科学の発展と派遣人材の職の安定目指して    KACテクノ

緑川氏

 コロナ禍の影響で派遣社員の解雇や雇い止めに歯止めがかからない中、「社員の職の安定・生活の安定、秋田県中心、科学の発展」を経営理念に、製薬会社や機械・精密機器会社の工場への人材派遣・業務請負に奮励する人材派遣会社がある。秋田県能代市に本社を置く「KACテクノ」だ。そこで、8月25日に同社の新社長に就任した緑川将人氏に、KACテクノの企業背景や特色、今後の抱負を聞いた。

 KACテクノは、「実験動物飼育管理(アウトソーシング)」、「研究技術者派遣」、「バイオ関連受託機関」などを柱に事業展開するケー・エー・シーを親会社に持つ派遣会社だ。KACテクノの設立は、2006年にケーエーシーが杏林製薬より同社能代工場への人材派遣依頼を受けたのが皮切りとなる。当初、ケーエーシー東京事業部が同工場に人材を派遣していたが、2006年7月1日に親会社の派遣部門の一部業務を独立させてKACテクノを設立。能代市に事業所を開設して10月1日より営業を開始した。その後、秋田県内に注力するため、本年8月25日に能代事業所を本社とし、これまでの京都本社と両本社制を敷くようになった。開設以来、杏林製薬やニプロファーマを始めとする製薬会社や機械・精密機器会社への人材派遣を中心とした事業を展開している。派遣先での業務内容は、「医薬品の製造」、「同品質管理」、「同目視検査」、「動物飼育業務、バイオサイエンス関連技術の提供」、「通信関連精密機器の製造および検査、車の配線やコネクター製造」など。

 緑川氏は、KACテクノの特徴として、まず、「一般派遣のように登録者ではなく、KACテクノの正社員をクライアントに派遣している」ことを最も大きな訴求ポイントとして強調する。その上で、①秋田県能代市で15年間地元企業を中心に営業展開し、同社自身も地元企業として活動、②能代市に事業所を置いた最初の派遣会社、③一般派遣が主流の中、創業以来一貫して正社員採用、④労務管理をクライアント任せにせず、社員とのコミュニケーションを十分取れる距離で対応、⑤25歳までの若手社員研修に尽力、⑥リーダー制があり、「請負」と「派遣」の良いところを取る方法も採用、⑦製薬企業へ派遣している責任(コロナでも止められない)ーを挙げる。

 こうしたKACテクノの特徴は、大手製薬会社を主なクライアントに持ち、バイオ専門企業としての経験を有する親会社のケーエーシーに因るところが大きい。その経験が、製薬会社が持つ独自性を理解し、心臓部でもある品質管理・製造ライン・包装ラインへの人材提供を可能にしている。 加えて、創業以来、一貫して「KACテクノが正社員採用した人材を依頼先に派遣する」手法が、“社員”にも“クライアント”にも同社への確固たる信頼を生み出している。

 緑川氏は、「秋田県は地域的にも給与水準は高くなく、『派遣契約終了』となって職を失えば生活が安定しない。医薬品の製造は、責任をもって行わなければならないので、地元の方を中心に、“社員の職と生活の安定”を会社の理念にしている」と説明する。従って、KACテクノの全従業員が正社員で、「クライアントとの派遣契約が切れても、次の派遣先が決まるまで給与が保証されている」。次の派遣先も「KACテクノが見つける」仕組みで、「KACテクノに入社すれば、正社員として安心して働ける」というわけだ。従業員数は、約100人(男女比率半々)で、19~67歳までの幅広い年齢層の社員が職務を全うしている。こうしたKACテクノの企業努力が、派遣社員であっても「コロナ禍でも医薬品の供給は止められない」という強い責任感が芽生えるバックグラウンドとなっている。

 また、労務管理をクライアント任せにせず、社員とのコミュニケーションを十分取れる距離で対応できるのも正社員派遣の賜だ。労働基準法では、「派遣社員は、5年経過するとクライアント側が直接雇用しなければならない」と定められている。だが、「派遣者は既にKACテクノの正社員であるため、クライアントが熟練スタッフをそのまま継続して派遣社員として活用できる新たなメリット」も生んだ。

 その一方で、クライアント側からの「この人を直接当社で雇用したい」との依頼も珍しくないという。その場合、「KACテクノの社員にとってもクライアントにとってもメリットがあるお話しなので、転籍を認めている」と話す。

 一般派遣と差別化を図るためのKACテクノの充実した教育体制も見逃せない。25歳までの若手社員研修に力を入れており、定期的に一定の人数を集めてディスカッションを含めた中身の濃い研修を実施している。また、「ベテラン現場経験者による初期教育」、「ケーエーシーの研修所(滋賀県)活用」の二大柱による人材育成にも余念がない。前者は、現場でのOJTを中心として、本部の労働管理・教育担当者と共同で入社時はもとより、機会あるごとにスタッフケアを行っている。

 一方、ケーエーシーの研究所では、研究補助者の技術的研修を実施し、社員の能力向上に努め、クライアントの高度な技術ニーズに応えている。その一環として、HPLC(液体クロマトグラフィー)の研修を導入するなど、未経験者もひとかどの従業員に育成している。

能代本社

 KACテクノの今後の展開について緑川新社長は、「秋田にも本社を置いて、秋田県内、特に秋田市や県北の能代市、大館市に注力していく。県内製薬会社、バイオサイエンス、化学製品の企業を中心に取引を広げるて行きたい」と抱負を語る。

コメント

  1. […] に掲載されました。(2020年9月7日付) 記事の詳細はこちらをご確認ください。 […]

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