スポーツする子どもに潜む“見えない熱中症リスク”  谷口英喜氏(済生会横浜市東部病院、医師)が解説

 近年の猛暑環境の深刻化に伴い、夏季にスポーツをする小中高校生の熱中症リスクが社会的課題となっている。こうした背景を受け、大正製薬は本年4月、全国の小中高校生の子どもがいる保護者814人を対象に、子どもがスポーツをする日の朝食習慣および熱中症対策に関する実態調査を実施した。調査結果と谷口英喜氏(済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/栄養部担当部長 医師)の「子どもの熱中症対策の重要なポイント」について解説は、次の通り。
【調査結果】

 調査結果では、スポーツをする日の朝食について、約6割の保護者が「毎回必ず食べさせている」(502人)と回答した。「ほぼ毎回食べさせている」(133人)を合わせると、約8割がスポーツをする日の朝食を意識していることがわかった。
 一方で、「時々食べさせている」(55人)、「把握していない」(45人)、「あまり食べさせていない」(31人)といった回答も見られ、スポーツをする日の朝食習慣には家庭によって差があることもうかがえる。

 また、子どもの熱中症対策に関する悩みについては、上位5位に「特に不安や悩みはない」(216人/814人、以下同)、「子どもが水分補給をこまめにしない」(187人)、「暑さに弱い/体調を崩しやすい」(116人)、「無理をしてしまう(休みたがらない)」(109人)、「朝食をしっかり食べられない」(106人)が続いた。

 併せて行った「子どもの熱中症対策の実施状況」に関するアンケート結果では、水分補給のほか、プレクーリングなどの冷却・食事を抜かないなどの熱中症対策を徹底させていない保護者が多数存在することがうかがえる。
 「こまめな水分補給をさせている」保護者も814人中527人しかおらず、厚生労働省の熱中症対策としても挙げられている「プレクーリングに役立つアイススラリー(流動性の氷状飲料)を飲ませている」という保護者もわずか340人、次いで「朝食をしっかり食べさせている」が292人、「体調が悪いときは無理をさせない」が255人、「十分な睡眠をとらせている」が246人、「スポーツドリンク/経口補水液を飲ませている」「塩分を摂らせている」が各241人という結果であった。

 いつ、どこで、誰にでも起こる可能性があるのが熱中症だ。また、熱中症の症状にいち早く気付けるかどうかも時に生死を左右する。特に子どもは、自分で体調の変化を適切に伝えられなかったり、無理をしてしまったりする傾向があるため、先回りして対策を講じることが重要である。

【谷口氏の解説】

熱中症は、水と電解質バランスの乱れによる体温調節機能の破綻

 熱中症は単なる“暑さ”による体調不良ではなく、体内の水と電解質のバランスが崩れ、発汗による体温調節機能が正常に働かなくなることで発症する。本来、私たちの体は汗をかくことで熱を外に逃がし、体温を一定に保つ仕組みを持っているが、脱水や電解質の不足が進むと発汗そのものがうまく機能せず、体内に熱がこもる状態に陥る。
 特に、子どもは体内の水分割合が成人より高い一方で、体温調節機能や発汗機能が未熟であり、さらに自ら適切に水分補給のタイミングを判断することが難しい。従って、大人以上に熱中症リスクが高いとされている。また、子どもは体重に対する体表面積の割合が大人より大きいため外気温の影響を受けやすく、環境要因にも強く左右される。皮膚や呼吸で奪われる水分(不感蒸泄)は、大人に比べて毎日体重あたり2〜3倍とされており、水分補給を怠ると脱水にもなりやすい。
 人の体は体重相当で約60%が水分で構成されており、この水分は単なる“水”ではなく、血液や細胞内外液として全身に存在し、酸素や栄養素を運搬し、老廃物を排出し、さらに体温を調整するという重要な役割を担っている。体内の水分は血液量や浸透圧の変化によって厳密にコントロールされていますが、発汗などにより水分とナトリウムが同時に失われると、このバランスが崩れ、循環機能や神経機能に影響を及ぼす。
 この状態が進行すると、血液量の低下による循環不全、体温上昇による臓器負担、さらには意識障害などを引き起こし、暑さが加わった際には熱中症へと至る。

保護者が意識すべき熱中症対策 朝食は、ゼリー飲料でも良いので摂取が重要

 保護者に絶対的に知っておいていただきたいのが、「朝食欠食」のリスクだ。朝食を摂らない状態は、すでに軽度の脱水とエネルギー不足の状態で一日をスタートすることを意味する。
 睡眠中には、不感蒸泄(呼吸や皮膚から自然に失われる水分)や発汗によって一定量の水分が失われており、起床時点で体は水分不足の傾向にある。この状態で水・糖分・電解質を補給せずに運動を開始すると、発汗による水分喪失が重なり、体内の水分バランスは急速に崩れやすくなる。
 特に、ナトリウムなどの電解質が不足すると、血液の浸透圧が変化し、水分が体内にうまく保持されなくなるため、脱水がさらに進行しやすくなる。
 さらに、血液量が減少すると、脳や筋肉への酸素および栄養供給が低下する。その結果、集中力や判断力の低下、反応速度の遅れが生じ、スポーツ時のパフォーマンス低下だけでなく、転倒や接触事故などのリスク増加にもつながる。
 運動を行う子どもの熱中症対策において、朝食を抜かないことが非常に重要である。水・電解質・糖質に加えて、たんぱく質やビタミンなどをバランスよく摂ることを心がけよう。

朝食で意識すべき栄養素と、それを補う具体的な食べものの例

・水分: 水、味噌汁、スープ、牛乳、ヨーグルト、果物(スイカ・オレンジなど)

・電解質(ナトリウムなど): 味噌汁、梅干し、漬物、塩おにぎり、スポーツドリンク系飲料

・糖質(エネルギー源): ごはん、パン、バナナ、オレンジ、はちみつ、ゼリータイプの栄養補助食品

・たんぱく質(アミノ酸BCAAなど): 鶏肉、豚肉、牛肉、魚(鮭・マグロなど)、卵、牛乳、ヨーグルト、納豆、豆腐

 BCAAは、バリン・ロイシン・イソロイシンという3つの分岐鎖アミノ酸の総称で、筋肉の材料になるだけでなく、運動時にエネルギーとしても利用されやすい栄養素である。

・ビタミンB群(エネルギー代謝): 豚肉、卵、納豆、玄米、全粒パン

・クエン酸(疲労対策・代謝サポート): レモン、オレンジ、グレープフルーツ、梅干し

・タウリン(体内環境の維持・筋肉疲労の回復): 魚、イカ、タコ、しじみ、あさりなどの貝類

朝食メニューの例

■和食ベースなら・・・
ごはん(糖質)、味噌汁(水分・電解質)、焼き魚(たんぱく質・BCAA・タウリン)、卵または納豆(たんぱく質・ビタミンB群)、果物(クエン酸・水分)

■洋食ベースなら・・・

トースト(糖質)、牛乳またはヨーグルト(水分・たんぱく質・BCAA)、卵やハム(たんぱく質)、バナナやオレンジ(糖質・クエン酸)

■時間がない・食欲がない場合・・・
ゼリータイプのカロリーのある栄養補助食品(水分・糖質・電解質・ビタミン)も有効な補給手段の一つである。特に「熱中症対策」と表示されているものは、一般社団法人全国清涼飲料連合会が示すガイドライン(飲料100mlあたりナトリウムとして40〜80mg程度を含むことが目安)も踏まえ、水分だけでなく適切な塩分や糖質のバランスが考慮された設計になっており、体内の水分保持や吸収効率の面でも有効とされている。
 食欲がない子どもでも受け入れやすく、忙しい朝にも朝食抜きにさせない実用性の高い方法といえる。

運動時の水分補給

 一度に大量の水分を摂取すると、体は急激な水分流入に対して排出を促すため、十分に体内に保持されず、効率的な補給とは言えない。重要なのは、運動前・運動中・運動後に分けて、少量ずつこまめに補給することである。
 運動時には、水に加えて電解質と糖質の補給も不可欠だ。発汗によってナトリウムなどの電解質が失われるため、水だけを摂取すると体液のバランスが崩れ、かえって体調不良を招く場合がある。
 また、糖質は筋肉のエネルギー源であると同時に、血糖値を維持し、集中力や判断力を保つ役割を担う。一般的に、体内水分の1〜2%の喪失でも、パフォーマンス低下が起こるとされており、競技力だけでなく安全性の観点からも適切な補給が重要である。
 熱中症対策として子どもに持たせる飲料については、一律ではなく、その日の環境や活動内容に応じて設計すべきだ。
 私の提唱している“飲水学”では、水分補給を“日常”、“運動時”、“脱水時”といったシチュエーションごとに分けて考える。
 日常では、3度の食事を抜かずにお水やお茶を飲めば十分である場合も多いが、運動時、特に発汗を伴う環境では、水やお茶だけでは不十分になる。汗をかくと、水分と同時にナトリウムなどの電解質が失われる。そのときに水だけを補給すると血液中の電解質濃度が薄まり、体内のバランスが崩れるため、結果的に水分をうまく保持できなくなる。
 この状態は、いわゆる“希釈性の低ナトリウム状態”を招き、脱水を悪化させる要因にもなり得る。そのため、水分補給には、電解質と糖質を適度に含む飲料が推奨される。
 目安としては、軽い運動や短時間の活動であれば水や麦茶でも対応可能ですが、30分以上の運動や高温環境下では、スポーツドリンクなど電解質を含むものの活用が有効だ。
 また、運動時に脱水傾向で体調が悪くなった時には、経口補水液を速やかに摂取されることが推奨される。経口補水液は、水と電解質を体内に効率よく吸収させるよう設計されており、医療現場でも用いられている補給手段です。保健室やスポーツ教育の管理者が常備しておき、必要な場面で早めに補給できる体制を整えておくことが重要である

体温を冷やすアイススラリーを持たせよう

 近年は、シャーベット状の微細な氷粒子を含み、体の内側から効率的に冷却できるアイススラリーを、運動する子どもに持たせるケースも増えている。アイススラリーは微細な氷が含まれていて粒が細かいため、体に触れる部分が多くなる。そのため体内で溶けるときに多くの熱を吸収し、普通の冷たい飲み物よりも効率よく体温を下げることができる。
 さらに、電解質を含むタイプであれば、水分・電解質の補給と深部体温の上昇抑制を同時にサポートできるため、熱中症予防にはおすすめだ。
 水・電解質に加えて、エネルギー補給をサポートする成分やアミノ酸なども含まれた運動をするうえでのコンディション維持に適したアイススラリーを持たせよう。

帰宅後も油断禁物!

 運動をする子どもたちについては、帰宅後もぐったりしていないか、日焼けが原因ではない赤ら顔になっていないかをきちんとチェックし、健康状態を見守ってあげる必要がある。それは、「時間差熱中症」のリスクがあるからだ。「時間差熱中症」とは、暑熱環境にさらされた後、数時間から長くて1日くらい経過してあらわれる熱中症のことである。
 運動中には問題がなくても、帰宅後や夜間に体温調節機能の破綻が顕在化し、頭痛や倦怠感、吐き気などの症状が現れる場合がある。これは、発汗による水・電解質の不足が十分に補われないまま時間が経過することで起こると考えられている。こうした症状が見られた場合には、まず涼しい場所で安静にさせ、衣服をゆるめて体を冷やしながら、水分と電解質を少しずつ補給させる。
 それでもぐったりした状態が続く、呼びかけへの反応が鈍い、まっすぐ歩けない、嘔吐を繰り返すといった場合は、すでに重症化の可能性があるので、速やかに医療機関を受診するか、救急搬送を検討しよう。

スポーツ指導者が管理すべきこと

 スポーツ中は保護者の目も行き届かないことがあり、教員やコーチといった指導者が正しい熱中症対策を学んでいることが必須である。指導者が熱中症対策として最も重視すべきなのは、環境・行動・体調の3つを総合的に管理する視点だ。
 まず環境面では、暑さ指数(WBGT)を確認し、気温や湿度に応じて練習時間や強度を柔軟に調整することが不可欠である。特に直射日光を避け、日陰や風通しの良い場所で計画的に休憩を取らせることで、体温の過度な上昇を防ぐことができる。
 次に行動面では、水分補給を「喉が渇く前」に行わせることが重要だ。子どもは自発的に水分を摂るタイミングが遅れやすいため、指導者側が時間を区切って補給を促す必要がある。
 また、水だけでなく電解質や糖質を含む飲料、ゼリー、アイススラリーを取り入れることで、効率的な脱水対策、エネルギー維持につながる。
 さらに重要なのは、体調の観察です。顔色が赤い、ぼんやりしている、動きが鈍いといった変化は初期サインであり、この段階で休ませる判断が求められる。特に寝不足や朝食欠食の子どもはリスクが高く、本人が無理をしてしまうケースも多いため、事前の把握と配慮が不可欠である。
 熱中症対策は「異変が起きてから対応する」のではなく、「起きる前に防ぐ」が基本であり、そのための観察、判断こそが保護者と指導者に求められる最も重要な役割である。

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