国内自己免疫性小脳失調症全国実態調査で早期治療による症状改善の可能性示唆 北海道大学

 北海道大学大学院医学研究院の藤井信太朗特任助教らの研究グループは、Japan Consortium of autoimmune cerebellar ataxia (JAC-ACA) groupとして自己免疫性小脳失調症(autoimmune cerebellar ataxia:ACA)に関する全国調査を実施し、その結果を公表。全国830施設の調査結果から、日本における診療の実態と課題を解明し、早期診断早期治療が重要である一方で、迅速な診断が困難な現状が示唆された。
 小脳性運動失調症は、小脳の障害により「ふらつき」「歩きにくさ」「ろれつが回りにくい」などの症状を生じる疾患の総称である。日本では約4万人の患者がいるとされ、そのうち約1万人は原因が分かっていない。
 近年、この原因不明の小脳性運動失調症の一部が、免疫の異常によって起こる「自己免疫性小脳失調症」である可能性が報告されている。この疾患は免疫治療によって改善する可能性があるため、早期診断が重要と考えられている。
 だが、自己免疫性小脳失調症は診断方法が十分に確立されておらず、全国的な実態も明らかになっていなかった。
 そこで同研究では、日本神経学会の教育施設など全国830施設を対象に、臨床的に自己免疫性小脳失調症と診断された患者(clinically diagnosed ACA:cdACA)について調査を行った。対象施設で155例の患者が確認され、そのうち詳細な臨床情報が得られた92例について解析を行った。
 その結果、免疫治療を受けた患者の約3分の2で症状の改善がみられた。また、発症から治療開始までの期間が短い患者ほど、治療効果が得られやすい傾向が示された。
 同研究は、日本における自己免疫性小脳失調症に関する診療実態を明らかにした全国調査だ。今後、抗体検査体制の整備や診断基準の確立につながることが期待される。なお、同研究成果は、3月17日に神経学分野の国際学術誌「Journal of Neurology」にオンライン掲載された。
 近年、原因不明の小脳性運動失調症の一部は、免疫の異常によって発症する「自己免疫性小脳失調症」であることが報告されている。この疾患は免疫治療によって改善する可能性があるため、「治療可能な小脳失調症」として注目されている。
 一方で、自己免疫性小脳失調症は診断に用いる抗体検査の体制が十分に整っておらず、国際的にも診断基準が完全には確立されていない。また、全国規模で診療の実態を調べた研究もほとんどなかった。
 そこで研究グループは、日本における自己免疫性小脳失調症の診療実態を明らかにすることを目的として、臨床的に自己免疫性小脳失調症の診断に至った例の全国調査を実施した。
 同研究では、日本神経学会の教育施設及び准教育施設など、神経疾患の専門診療を行う全国830施設を対象として調査を行った。まず一次調査として、2022年1月から12月までの1年間に臨床的に自己免疫性小脳失調症と診断された患者数を調査した。
 その結果、453施設から回答があり、そのうち85施設で計155例の患者が報告された。次に二次調査最終的に92例の患者について解析を行った。解析では、発症年齢、性別、症状、悪性腫瘍の有無、髄液検査、自己抗体、画像所見、免疫治療への反応などを検討した。なお、同研究は北海道大学病院臨床研究管理センターより承認を受け実施した。
 解析の結果、臨床的に診断された自己免疫性小脳失調症92例のうち80例が免疫治療を受けており、そのうち53例(約66%)で症状の改善がみられた。なお、この92例中悪性腫瘍が合併していた症例は25例であった。悪性腫瘍を合併していた25例では、小細胞がんが12例と最多であり、乳がんと卵巣がんが次いで多い結果となっている。
 また、治療が有効であった患者では、発症から治療開始までの期間が短かく、悪性腫瘍を合併率が低いことなどが関連していた(図1)。一方で悪性腫瘍が合併していた症例の一部でも悪性腫瘍治療と免疫療法で症状の改善を認めた症例も一定数存在する可能性が示された。

図1. 臨床的に自己免疫性小脳失調症と診断された例の治療反応性(生成AIを用いて作成)

 さらに欧米で提案されている診断基準と比較したところ、臨床的に自己免疫性小脳失調症と診断された患者の多くが既存の診断基準を満たさないことも分かった。
 この結果は、現在の診断基準では実際の臨床現場の症例を十分に捉えきれていない可能性や、自己免疫性小脳失調症の診断に難渋する現状を示しているものと考えられる。
 同研究により、2022年時点の日本における自己免疫性小脳失調症の診療実態と課題が明らかになった。自己免疫性小脳失調症は早期に診断し治療を開始することで、症状の改善が期待できる可能性がある。
 その一方、疾患概念が未確立であるため正確な診断が困難な実情がある。必要な患者に対して十分な治療を行うために、正確で迅速な診断方法と診断基準の確立が望まれる(図2)。

図2. 自己免疫性小脳失調症の診断に関する問題点(生成AIを用いて作成)

 また、自己免疫性小脳失調症は歴史的にも傍腫瘍性症候群として疾患概念が確立してきた経緯があり、今回の調査においても悪性腫瘍の合併が重要なポイントの一つであったと考えられる。近年の悪性腫瘍治療進歩に伴い、傍腫瘍性症候群の観点からも自己免疫性小脳失調症への注目がさらに必要と考えられる。
 同研究グループでは本邦での抗体測定系の確立と抗体測定を継続している。また、全国の研究機関と連携し、自己抗体を含めたバイオマーカーに基づく自己免疫性小脳失調症の診断方法の確立と治療法の発展を目指した研究を継続している。将来的にはこのようなバイオマーカーに基づいた再度の全国調査も考えている。
  

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