がんや希少疾患の新たな治療法開発に期待
岐阜大学医学部附属病院泌尿器科の古家琢也教授、飛澤悠葵准教授らの研究グループは20日、細胞膜貫通型ヒアルロン酸分解酵素であるTMEM2の新たな活性制御機構を解明したと発表した。
肌のハリや保湿の有効成分として知られるヒアルロン酸は、細胞と細胞の間隙を満たす細胞外マトリクスの主要成分であり、組織の柔軟性、粘弾性を保つ重要な役割を担っている。
ヒアルロン酸は、組織内において絶えず合成と分解が繰り返され、わずか3日ですべてが入れ替わるほど高速に代謝回転する。だが、細胞外におけるヒアルロン酸分解がどのように調節されているかについては、十分に分かっていない。
同研究では、TMEM2の酵素活性には空間的に制御されたメカニズムが存在し、そのメカニズムにおいて、CD44またはLYVE-1を介した細胞表面でのヒアルロン酸の捕捉が効率的なヒアルロン酸分解に寄与することを明らかにした。同成果は、TMEM2によるヒアルロン酸分解が細胞周囲のグリコカリックス層および細胞外マトリクスの恒常性維持に重要な役割を担っている可能性を示すとともに、これらが関与するがんや希少疾患の新たな治療法開発へつながるものと期待される。同究成果は、8月12日にFrontiers in Molecular Biosciences誌のオンライン版で発表された。
生体組織は様々な細胞の集合体として構成されている。この細胞と細胞の間隙は細胞外マトリクスと呼ばれる物質によって満たされており、細胞の移動や向き、機能的な分子の受け渡し、老廃物の排除など、組織を形成する上で多様な機能を担っている。この細胞外マトリクスの主要成分はヒアルロン酸と呼ばれる機能性糖鎖である。
ヒアルロン酸は、単純な2つの単糖の繰り返し構造をとり、200万ダルトンを超える巨大分子として生体内の多くの細胞から合成される。合成されたヒアルロン酸には、様々な分解酵素が段階的に働き、わずか3日ですべてが入れ替わるほど高速に代謝回転する。ヒアルロン酸は、組織の柔軟性や粘弾性を支えるとともに、炎症や免疫応答など生体反応においても重要な役割を担っている。
ヒアルロン酸は細胞外に合成・分泌されるため、最初の分解は細胞外で起こる。研究グループはこれまでに、その役割を担う酵素として「TMEM2」を同定していた。だが、試験管内での分解活性と生体内での分解活性に乖離があるなど詳細な分解調節機構については不明なままであった。
そこで、今回の研究では細胞表面での分解活性を制御する補助分子の存在を含め、TMEM2の細胞レベルでのヒアルロン酸分解機構の詳細を検証した。

同研究ではまず同一細胞上にヒアルロン酸合成酵素HASとヒアルロン酸分解酵素TMEM2が発現する条件(Cis)と、HASおよびTMEM2がそれぞれ別の細胞に発現する条件(Trans)を比較した。その結果、両者が同一細胞上に存在するCis条件において、TMEM2によるヒアルロン酸分解活性が著しく高まることを明らかにした。
研究チームはこれまでに、ガラス上に固相化されたヒアルロン酸をTMEM2が分解することを報告していた。つまりTrans条件下におけるTMEM2を介した効率的なヒアルロン酸の分解には、ヒアルロン酸の移動性を制限するヒアルロン酸結合タンパク質の存在が必要であるという仮説を立てた。
そこで、Trans条件下においてヒアルロン酸結合タンパク質であるCD44を同時に発現させ酵素活性への影響を検証した。その結果、TMEM2とCD44を同一細胞に発現させることでTrans条件においてヒアルロン酸分解が顕著に高まることが明らかになった。
CD44以外にもヒアルロン酸結合タンパク質としてLYVE-1, RHAMM, layilin, TLR2, ICAM-1, TSG-6が報告されている。最後に、これらのタンパク質がTMEM2の酵素活性を調節し得るかをTMEM2と共発現することで検証した。その結果、リンクモジュールを有する膜タンパク質であるCD44とLYVE-1がTMEM2の活性制御に関与することが明らかになた。
ヒアルロン酸は細胞周囲のグリコカリックス層および細胞外マトリクスの主要成分であり、TMEM2の分解活性がこれらの恒常性維持に重要な役割を担う可能性が明らかになった。がん組織や指定難病である間質性膀胱炎ではグリコカリックス層や細胞外マトリクスの異常が示されているため、がん悪性化、治療抵抗性獲得のメカニズムや難病の病態解明に貢献することが期待される。
