測定した。肌の弾力性については、Cutometer MPA 580 を用いて R7 値を測定した(ロート製薬研究所実施)。

 さらに、血管の有無による人工皮膚のビタミン C に対する反応性を比較した。その結果、肌の保湿バリア機能、透明感等に重要な役割を果たすターンオーバー機能、しわたるみに関わる肌の弾力性について、血管付与によってビタミンCの有用性が増強されることが確認された(図4)。

図4.血管導入による人工皮膚モデルのビタミン C に対する応答性の変化

【試験方法】
血管を含まない従来型人工皮膚と、血管付属人工皮膚を構築し、ビタミンCを含む、または含まない培養液を用いて一定期間培養した後に、表皮ターンオーバー、バリア機能、真皮弾力性について解析した。表皮ターンオーバーは免疫組織学的解析法を用いてKi67陽性表皮基底細胞数をカウントした。経皮水分蒸散量はTewameter TM HEXを用いて測定した。肌の弾力性については、Cutometer MPA 580を用いてR7値を測定した(ロート製薬研究所実施)。

 同研究により、血管内皮細胞が存在することで線維芽細胞の多様性が誘導され、皮膚の構造や機能の維持、薬剤に対する応答性に決定的役割を果たすことが明らかになった。同研究は血管の発達や退縮によって、皮膚の老化や疾患が制御されるメカニズムの存在を示唆し、血管に着目した新たなスキンケア理論を支えるものだ。
 さらに、開発された人工皮膚モデルは、従来のモデルよりも人間の皮膚に近い生理反応を示すため、シワ・たるみ改善などの高機能なスキンケア成分の探索や、医薬品の安全性・有効性評価において、動物実験に代わる有力なツールとなり得ると考察される。

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