医療分野で実績ある機械学習で材料のX線分析法を改良 理化学研究所

SPring-8には周長約1.5kmの蓄積リングがある
 

 理化学研究所の大型放射光施設SPring-8等の研究グループは21日、 医療分野で実績のある機械学習技術を取り入れ、材料の分析をより高速に、かつより少ない知見で行う方法を開発したと発表した。
 材料科学の分析において重要なプロセスである領域分割(セグメンテーション)を、より高速かつ簡便に行う方法を開発したもの。この新手法は、学術誌『Science and Technology of Advanced Materials:Methods』に掲載された。
 セグメンテーションは、材料の微細な組成を知るために使用される。ある一定の領域(セグメント)の、組成や構造特性、または特性を特定する。これは、特定の機能に対する材料の適合性と、その可能性を評価するのに役立つ。
 また、製造における品質管理や、壊れた材料を分析する際の弱点の特定にも使用できる。
 セグメンテーションは、放射光X線コンピュータ断層撮影(SR-CT)にとって非常に重要である。SR-CTは、従来の医療用CTスキャンと似ているが、ほぼ光速で蓄積リング内を周回する電子によって生成される高輝度放射光X線を使用する。
 研究チームは、機械学習が屈折コントラストCTのセグメンテーションに有効であることを実証した。特に、エポキシ樹脂など、関心領域間の密度差が小さい試料の3次元構造を可視化するのに有用である。
 同研究を推進している理化学研究所放射光科学研究センター利用システム開発研究部門物理・化学系ビームライン基盤グループの濵本諭リサーチアソシエイトによれば、これまで、放射光X線屈折コントラストCTに関する汎用的なセグメンテーション解析法は知られていなかった。
 一般的に、測定対象に知見を持つ研究者が試行錯誤しながらセグメンテーション解析を行わなければならず、放射光を専門としない研究者が放射光X線屈折コントラストCT法を利用することを困難にしていた。
 そこで、研究チームは、機械学習のうち医療分野で有用性が実証されている深層学習ネットワークモデルに転移学習を組み合わせることに解決策を見出した。既存の機械学習モデルをベースにすることで、結果を得るために必要なトレーニングデータの量を大幅に減らすことができた。
 研究グループを率いる先端放射光施設開発研究部門制御情報・データ創出基盤グループの初井宇記グループディレクターは、「私たちは、機械学習の手法を用いることで、合理的な計算コストで、さまざまな分野の研究者が専門家と同程度の精度で、高速かつ正確なセグメンテーションを実行可能であることを実証しました」と話す。
 研究グループはPoC(概念実証)分析を実施し、エポキシ樹脂内に水によって生じた領域を検出することに成功した。これは、この技術がさまざまな材料の分析に役立つことを示唆している。
 今後、この分析手法を可能な限り広く、迅速に利用できるようにするため、研究グループは、最近運用を開始したSPring-8データセンターが外部の研究者に提供するサービスとして、セグメンテーションを確立する予定である。

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