データでみる医療・医薬の世界 八野芳已(元兵庫医療大学薬学部教授 前市立堺病院[現堺市立総合医療センター]薬剤・技術局長) 第13回

第1節:食生活と栄養

(1)食生活の変遷(in19.5.28/Tue.寄稿済)

(2)食生活とライフステージ&附則「天寿を全うする」って・・・(in19.7.3/Wed.寄稿済)

(3)摂取栄養の変化 [「栄養面から見た日本的特質」:農林水産省] (in19.8.25:Sun.寄稿済)

(4)食生活に重要な栄養素 ―種類とそのはたらき―  (in19.9.26:Thu.寄稿済)

(5)栄養素の消化・吸収・代謝 (in19.10.7:Mon. 寄稿済)

(6)エネルギーの摂取と消費 (in19.11.1:Fri.投稿済)

第2節:医療と食事

  • 医療機関における食事・栄養 (in19.12.5:Thu.投稿済)
  • 疾患領域別栄養食事療法&薬物療法

 I.循環器疾患 (in20.1.6:Mon.投稿済)

II.消化器疾患

この項目では、①胃・十二指腸潰瘍(in20.3.26:Thu.投稿済)、②炎症性腸疾患(in20.5.4:Mon.投稿済)、③肝臓病(in20.6.21:Sun.投稿済)、④胆石症・胆嚢炎、⑤膵臓病の5つの疾患を取り上げ、その病態と栄養療法および薬物療法についてまとめる。

  • 胆石症・胆嚢炎

【胆石症・胆嚢炎の病態、栄養療法について(1):表1】

表1(1、2)

疾患 病態 栄養療法の原則 栄養療法の実際
膵臓病   膵臓病:膵臓から分泌される膵液には、糖質・タンパク質・脂質を消化するための酵素が豊富に含まれている。この消化酵素は、膵管を経て十二指腸に分泌されてから活性化され、消化酵素としてはたらく。しかし、なんらかの原因により、膵臓内で活性化されてしまうと、膵臓自体を自己消化し、腹痛を伴う急性膵炎として発症する。急性膵炎の原因としては、胆石・アルコールの過飲・脂質異常症などがあげられる。慢性膵炎は、膵臓に慢性的な炎症がみられる病気で、原因は明らかでないが、飲酒と胆石とは関係が深いと考えられている。 膵炎の食事療法の原則は、 ①腹痛の予防・軽減のための脂質制限と②禁酒である。 脂質の制限は、非常に厳しい制限から軽度の制限まで病状により異なる。 【管理方針(2)】 ①中等度から重症例では、循環動態が安定するまで栄養療法は行わない ②軽症例では、特にTPNの利点はない ③TPNで栄養投与を開始し、必須脂肪酸欠乏を防ぐ程度の脂肪乳剤を投与する ④診断などの目的で開腹術を行うときには、空腸瘻を造設する ⑤経口摂取は低脂肪のもの(成分栄養剤など)で開始する 次の7つの点を考慮して行う。 脂質の制限タンパク質炭水化物中心の食事ビタミン・ミネラルアルコールの制限味付け刺激物の制限

【膵臓病と食事(3)

膵臓の働き:膵臓は 腺細胞とランゲルハンス島という2種類の細胞が入り交じってできている内・外分泌の両方を営む臓器で、膵臓の主な機能である外分泌としては 腺細胞から蛋白質を分解するトリプシンなどの 消化酵素を含む膵液が消化管ホルモンと迷走神経の指令を受けて分泌される。 また、内分泌ではランゲルハンス島から2つのホルモン(β-細胞からはインスリンがα-細胞からはグルカゴン)が分泌され、これらは糖代謝を調節している。
膵炎の原因:急性期の膵炎は激しい腹痛が突然におこる。発病の引き金としては、胆石症が最も多い原因と言われている。これは胆石が膵臓の出口を塞ぎ膵液の流れを妨げておこる。また、アルコールの飲み過ぎが原因となることも多く、慢性膵炎の原因の半数はアルコールによるものである。そのほかにも、上腹部の外傷・高脂血症・感染・薬剤によるものなどがあるが、原因が解らないものもあり、暴飲暴食特に空腹時に食べ過ぎた後や飲み過ぎた後に見られることが多いとも言われている。
ホルモンとの関係:膵臓は、迷走神経によって支配されているが、また消化管ホルモンの刺激によって膵液を分泌する。これは、小腸1細胞から分泌されるコレシストキニン(CCK)*と十二指腸からのセクレチンといわれるホルモンで治療にはこの二つのホルモンの分泌を抑えることが重要になる。CCK分泌は、脂質が加水分解してできる脂肪酸によって刺激を受け、また、必須アミノ酸も関係している。一方セクレチンは胃から分泌される塩酸によって放出されるので胃酸分泌を抑えることが必要になる。

*コレシストキニン:略号CCK.パンクレオザイミン(略号PZ)ともいう.十二腸から分泌され,33個のアミノ酸からなるポリペプチドホルモン.分子量3919.膵臓からの消化酵素分泌促進作用を示す.C末端8個のペプチド(CCK-8)はCCKより活性が強く,0.02 μg/kg の静脈注射で十分な胆嚢収縮を示す.CCKは脳や末梢神経系にも存在し,睡眠や食欲に関係するといわれている.[CAS 9011-97-6]  出典 森北出版「化学辞典(第2版)」

[CAS 9011-97-6]  出典 森北出版「化学辞典(第2版)」

食事療法

<急性膵炎:急性膵炎の食事>
 [絶食・絶飲⇒水分のみ⇒重湯・果汁・野菜スープ・糖液⇒三分粥~五分粥⇒七分粥~全粥⇒ ]
急性膵炎は、激しい腹痛を伴う病気で、発病直後には胃液を刺激しないために絶食にし、非経口的に輸液による栄養補給が中心になる。症状が回復してきたら状態に応じて回復食を摂ることになるが、脂質の摂取は 原則的に1食につき10g未満になるように気を付ける。
(この状態ではCCKはほとんど分泌されないが、1食につき脂質が20g 以上になるとCCKの分泌が刺激され注意が必要になる)セクレチンは、胃のpHが4.5以下の強い酸性に傾くと分泌される。それ以外にアルコールも関係する。一日に脂質を30~40g 以下にし、1食につき10g 前後に抑える食事にする。
さらに、アルコールは禁止し、コーヒーに含まれるカフェインなどの刺激物も控えるようにする。他にもタバコもニコチンが胃酸分泌を高めるので控える。ストレスも胃液・膵液の分泌を高めるのでできるだけなくするように努め、 一度にたくさん食事を摂りすぎないことも大切である。
<慢性膵炎:慢性膵炎の食事>
慢性膵炎の原因は、アルコールによるものが大変多くみられ、慢性膵炎では、はじめは疼痛が基本的な症状で、経過と共に膵臓の機能が悪くなるため、消化吸収障害や二次性の糖尿病に伴う障害が加わってくる。疼痛期では、安静が重要で急性膵炎に準じた脂質制限の消化の良い食事となり、膵性の糖尿病や消化吸収不良(脂肪便)が出てくると栄養障害となることもあるので急性膵炎とは違い十分の脂質の摂取が必要になり、そのために糖尿病によって高血糖になってしまうためエネルギーは標準体重×30(35)kcal とし脂質の摂取は40~60g の範囲にする。一方、脂溶性ビタミンをしっかり摂る。膵炎では 脂肪の制限によって脂溶性ビタミン(ビタミンA・D・E・K)が不足するとが心配されるので、食事の中で脂溶性ビタミンを十分に摂るように注意する。
膵炎に適した料理:食事は 脂肪を控え・消化吸収がよいもの(料理)が適している。料理の一例としては、
 [主食(おもゆ・お粥・葛湯・雑炊・煮込みうどん・そうめん)⇒汁物(野菜スープ(油無し)・味噌汁(野菜・芋・豆腐)・すまし汁・白身魚汁・そうめん汁)⇒大豆製品(煮奴・冷や奴・湯豆腐・あんかけ豆腐・白和え・空也豆腐・高野豆腐煮)⇒魚料理(白身魚(おろし煮・煮魚・刺身・あらい・塩焼き・蒸し・魚すき)・はんぺん煮付け・白らすおろしあえ・海老団子)⇒肉料理(ささみと野菜のスープ煮・ささみ水炊き・ささみの煮付け・吉野汁)⇒卵の料理((急性期はできるだけ少なく)茶碗蒸し・卵汁・ポーチドエッグ・ココット・だし巻き卵・野菜の卵とじ)⇒スキムミルク(野菜ミルク煮・ミルク紅茶・牛乳葛湯)⇒野菜料理(芋の含め煮・さつまいも茶巾・きんとん・カボチャ煮付け・お浸し・焼きナス・含め煮(大根・人参・かぶ・なす)・おろし煮・煮なます果物 コンポート(リンゴ・梨)・缶詰・ゼリーおやつ 軽いせんべい・ビスケット・プリン・ゼリー・マシュマロ・ウェハース・ポーロ)]が挙げられる。

膵臓病の症状・検査・治療などについて(4)

<急性膵炎>

原因:アルコールの過飲、脂質異常症、胆石症などが原因となり、健康と思われる状態から、突然、上腹部の疝痛様発作が現れる膵臓の急性炎症で、これは膵臓の消化酵素が膵組織を自己消化するために発生する。他の隣接する臓器や遠隔臓器にも影響を及ぼす可能性がある。胆石および胆道疾患を原因とする場合は、膵液の通り道が塞がれるために発生する。日本では「アルコール」と「胆石」が急性膵炎の2大成因で、慢性膵炎からの急性膵炎は、わずかなアルコール摂取でも急性増悪の契機になる。暴飲暴食、揚げ物、クリームやチョコレートなどの脂肪食も引き金になりやすい。

症状:突然発症し上腹部痛を伴う。急性膵炎での多く場合、悪心、嘔吐、発熱、頻脈、白血球増加、血中または尿中の膵酵素の上昇がみられる。重症時には、ショック、腎不全、呼吸不全などの合併症を伴う。

改善:症状初期は、一般に比べて大量な補液を必要とするので、速やかに十分な補液が必要である。症状を感じた場合は、速やかに受診される事を勧める。

食事療法:消化の良い食事、②脂質の制限(膵臓の自己消化を強化させてしまうので、厳しく制限管理)、③蛋白質の制限(回復期初期は、脂質同様厳しく制限)、④アルコールの制限(膵障害、膵液分泌促進によるうっ滞作用等を起こすので制限)、⑤香辛料の制限(膵液分泌促進のため、制限または禁止)、⑥ビタミン、ミネラル類の不足に注意(制限のため吸収しにくい脂溶性ビタミンや、低カルシウム血症なども起こしやすいので、十分に補えるよう心がける)、⑦減塩

<慢性膵炎>

原因:飲酒によるもの(アルコール性膵炎)が最も多く約三分の二を占めているが、大量飲酒者(エタノール換算で一日150ml以上)の1~2%しか慢性膵炎を発症しないことから、飲酒に加えて環境因子や体質などの素因が関係すると考えられている。喫煙も発症および増悪に関係することが分かっている。その他に胆石によるものや稀な原因のものがある。

症状:初期では腹痛や背部痛が主な症状で、その他、吐き気や嘔吐、腹部膨満感、腹部重圧感などがある。症状が進行すると腹痛は軽減することが多いようで、痛みが軽減されても実際には膵臓の働きは弱まるので、体重減少、脂肪便、下痢、高血糖などの症状が起こることがある。

改善:通院と内服薬管理で改善する事が多いが、以下の食生活を守ることも予防改善には重要である。特に、飲酒、喫煙、高脂肪食は再発原因となりやすいので注意する。

食事療法:①油脂類の過剰摂取は避ける(揚げ物やチョコレートなど)、②良質の蛋白質としての動物性食品の選択については、脂肪の少ない種類、部位を選び、エキス分や飽和脂肪酸を多く含む食品の使用は控え、調理法に工夫する。③香辛料や刺激物は、急性期には避ける。(カレー粉、芥子、わさび、コーヒー、濃い茶、炭酸飲料、アルコールなどを避ける)、④味付けは薄味とする。⑤消化の良い食事を心がける。

膵臓病の診断について(4)

1.上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある

2.血中または尿中に膵酵素の上昇がある

3.超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある

上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断。

但し、慢性膵炎の急性憎悪は急性膵炎に含める。

【その他の膵炎の病気(5)

膵臓の病気と治療について:膵臓(すいぞう)はおなかの上の方、胃の後ろ側にある、長さ20cmほどの左右に細長い臓器で、右側のふくらんだ部分は頭部といい、十二指腸に囲まれている。左側の幅が狭くなっている部分は尾部(びぶ)といい、脾臓(ひぞう)に接している。膵臓の真ん中は体部といい、膵臓の中は、膵管という細長い管が通っていて、これが網の目のように膵臓内の細胞へと分かれる。膵臓の働きには、食べ物の中のタンパク質を溶かす「膵液」という消化液を作って膵管から十二指腸に出す「外分泌機能」と、血糖や消化液の量を調節するホルモン(インスリン、グルカゴン、ガストリンなど)を作って血液に出す「内分泌機能」がある。

膵臓の腫瘍について:膵臓にできる腫瘍には、一般的に「膵がん」と呼ばれる悪性の腫瘍や、その他にもいろいろな種類の腫瘍があるが、腫瘍の種類、状態や進行度などによって治療の方法が変わる。膵がんに対しては、一般的には他の臓器に転移がない場合、また膵臓の近くの大事な血管に広がっていない場合、手術を勧め、膵臓の腫瘍の中には、必ずしも悪性とはいえないものもあり、その場合は定期的な検査を行って、腫瘍の状態が変化するようであれば手術を勧めることもある。膵臓に腫瘍があると診断された場合は、専門病院での診察、精密検査と治療を勧める。

参考資料

(1)新看護学3 専門基礎3 食生活と栄養 ㈱医学書院 2017.2.1 p.252-253

(2)Q&Aでわかる病態別栄養管理 八野芳已著 2008年5月20日発行 ㈱医薬ジャーナル社

  p.76-80

(3)膵臓病と食事|腎臓病食・糖尿病食の全国宅配サービス …

www.atlaina.com › suizoushokuji

(4)膵炎 膵臓疾患

www.hayashigeka.org › eiyouka

(5)膵臓の病気と治療について | 国立がん研究センター 東病院

www.ncc.go.jp › hepatobiliary_and_pancreatic_surgery

タイトルとURLをコピーしました