ナノ医薬品の品質管理など微量サンプルでの評価への活用に期待

東京大学大学院工学系研究科の一木 隆範 教授らの研究グループは7日、ナノ粒子トラッキング法(NTA)で取得されるデータのAI(深層学習)解析により、液中の非球形ナノ粒子の形状を80%以上の精度で識別できることを実証したと発表した。
今回、粒子のブラウン運動の軌跡に加えて散乱光のゆらぎを統合した情報を、1次元CNNと双方向 LSTMを組み合わせた深層学習モデルで解析した。球形・棒状・板状の金ナノ粒子を対象にした評価では、従来の解析法では捉えきれなかった光学的・動的情報を引き出し、形状識別性能を向上できることを示した。
さらに、同手法は計測データ中に潜在していた光学的情報を抽出できるため、非球形粒子の性状評価や凝集挙動の解析、環境ナノ粒子のモニタリング、ナノ医薬品・材料の品質管理など、多様なナノ粒子評価への展開が期待される。
なお、同成果は本年7月3日付で、米国化学会が発行する科学誌「ACS Applied NanoMaterials」に正式版が掲載された。
ナノ粒子の形態は、その運動特性や光学応答、生体との相互作用を左右する基盤的要素であり、ドラッグデリバリー、細胞外小胞の機能解析、診断用プローブ設計など、バイオ材料としての性能を決定づける。
特に、液中でのナノ粒子の形態学的特性評価は、コロイド系やバイオナノ系における構造と機能の関係性を理解する上で不可欠である。標準的な NTA 測定では粒子のブラウン運動の軌跡と散乱光強度が同時に記録されるが、従来の解析では軌跡の統計的解析が中心で、得られるのは粒子サイズに関する情報にほぼ限られ、形態を特徴づける要素の一つである形状に関わる光学的・動的情報は十分に活用されていなかった。
これまでに一木教授のグループでは、従来法では利用されていなかったブラウン運動の軌跡を深層学習モデルに学習させることで形状推定を可能にする手法を開発してきた(関連情報参照)。だが、軌跡だけでは形態に関連する情報を十分に捉えきれないケースが残されていた。
そこで同研究では、軌跡に加えて散乱光のゆらぎを統合し、両者を併せて学習する新しいフレームワークを構築した。このモデルにより、粒子の運動と光学的応答の双方を時系列として学習させることで、従来活用されていなかった情報を高精度に抽出し、形状識別の性能を向上させた。
同研究で構築した深層学習フレームワークでは、ブラウン運動軌跡と散乱光のゆらぎから抽出した学習特徴量を統合し、1次元CNNと双方向LSTMを組み合わせたモデルにより学習を行った(図 1)。
球形・棒状・板状の金ナノ粒子を対象とした評価では、いずれか2種類の粒子を見分けるタスク(2 クラス分類)において性能が向上し、従来の単一特徴モデルで見られた低精度のケースが大幅に改善された。
100 フレーム(約 1 秒分)のデータを用いた場合には、この2種類の識別で0.82を超える精度を達成した。さらに、3クラス分類でもクラス平均で約 80%の分類正答率を示した。
また、粒子数が限られる条件や、データが短く、約 20 フレーム(約 0.2 秒分)しか得られない条件でも安定した性能を維持し、実際の計測環境における堅牢性が示された。

この統合アプローチは、従来のNTA測定データに潜在していた形態に関連する光学的情報を引き出し、液中ナノ粒子の形態評価を実用的かつ拡張可能な形で実現するものだ。特に、同手法はごく少量のサンプルしか得られない状況でも高い識別性能を維持できるため、生物医学診断や環境ナノ粒子モニタリングなど、微量サンプルでの評価が求められる応用領域において有用性が高いと考えられる。
また、細胞外小胞の特性評価やナノ医薬品の品質管理など、バイオ材料としてのナノ粒子の機能評価においても、形状情報を含む多面的な解析が可能となる点で大きな意義がある。

