免疫細胞と協力し腫瘍消失させる新たな作用機序解明
岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科の本田諒准教授らの研究グループは、がんで高頻度に変異する「RAS」を標的とするタンパク質型pan-RAS阻害薬候補「RRSP-RBD」を開発した。
RASは細胞の増殖や生存を制御する重要なタンパク質であるが、RAS遺伝子に変異が生じると、膵がんや大腸がん、肺がんなど多くのがんで治療抵抗性や再発の原因となる。
一部のRAS変異を標的とする薬剤は実用化されつつあるが、多様なRAS変異を幅広く標的とする治療法は限られていた。
同研究では、RASを切断する細菌由来の酵素RRSPにRAS結合ドメインを融合することで、細胞内でRASを効率よく不活化するタンパク質を設計した。加えて、細胞内送達システムを組み合わせることで、マウスがんモデルにおいて腫瘍の縮小と消失を誘導することを確認した。
また、腫瘍の消失にはがん細胞内のRAS阻害だけでなく、IFNγとCD8陽性T細胞を介した腫瘍免疫が重要であることを明らかにした。同研究成果は、2026年5月16日に国際学術誌「Nature Communications」のオンライン版で発表された。

RASは、細胞の増殖や生存を制御する重要なタンパク質であるが、KRAS、HRAS、NRASを含むRAS遺伝子の変異は、膵がん、大腸がん、肺がんなど多くのがんに関与している。
近年、一部のRAS変異を標的とする薬剤が臨床応用されつつあるが、多様なRAS変異を広く標的とする治療法は限られていた。
同研究グループは、低分子薬とは異なるアプローチとして、RASそのものを直接認識し、切断して不活化する「タンパク質型阻害薬」の開発に取り組んだ。
その結果、RASを切断する酵素RRSPと、RASに結合するRAS結合ドメイン(RBD)を融合した「RRSP-RBD」を設計した。RBDを組み込むことで、RRSPがRASの近くに集まりやすくなり、RAS切断とRASシグナル抑制が強化された。
また、RRSP-RBDに細胞内送達システムを組み合わせることで、がん細胞内へタンパク質を届けることに成功した。ジフテリア毒素由来の送達ドメインを用いたRRSP-RBD-DTBは、ヒトがん細胞に対して極めて低濃度で抗腫瘍活性を示した。
細胞膜透過性ペプチドTATを用いたRRSP-RBD-TATは、免疫機能を持つ一部のマウスがんモデルで腫瘍の縮小と消失を誘導した。さらに、CD8陽性T細胞やIFNγを除去すると、RRSP-RBD-TATによる腫瘍壊死が抑制された。
この結果から、RRSP-RBD-TATの効果には、がん細胞内のRAS阻害に加えて、IFNγとCD8陽性T細胞を介した腫瘍免疫が関与することが分かった。薬物動態および毒性評価では、RRSP-RBD-TATが腫瘍内へ到達し、実験条件下で不可逆的な毒性を示さないことも確認された。
同研究は、RASを標的とするタンパク質型阻害薬が、腫瘍免疫と連携して腫瘍消失を誘導することを示したものだ。今後は、より効率的な細胞内送達技術の開発、投与条件の最適化、長期的な安全性評価を進めることで、難治性RAS変異がんに対する新しい治療戦略につながるものと期待される。
なお、同研究はマウスモデルを用いた前臨床段階の成果であり、ヒトでの有効性・安全性については、さらなる検証が必要となる。

