肝疾患治療薬「Survodutide」 P2試験で好結果 ベーリンガーインゲルハイム

 ベーリンガーインゲルハイムは5日、開発中の肝疾患治療薬「Survodutide」(BI 456906)について、MASHを対象としたP2試験において、同剤 の投与を受けた成人患者の最大で 83.0%(対プラセボ群:18.2%)に統計的に有意な改善が認められたと発表した(改善率の差: 64.8%, 〔CI 51.1% -78.6%〕, p<0.0001)。この臨床試験において、Survodutide 群では 48 週後に行った肝生検で MASHの改善を認め、かつ肝線維化ステージ(F1: 軽度、F2:中等度、F3:重度)の進行は認められず、主要評価項目を達成した 。
 Survodutideは肝線維化の統計的に有意な改善を含む、全ての副次評価項目を達成した 。詳細なデータは、今後数カ月以内に発表される予定である。また、同剤は、肥満を対象としたP3試験プログラムを既に開始している。MASHは各種の心腎代謝疾患との関連がみられる肝疾患で、SurvodutideはMASHに対するベスト・イン・クラス治療薬となる可能性がある。

 Survodutide は、新規の作用機序をもつグルカゴン受容体/GLP-1 受容体デュアルアゴニストで、MASH を対象としたP2試験でこうした有用性を示した初の治療薬候補物質である。同剤は、グルカゴン受容体アゴニストとしてエネルギー消費を増加させ 7、肝臓に直接の影響をもたらすことで肝線維化の改善に貢献する可能性がある。
 GLP-1受容体アゴニストとしては、食欲を低下させ、満腹感と満足感の向上をもたらす作用を示す。
 肝臓は、全身の代謝をつかさどる臓器で、心血管系、腎臓と代謝系に重要な役割を果たしている。MASH は、全世界の患者数が1億1500万人を超える進行性疾患で、肝臓の炎症に起因して発生し、 肝線維化に至るおそれがある。 肝臓の組織に重度の瘢痕化(肝硬変)が生じれば、末期肝疾患や肝がんのリスクが著しく高まり、肝移植が唯一の治療法となる場合がある。
 MASH は、2030 年には肝移植の最多の原因となり、保健医療システムに大きな財政負担を強いると予測されている。MASHは、患者のQOL、社会活動や、労働能力にも影響を及ぼすおそれがある。 これらの負担がある疾患であるにもかかわらず、MASH の治療として確立したものはなく、MASHを適応とする医薬品は承認されていないのが現状だ。
 P2相二重盲検プラセボ対照比較試験は、Survodutide の用量を 2.4 mg、4.8 mg および 6.0 mgの3段階として実施した。トップライン結果では、検討した全ての用量でMASHの改善を認めた。Survodutide 投与群では、高用量群である6.0mg群の患者も含め、予期されない安全性や忍容性の問題は認められなかった。
 Survodutideは、2021年に米国FDAよりファストトラック審査の対象とされている。欧州においては昨年11 月、欧州医薬品庁(EMA)が同剤を肝線維化を伴う MASH の治療薬として優先審査(PRIME スキーム)に指定した。これらの指定は、重篤な疾患に対する治療薬としてアンメットニーズを満たす可能性のある薬剤の審査を迅速に行い、重要な新薬を患者さんに速やかにお届けすることを目的とするものだ。
 Survodutideは、現在、過体重や肥満を対象とし、各種サブ集団を対象とするP3相臨床試験を5 試験実施中である。SYNCHRONIZE-1試験とSYNCHRONIZE-2試験では、サブ患者集団として、併存疾患がある患者、また2型糖尿病のない患者、2型糖尿病がある患者を含む。
 SYNCHRONIZE-CVOT 試験では、心血管疾患または慢性腎臓病を合併するか、心血管疾患の危険因子のある患者を含む。また、ベーリンガーインゲルハイムは、この他に日本 (SYNCHRONIZE-JP)と中国(SYNCHRONIZE-CN)でもP3試験を進めている。

◆同P2試験の試験調整医師であるArun Sanyal 氏(バージニアコモンウェルス大学医学部 医学・生理学・分子病理学教授)のコメント
 SurvodutideのP2試験でMASHと肝線維化にこのような有意な成績が得られたことに心を躍らせている。今回得られたデータは、Survodutide が大きなアンメットメディカルニーズのある人々にとって優れた治療薬となる可能性を示すものであり、線維化を伴う MASH の患者さんに希望をお届けするものでもある。今後、肝線維化の改善を認めた成人患者の割合などの主要な副次評価項目の結果をお知らせする予定で、今年前半の学会発表を計画している。

◆カリン・ブルヨン ベーリンガーインゲルハイムヒューマンファーマビジネスユニット担当取締役のコメント
 今回の MASH における結果は、Survodutide がベスト・イン・クラス治療薬となる可能性を示すものである。本剤が肝臓に直接働きかけるグルカゴン受容体アゴニストとして作用することが、真の差別化要因であると考えている。
 心血管疾患、腎疾患と代謝系疾患は相互に関連し、世界で10億人以上に影響を及ぼす疾患です。本剤をこれらの疾患に対する治療薬としてお届けするため、MASH における開発をできる限り速やかに進めていく。我々は、現在、MASH以外の関連疾患を対象とした Survodutideの開発を進めており、肥満を対象としたP3試験プログラムを既に開始している。

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