新分子設計と合成化学反応の提案を同時に行う機械学習アルゴリズムを開発 統計数理研究所

医薬品用分子設計事例で圧倒的な性能発揮

Scientific background. 3D render.
図の説明:分子を形成する原子の繋がり方をデザインし,その分子の反応経路を同時に提案する
 

 統計数理研究所の研究チームは23日、新分子の設計とその新分子を合成する化学反応の提案を同時に行う機械学習アルゴリズムを開発したと発表した。
 開発された機械学習アルゴリズムは、医薬品用の分子設計事例において圧倒的な性能を発揮した。同研究成果は「Science and Technology of Advanced Materials: Methods」誌で発表された。
 人工知能(AI)や機械学習の力を借りて、所望の特性を持った分子構造を設計することは、世界中多くの研究グループで検討が進み、進展が目覚ましい分野である。
 その一方で、設計された分子を、実使用に耐えうる効率とコストで合成する化学反応の発見は非常に難しい問題となっている。
 研究グループのリーダーを務めるデータ科学の研究者である吉田亮教授は、「今回開発した機械学習アルゴリズムとソフトウェアは、市販されている化合物の中から任意の特性を持つ分子を設計し、それを作るための合成経路の提案が可能である」と説明する。
 開発された機械学習アルゴリズムでは、ベイズ推論と呼ばれる統計的手法を用いる。出発材料の候補は数百万種類の化合物からなり、すべて購入することができる化合物である。広大な反応ネットワークの設計空間を高速に探索可能な計算手法を開発したことで、所望の特性を持つ化合物に至る複数の合成経路を網羅的に検出できるようになった。
 合成化学の研究者は、人工知能が提案する化合物や反応経路を概観して合成の方針を決定する。人工知能の予測には必ず誤りが含まれる。従って、誤りを含む様々なシナリオを人工知能に提示してもらい、人間はドメインの知識・理論・経験に基づいて最終的な意思決定を下すことになる。
 「医薬品用の分子設計事例では、圧倒的な性能を発揮しました」と話す吉田教授。開発手法を実装したソフトウェアはGitHubにおいて公開されている。また、高い粘度を有する潤滑油の分子を設計するコードも公開された。
 今回の研究では、低分子化合物の設計に焦点を当てている。研究チームは今後、このアルゴリズムを高分子設計用に改良する予定である。
 工業用や生物学的に重要な化合物の多くは高分子であり、新しい高分子構造の人工知能による提案も進んでいる。だが、その高分子を合成するための反応経路を見つけることは、低分子の設計以上に難しい問題だ。研究チームが提案する新技術により、その壁が打ち破られることが期待される。

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