2分間の動画観察から自閉スペクトラム症リスク児を早期発見 早稲田大学

図形なぞり動画視聴中の子どもの様子

 早稲田大学人間科学学術院の大森幹真准教授らは、自閉スペクトラム症(ASD)の早期スクリーニングのための行動指標として、予測可能な運動刺激への選好が有用である可能性を発見した。図形をなぞる動画を見る際、予測可能な一筆書き動画と、予測不可能ななぞり動画を2つ同時に提示した場合、ASD傾向が高い子どもの方が一筆書き動画を見る割合が、徐々に増える傾向があることを明らかにしたもの。この動画観察は、短時間かつことばを使用せずに適用可能な方法であり、社会的コミュニケーションの困難さがあるとされる児童に対して、より低年齢でのASD傾向の早期発見に寄与することが期待される。
 ASDの診断基準には社会性に関する部分とこだわりに関する部分があるが、こだわりの側面からASDの早期発見を試みる研究はこれまでほとんどなかった。そこで大森氏らは、ASD児の社会性の困難さが視線機能に反映するという特徴を活かし、こだわりの特徴も視線機能に反映するかを検討した。
 ASDリスク児と非リスク児の両群に、図形をなぞる一筆書き動画およびランダム動画を同時に見て貰い、1つ10秒で約2分間の間に両方を見ていた時間の割合を「好み」(選好: preference)として算出した。 その結果、1つの図形を見る中で、6秒以降の場面ではASDリスク児が一筆書き動画を見る割合が高くなることを発見した。同研究成果は次の3点において波及効果や社会的影響につながると考えられる。

① 研究面として国内外に対して動きの予測性への視覚的選好がASDの診断基準の1つである「限定された反復的な行動様式」を反映している可能性を示したことで、これにより一層多角的なASDの理解や病態の解明にも寄与できる。

② 臨床的意義として2分程度の動画視聴による視覚的選好の非言語的評価がASDリスク児の早期発見指標として活用できる可能性を示したことにより、質問紙による過剰な主観的評価の排除や、言語発達が未熟なより低年齢の子どもたちに適用可能になると考えられる。

③ 社会的意義として、ASDの早期発見に寄与すること期待できる。

 現在でも我が国のASD診断のボリュームゾーンは3歳前後であるが、未診断や経過観察の選択等もあり、平均的な診断時期は6~7歳とされている。そのため、同研究の成果が医師の診断の補助につながり、より早期の段階で適切な支援を提供することにつながって行くことが期待される。

◆大森幹真准教授のコメント
 私は、発達臨床心理学・応用行動分析学を基盤にした発達障害児への支援が専門であり、早期支援の方法論は業界の中で蓄積されている。今回のように早期発見の方法が増えることで、経過観察を選択せずに、より円滑に早期支援へとつなげるための選択肢を提供できたと思っている。予測可能な動きへの選好や注目は、日常・保育・教育場面でも比較的観察がしやすい特徴であると考えられるので、本研究の成果がお子さんや保護者の行動変容のきっかけになることを願い、これからも研究を進めていく。

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