2022年12月期業績と自社製品の開発状況 アンジェス

 アンジェスの2022年12月期業績(2022年1月1日~2022年12月31日)は、売上高6700万円(対前年比4.5%増)、営業利益△96億9100万円(-)、経常利益△80億円(-)、当期純利益△81億1500万円(-)、1株当たり当期純利益△52円となった。
 同社は、遺伝子の働きを利用した「遺伝子医薬」の開発・実用化を目指し、研究開発を行う創薬系バイオベンチャーだ。遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指して、自社における医薬品の開発及び開発パイプラインの拡充のための国内外企業との共同開発、業務提携、資本参加等を積極的に行っている。
 当連結会計年度の事業収益は前年同期に比べ200万円増加し6700万円(前年同期比4.5%増)となった。同社グループでは、HGF遺伝子治療用製品「コラテジェン」の条件及び期限付製造販売の承認を取得し、2019年9月から田辺三菱製薬より販売しているが、当面の治療に必要な数量を前年度中に概ね出荷完了しているため、同連結会計年度での製品売上高は1100万円(前年同期比2300万円の減少)となった。
 一方、アンジェスクリニカルリサーチラボラトリー(ACRL)において前2021年度第3四半期連結会計期間より実施している希少遺伝性疾患のオプショナルスクリーニング検査は安定的に推移し、手数料収入として5500万円(同2500万円の増加)を計上した。
 当連結会計年度における事業費用は、前年同期に比べ6億8700万円増加し、163億8300万円(同4.4%増)となった。
 売上原価は、前年同期に比べ3700万円増加し、9300万円(同65.5%増)となった。当連結会計年度における「コラテジェン」の出荷本数は前年同期より減少したが、使用期限切れによる廃棄が見込まれる製品の評価損を計上したため、製品売上原価が前年同期に比べ400万円増加し、2500万円(同23.9%増)となった。 ACRLにおける希少遺伝性疾患のオプショナルスクリーニング検査にかかる原価は、受託数の増加により前年同期に比べ3200万円増加し、6800万円(同89.5%増)となっている。
 研究開発費は、前年同期に比べ2億1500万円増加し、109億9900万円(同2.0%増)となった。
 Emendo社における円安基調に伴う為替換算による費用増加に加え、ゲノム編集治療の開発費用の増加及びVasomune社との共同開発品であるTie2受容体アゴニストについて共同開発費当社負担分を計上したこと等により、外注費が3億5400万円増加している。 また、主にEmendo社の人員の増加により、給料手当が2億8600万円増加している。
 一方、新型コロナウイルス感染症予防DNAワクチンの目標症例の投与が完了したことにより、研究用材料費が2億6700万円減少している。また、新型コロナウイルス感染症予防DNAワクチンの研究にかかる研究用消耗品等の減少により、消耗品費が3億1400万円減少している。
 同社グループのような研究開発型バイオベンチャー企業は先行投資が続くが、提携戦略などにより財務リスクの低減を図りながら、今後も研究開発投資を行っていく予定である。
 当連結会計年度の経常損失は前年同期に比べ10億2100万円拡大し、146億1000万円(前年同期の経常損失は135億8800万円)となった。日本医療研究開発機構(AMED)より採択された「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」の助成金に関して、すでに入金が行われ前受金に計上していたが、同連結会計年度において2021年度分の確定検査結果通知を受領したため、1億1800円を前受金から補助金収入に振替えている。
 また、Vasomune社が米国及びカナダにおいて獲得した助成金について、同社開発費負担分に応じて2億7500万円を受領し、補助金収入に計上している。
 この結果、補助金収入は3億9300万円となった。さらに、為替の円安に伴い、外貨預金及びEmendo社への貸付金の評価替を行った結果、為替差益が13億2200万円発生している(前年同期は5億9900万円の為替差益)。
 当連結会計年度の親会社株主に帰属する当期純損失は、10億3900万円拡大し、147億1400万円(前年同期の親会社株主に帰属する当期純損失は136億7500万円)となった。前年同期においては、ストックオプションの権利行使期間終了による権利失効に伴い新株予約権戻入益を3200万円計上したが、当期においては300万円の発生となった。
 アンジェスの開発プロジェクトについては、国内における慢性動脈閉塞症を対象疾患としたHGF遺伝子治療用製品の開発では、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」により再生医療等製品の早期実用化を目的とした「条件及び期限付承認制度」を活用。2019年3月に国内初の遺伝子治療用製品「コラテジェン」として、慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善の効能効果で条件及び期限付承認を取得し、2019年9月10日より発売を開始している。
 2021年末に製造販売後承認条件評価のための目標症例数である同品投与120例、比較対照80例の患者登録が完了し、2023年春に予定している本承認に向けた申請の準備を進めている。
 一方、HGF遺伝子治療用製品の適応拡大を目的として、国内において臨床試験を進めていた慢性動脈閉塞症における安静時疼痛については、主要評価項目である「投与12週後の安静時疼痛の投与前値からの変化量」においてプラセボ群に対して有意差を見出せなかったことから、開発の中止を決定した。
 米国における開発については、2020年1月より、下肢潰瘍を有する閉塞性動脈硬化症を対象とした後期P2相臨床試験を実施しており、2022年末までに当初目標の60例の投与を完了。さらに、脱落例をふまえ、2023年第1四半期に数例の登録追加を予定している。2023年度においては、投与後の経過観察を実施する。
 その他、イスラエルにおけるHGF遺伝子治療用製品の販売に向け、同社の提携先企業Kamada社は、2022年、イスラエル保健省に製造販売承認申請を提出し、受理されている。また、トルコにおける当社提携先企業Er-Kim社は、トルコ政府の財政面の問題から、販売に向けた準備が停滞している。
 アンジェエスは、HGF遺伝子治療用製品「コラテジェン」の日本及び米国における末梢性血管疾患を対象とした独占的販売権許諾契約を田辺三菱製薬と締結している。

【アンジェスの自社製品開発状況】

◆NF-κBデコイオリゴDNA
 核酸医薬NF-κBデコイオリゴDNAについては、米国において椎間板性腰痛症を含む腰痛疾患を適応症とした開発を進めている。2018年2月より実施した椎間板性腰痛症を対象とした後期P1試験は、投与後の観察期間6ケ月間に続き、12ケ月間を経た結果でも、患者の忍容性は高いうえ、重篤な有害事象も認められず、安全性を確認できた。
 さらに、探索的にデータを評価したところ、患者の腰痛の著しい軽減とその効果の持続が認められ、有効性も確認できた。
 今後の開発計画は、日本国内において開発を進めていく。NF-κBデコイオリゴDNAのその他の開発については、これまで「キメラデコイ」の開発を進めていたが、今後は、薬剤を目的の場所に効率よく届けるためのドラッグデリバリーシステムの開発を含め、NF-κBデコイオリゴDNAの対応疾患領域や対象地域の拡大を目指して進めていく。

◆高血圧治療用DNAワクチン
 高血圧治療用DNAワクチンは、オーストラリアでのp1/2試験は重篤な有害事象はなく、安全性に問題がないことを確認し、アンジオテンシンⅡに対する抗体産生を認めた。分析結果は、論文としてHypertension Researchに掲載し、第43回日本高血圧学会総会Late Breaking Abstractでも発表した。
 今後の開発については、プラスミドDNAの発現に関して、新型コロナウイルスのDNAワクチンとは異なる改善策などの検討を進めていく。

◆新型コロナウイルス感染症予防DNAワクチン
 アンジェスは、2020年の新型コロナウイルス感染症(武漢型)の感染拡大を受け、プラスミドDNAの技術を用いたワクチンの開発を開始し、臨床試験を実施した。この結果、安全性において問題はなく、細胞性免疫においてある程度の上昇を確認したものの、液性免疫については期待する効果を得ることができず、これまでのワクチン開発の中止を決定した。
 一方、これまでの研究開発の知見を活かし、プラスミドの発現効率や導入効率の向上等、プラットフォームの見直しを行い、並行して、将来発生する可能性のある新たな変異株を視野に入れた改良型DNAワクチン並びにワクチンの経鼻投与製剤の研究を開始した。
 この新たなDNAワクチンの研究は、米国スタンフォード大学と共同で実施していく。

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