
奥寺正美氏は、星座やラッキーモチーフの作品を中心に、縁起物や“希望”をテーマとした作品を全国百貨店で発表している現代アーティストだ。これまでにGINZA SIXでの個展をはじめ、全国の百貨店で展示を行い10年の実績を誇る。
病院の壁などに絵を描いて、患者やその家族の精神を和ませるホスピタルアート展示や、老人ホームでのぬり絵教室で活躍するなど、医療分野にも造詣が深い奥寺氏。その作品は、金箔やスワロフスキー、偏光顔料、アクリル樹脂などを用いたミクストメディア(混合技法)、抽象表現の中に星や願いの物語を重ね、“現代の縁起物”として展開している。
医療分野への繋がりは、奥寺氏の絵画から溢れ出る‟気持ちを和ませてくれる温かみ”と‟幸運を運んでくれそうな期待”を感じる不思議な力によるところが大きい。
6月17日から23日まで大丸京都店で開催された個展「幸せな巡り合わせ」では、奥寺氏が絵画教室や老人ホームなどで実施してきた対話型絵画鑑賞(VTS)を披露し、来場者の注目を集めた。
VTSは、専門的な知識や歴史的背景を暗記するのではなく、グループで作品を観察し、気づきや感じたことを自由に語り合う鑑賞法で、1980年代半ばにニューヨーク近代美術館(MoMA)で開発された。海外では、教育やビジネス、医療の現場でも活用されている。
2025年英キングス・カレッジ・ロンドンの研究チームが発表した研究結果によると、肉筆の作品鑑賞では血中のコルチゾール(ストレスホルモン)レベルを平均22%、複製の鑑賞では同8%低下した。絵画鑑賞に加えて、VTSの実践により、観察力の向上、批判的思考力の育成、コミュニケーション力の向上、深い内省が期待される。
内省とは、自分の考えや行動を客観的に深く見つめ直し、その背景にある感情や価値観を探求する行為を意味する。
こうした背景のもと、奥寺氏は、これまで行ってきたVTSの経験をもとに、改めてVTSの開発者から学んだファシリテーターの指導を受けた後、大丸京都店の個展において希望者に対するVTS(鑑賞者5名以上、無償)を実施した。

実際、VTSとはどういうものか。奥寺氏の個展で展示された絵画「こぐま座・おおくま座‐Galaxy Galaxy- 」を例に紹介したい。
北斗七星を含むこぐま座は、古くから北の空の道しるべとして親しまれてきた。空には、親子や家族をモチーフにした星座神話が数多く存在する。この作品では、おおくま座とこぐま座が北極を軸に巡り続ける姿を通して、形が変わっても失われない“繋がり”が描かれている。奥寺氏が子供を初めて出産した頃に作成した作品でもある。
こうした知識を提供することなく、奥寺氏の「この絵を観てどう思いましたか?、何が起こってますか?」の問い掛けに、来場者は「横を向いて見守っている感じが温かい」、「親ぐまがこぐまを包む姿から母性を感じる」、「後ろの星座の色彩(青)は冷たい色で、黄や赤を含むくま親子の姿から感じる温かさをがより引き立っている」など様々な感想を述べる。
奥寺氏は、「絵画には、正解も不正解もないので、他人の意見を聞いて、こんな見方もあるのかと内省が起こり、脳の活性化に繋がる」と話す。
VTSの成果については、言葉ではない絵画を言葉として言語化するため、「小学生の作文能力が上がった」という報告がある。奥寺氏が携わる老人ホームにおいても、VTSを行った後に絵を描いて貰うば、脳の活性が上がって積極的に取り組む姿がみられた。老人のQOL向上に繋がっていくという。
海外では、早朝に美術館へき、VTSのワークショップを受けて脳を活性化するビジネスマンの姿は珍しくない。VTSによる内省は、一人で決断を迫られる社長業にも適しているという。
また、医学生の授業にVTSを取り入れることで、洞察力が向上してMRIなどの画像からがんを読み取る能力が向上する成果を挙げている。
日本でもVTSによる脳の活性化の活用が浸透しつつあり、今後の動向が注目される。
なお、奥寺氏は、7月22日から27日まで山陽百貨店姫路店催事展示「燦美会」(7月22日~24日在廊予定)、8月13日から19日まで京阪百貨店守口店美術画廊個展「奥寺正美作品展」(8月13日~16日在廊予定)において、今回同様の作品を披露する。




