女性特有の症状・疾患への初期対応を支援 近畿大学東洋医学研究所

産婦人科医への全国調査で「必須漢方8処方」を明らかに

漢方診療のイメージ(写真は生成AI)

 武田卓近畿大学東洋医学研究所所長・教授らの研究グループは、女性特有の症状に対して、優先的に学ぶべき漢方処方について、産婦人科医を対象に全国調査を実施し、共通して重要と考える「必須漢方8処方」を初めて体系的に明らかにした。
  加味逍遙散 (かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散などが、女性診療において産婦人科医が重要と考える漢方に一定の共通認識があることが確認された。
 同研究で選定された8処方を基にした教育資材作成により、更年期症状やPMS(月経前症候群)など、女性診療で頻繁にみられる症状に対して、産婦人科以外の医師でも実践しやすい漢方診療の基盤となる処方群が示され、今後、一般診療や産業医領域における女性診療支援への活用が期待される。
 同研究成果に関する論文は、5月24日に日本産科婦人科学会とアジアオセアニア産科婦人科学会が発行する公式学術雑誌「Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に掲載された。
 月経困難症、PMS(月経前症候群)、更年期症状、不安・不眠などの女性特有の症状は、産婦人科診療で多くみられる。一方で、地域や勤務環境によっては専門医をすぐに受診できない場合があり、一般臨床医や産業医が初期相談・初期対応にあたる場合もある。
 こうした場面で活用しやすい漢方診療への関心は高まっているが、一般臨床医が女性診療においてどの漢方処方を優先的に学ぶべきかは、十分に整理されていなかった。
 経済産業省による「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」の調査によると、月経症状や更年期障害などによる経済損失は年間約2.5兆円に上ると試算しており、働く女性の健康支援は社会的に重要性が高まっている。
 こうした中、日本の公的医療保険制度下で広く使用されている漢方治療は、産婦人科以外の医師でも理解しやすく、比較的導入しやすい治療法として注目されている。 だが、産婦人科医以外の医師が「どの漢方処方を優先的に学ぶべきか」はこれまで明確になっていなかった。
 そこで本研究では、全国の産婦人科医を対象に調査を実施し、一般臨床医が優先的に学ぶべき「必須漢方8処方」を明らかにした。
 同研究では、令和7年(2025年)5月から9月にかけて、産婦人科漢方研究会会員1421人を対象に匿名Webアンケートを実施し、255人の産婦人科医から回答を得た。
 回答者には、女性特有の疾患を主に診療している産婦人科医の立場から、女性特有の疾患に対応する上で必要と考えられる漢方処方を最大8種類まで選択してもらい、各処方の推薦頻度を解析した。
 その結果、「加味逍遙散」、「桂枝茯苓丸」、「当帰芍薬散」をはじめとする8処方が一般臨床医が優先的に学ぶべき「必須漢方8処方」として抽出された。特に、「加味逍遙散」「桂枝茯苓丸」「当帰芍薬散」の3処方は、婦人科領域で古くから「婦人科三大処方」として広く用いられており、月経関連症状や更年期症状への中心的な漢方治療として高い支持を集めた。
 また、医師の性別や臨床経験、漢方専門医資格の有無による大きな違いはみられず、産婦人科領域において広く重要と考える漢方の共通認識が形成されていることが示された。
 同研究では、月経困難症、PMS(月経前症候群)、更年期症状、不安・不眠などの女性特有の漢方診療を一般臨床医にも実践可能な形で整理することを目的として、産婦人科医による実践知を全国規模で集約した。
 調査では34種類の漢方処方を対象としたが、推薦は一部の処方に集中しており、特に8処方が多く選択された。
 このことから、産婦人科医の間で、女性診療において中核となる漢方処方が一定程度共有されていることが示された。抽出された8処方は、更年期障害、PMS、頭痛、冷え、不安、不眠、倦怠感など、女性診療で頻繁にみられる症状に幅広く対応できる点が特徴だ。
 特に「加味逍遙散」は、更年期症状やPMSへの有効性を示した臨床試験報告もあり、女性医療における代表的漢方処方として位置づけられている。
 これらの結果は、一般臨床医が女性診療における漢方処方を学び始める際の手がかりとなるものである。今後は、今回抽出された8処方を基に初期研修医向け教育資材を作成し、一般診療や産業医領域における女性特有の症状・疾患への初期対応に活用されることが期待される。
 同研究成果は、一般診療や産業医領域での女性医療支援、漢方教育の標準化、さらには女性の健康課題への社会的対応強化につながるものと注目される。

◆武田卓近畿大学東洋医学研究所所長教授のコメント
 更年期障害やPMSなどの女性特有疾患の治療は、女性活躍推進の観点から注目されている。ホルモン補充療法やピルは有効ですが、産婦人科以外での導入には課題がある。
 一方、漢方治療は診療科を問わず処方しやすく、初期対応として有望である。今回選定された8処方を基に、全国6大学が中心となって初期研修医向け教育資材を作成中であり、今後、医学教育を通じて女性特有疾患への対応の裾野が広がることを期待している。
 

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