抗生物質ライソシンEの宿主因子・微生物因子の相互作用による高い治療効果発見  帝京大学

多剤耐性菌に対する治療薬への応用に期待

 京大学薬学部寄付講座カイコ創薬学講座の関水和久帝特任教授の研究グループは、抗生物質ライソシンEが既存の治療薬とは異なり宿主因子と微生物因子の相互作用を利用して高い治療効果を発揮することを明らかにした。同成果は、浜本洋帝京大学医真菌研究センター准教授らとの共同研究によるもの。
 臨床の現場では、多剤耐性菌の出現により既存の治療薬が効かない感染症が深刻な問題となっており、新規メカニズムに基づく治療薬の開発が必要とされている。
 だが、治療効果を有する新規抗生物質の発見確率の低下に加え、その開発には巨額の費用がかかるため近年の上市は非常に限られている。

表1 ライソシンEと他の抗MRSA薬のMRSAに対する抗菌活性及び治療効果の比較


 関水特任教授と浜本准教授らの研究グループは、抗生物質ライソシンEを東京大学在職中の2014年に発見して報告している。ライソシンEは、他の抗MRSA薬に比べて抗菌活性は高くないにも関わらず、極めて低用量で治療効果を示す(表1)。今回、そのメカニズムが明らかになった。
 多くの場合、血清中のタンパク質は抗菌薬の効果を阻害するが、ライソシンEでは逆に抗菌活性が血清の添加により60倍以上上昇した(表1)。そこで、関水特任教授と浜本准教授らの研究グループは、ウシ血清からライソシンEの治療効果を高める因子としてアポリポプロテインA-I(ApoA-I)を同定した。
 また、マウスおよびヒト型のApoA-IによってもライソシンEの抗菌活性は上昇した。さらに、ApoA-Iの遺伝子破壊マウスを用いた解析から、ApoA-IがライソシンEの治療効果の発揮に貢献することを見出した。この結果は、特定の宿主因子が抗生物質の抗菌活性と治療効果に寄与することを明らかにした初めての発見である。
 加えて、東京大学大学院薬学系研究科の井上将行教授らとの共同研究により、単独での抗菌活性は天然型と変わらないがApoA-Iに対する応答が低下しているライソシンEの誘導体を用いて、そのメカニズム解析を行った。

図1 ApoA-IによるライソシンEの抗菌活性の亢進メカニズム


 その結果、図1に示すステップにより、低濃度におけるライソシンEの抗菌活性がApoA-Iによって促進されることを明らかにした。マウスモデルでライソシンEが低用量で治療効果を示す理由が明らかになったことにより、ヒトでも同様の現象が起こる蓋然性が示された。
 これらの結果から、実際の臨床においても他の抗MRSA薬に比べ低用量での治療効果が期待でき、ライソシンEの臨床応用への可能性がより明確となった。また、ライソシンEについてはAMEDの創薬支援推進事業(創薬ブースター)における研究により安全性が確認されている。同研究成果により、新規抗MRSA薬の開発推進が期待される。

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