PfRipr5熱帯熱マラリア発病阻止ワクチンの作用機序解明 愛媛大学・大日本住友製薬

 愛媛大学プロテオサイエンスセンターと大日本住友製薬は21日、共同開発中の熱帯熱マラリア発病阻止ワクチンの作用メカニズムを解明したと発表した。これまでの共同研究で、熱帯熱マラリア原虫由来の新規の発病阻止ワクチン候補抗原PfRiprには抗原多型が少ないことを見出し、同抗原を用いたワクチンができれば高い有効性が期待できると考えられていた。
 だが、PfRiprはワクチンとしてタンパク質全体を合成するにはサイズが大きすぎる(1086個のアミノ酸から構成)ため、ワクチン開発には、PfRiprのワクチン至適部位の探索と、ワクチン開発に必須の作用メカニズムの解明が課題となっていた。
 今回、その解明が進み、PfRipr5ワクチンの作用メカニズムとして、PfRipr5抗体がマラリア原虫PfRiprと赤血球 SEMA7A とのタンパク質相互作用を阻害することにより、ワクチン効果を発揮していることが示唆された。
 現在、非臨床開発中の PfRipr5マラリアワクチンの効果を評価する際、これまでの動物実験に加えて in vitro における PfRipr タンパク質とSEMA7Aタンパク質との相互作用の阻害試験の実施も可能となり、PfRipr5ワクチン開発の加速が期待される。
 マラリアは、蚊で媒介される寄生虫病で、2005年頃から減少傾向に転じたが、2018年には依然として世界で2億人以上が罹患し、死亡者数も40万人以上に及んでいる。
 マラリア対策の切り札としてのワクチン開発は、40年間以上取り組まれてきたが、蚊からヒトへの感染を防ぐ第一世代のマラリア感染阻止ワクチンの効果は約30%と低く、より有効な次世代マラリアワクチンが切望されている。
 一方、マラリア原虫の赤血球への侵入を阻害することによってマラリアの発病を防ぐ発病阻止ワクチンは、流行地におけるマラ リア防御の切り札と考えられているが、ワクチン抗原に対する流行地マラリア原虫の抗原多型のため、研究開発が進んでいなかった。 そこで、愛媛大学プロテオサイエンスセンターと大日本住友製薬は、共同研究によるPfRipr5熱帯熱マラリア発病阻止ワクチン開発の共同研究に着手した。
 同研究は、1)PfRipr全長中のワクチン至適部位の解明、2)PfRiprワクチンの作用メカニズムの解明のため、PfRiprと相互作用する赤血球タンパク質の探索を目的に実施された。先ず、PfRipr全長から約200個のアミノ酸から構成される 11種類の分断体タンパク質をコムギ無細胞タンパク質合成法により作製し、それぞれに対するラット抗体の熱帯熱マラリア原虫赤血球侵入阻害活性を測定した。
 その結果、PfRipr全長中の侵入阻害活性部位はPfRipr5領域の1ヶ所のみに存在し、PfRipr5抗体はPfRipr全長抗体と同等以上の優れた侵入阻害活性を示した。従って、PfRipr5が有望な熱帯熱マラリア発病阻止ワクチンであることが判明した。
 次に、コムギ無細胞タンパク質合成法により主要なヒト赤血球表面タンパク質を13種類作製し、PfRipr とのタンパク質相互作用を探索した結果、組換え PfRiprタンパク質がSEMA7A 組換えタンパク質と結合し、さらに赤血球のSEMA7A タンパク質と結合することを見出した。さらに、PfRipr5に対する抗体は、PfRipr-SEMA7Aタンパク質相互作用を阻害した。これらの結果から、PfRipr5ワクチンの作用メカニズムとしては、PfRipr5抗体がマラリア原虫PfRiprと赤血球 SEMA7A とのタンパク質相互作用を阻害することにより、ワクチン効果を発揮していることが示唆された。
 現在、非臨床開発中の PfRipr5マラリアワクチンの効果を評価する際、これまでの動物実験に加えて in vitroにおける PfRiprタンパク質とSEMA7Aタンパク質との相互作用の阻害試験も実施することが可能となり、PfRipr5ワクチン開発の加速が期待できる。
 同研究の実施にあたっては、日本学術振興会科学研究費と大日本住友製薬の支援を受けている。
論文の概要は次の通り。
 ◆タイトル:Antibodies against a short region of PfRipr inhibit Plasmodium falciparum merozoite invasion and PfRipr interaction with Rh5 and SEMA7A、(和訳)熱帯熱マラリア原虫PfRiprの赤血球側のレセプタータンパク質 SEMA7A の発見とそれらの結合を阻害し原虫の赤血球侵入阻害抗体を誘導する PfRipr 最小領域を決定
 ◆著者(敬称略):長岡ひかる(愛媛大学)、カノイ・バーナード(愛媛大学)、ンテゲ・エドワード(愛媛大学: 研究当時)、青木正光(大日本住友製薬)、福島晃久(大日本住友製薬)、坪井敬文(愛媛大学)、高島英造(愛媛大学)
 ◆掲載誌:Scientific Reports
Journal link: https://www.nature.com/articles/s41598-020-63611-6
 ◆掲載日:本年4月20日

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