オプジーボによるがん免疫療法の登場で進行期がん患者にも新たな希望 小野薬品とブリストル・マイヤーズ スクイブ

オプジーボ国内承認10年契機に記者セミナー

 小野薬品とブリストル・マイヤーズ スクイブは24日、東京都内で「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)によるがん免疫療法のいまとこれから」をテーマにメディアセミナーを開催した。
 同セミナーは、抗PD-1抗体「オプジーボ」が2014年に国内で承認されてから10年の節目を迎えたことを契機に実施されたもの。セミナーでは、この10年間でICIによるがん免疫治療が、「医師からがん治療の選択肢として広く認知されてきた一方で、がん患者にはまだ深く認知されていない」現状や、「副作用を理解した上でのICI投与が重要となる」、「進行期のがん患者に新たな希望を与えた」ことなどが報告された。

相良氏

 開会のあいさつで相良暁小野薬品代表取締役会長CEOは、まず、「オプジーボは、2014年7月4日に承認を得た。その時、日本でのオプジーボの承認と米国でのキイトルーダの承認のどちらが早いか熾烈な戦いをしていた。オプジーボが2カ月早く承認され、発売も2日早く世界初のICIの冠を付けることができた」と明かした。
 さらに、「オプジーボの臨床試験を始めた時は、なかなか信用して貰えず、『こんなもの効いたら頭丸めたる』と多くの医師に言われ、実際に患者に使う優先レベルも低く、1例1例エントリーしてもらったが、最初に効果のある患者が出たため治験は比較的順調に進んで行った」と研究開発当初の苦労を紹介。
 その上で、「この10年間でオプジーボは、国内で19万人に患者さんに使われたと推定している。中には、とてもよく効いたと感謝のお手紙も頂き、我々の大きな励みとなった。一方、度重なる薬価切り下げ、アカデミアや競合製薬企業との特許係争があり感慨深い10年間であった」と振り返り、「ICIによるがん免疫治療の認知度は高くなってきたが、免疫療法の良いところや課題も含めて世の中に広めて頂きたい」と参加メディアに呼びかけた。

高井氏

 高井信治小野薬品執行役員/メディカルアフェアーズ統括部長(医師)は、「ICIによるがん免疫療法とは~医師と患者の調査結果の発表を含めて~」をテーマに講演。ICIを用いたがん免疫療法が誕生してから10年の節目を迎え、同療法に対する現状の評価・認知確認を目的とした調査(がん治療に携わる医師100名、がん患者900名)結果について、「医師の90%はISIががん治療薬としての地位を築いたと評価している」と報告した。
 一方、患者は、ISIによる治療によって「治療の選択肢が増えて嬉しい」(68%)と評価しているものの、「がん患者にもっと広く知られてほしい」と考えていた。
 「がん免疫療法」の認知率はICI使用未経験者では63%で、その大部分は「知っているという程ではないが、名前を聞いたことがある」であった。ICI経験者では特に副作用に対する認知.・理解が低かった(26.3%)。
 高井氏はこれらのアンケート結果を総括して、「患者さんや一般生活者への正しいがん免疫療法の認知、理解促進に向けて情報発信が必要である」と強調し、「がん免疫療法の副作用をそのようにマネージメントして行けば良いかがこれからの課題になる」と指摘した。
 がん細胞のPD-L1と免疫細胞(T細胞)のPD-1が結合することで、T細胞ががん細胞を攻撃できないブレーキ状態となり、がん細胞が増殖する。
 オプジーボ(抗PD-1抗体)は、PD-1に結合することでPD-L1とPD-1の結合を阻止し、このブレーキ状態を解除してT細胞ががん細胞攻撃する作用機序を有する。
 従って、オプジーボの副作用は、「甲状腺機能障害」や「大腸炎」、「重度の下痢」など免疫細胞の働きが盛んな場所で起こり易い。ICIで惹起されたT細胞が正常臓器を攻撃する(自己免疫疾患と同じ)からである。腫瘍診療医は免疫に精通していたわけではないため、自施設で対応できない疾患が発症する場合もある。
 高井氏は、「従来のプラチナ製剤もICIも副作用発症頻度は同程度である」と明言した上で、「ICIでは、心筋炎は発症率が低いものの致死的な副作用となるため特に留意する必要がある」と強調。「今後も製薬企業として、ICIの正しい理解促進に向けて情報発信に取り組んでいく」考えを示した。

林氏

 「ICIががん治療に与えたインパクト」をテーマに講演した林秀敏近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門主任教授は、非小細胞肺がん治療について、「ステージⅣの患者は1年以上の生存者が少なかったが、ICIの登場により2から4年の生存者が多くなった」とそのインパクトを強調した。
 さらに、「ICIは、多くの稀少がん(対象患者数が5万人未満)にも適応を取得しており、近畿大学の医師主導治験により、日本だけ‟原発不明がん”が承認されている」と紹介した。
 林氏は、ICIの使用方法として、「抗がん剤との併用」、「放射線療法との併用」、「周術期治療によるがんの再発防止」「抗PD-1もしくは抗PD-L1と別の免疫チェック阻害薬との併用の可能性」を挙げた。
 抗がん剤との併用は、「抗がん剤によりがん細胞を免疫細胞死させてICIが効きやすくなるという理論があり、肺がん、胃がん、食道がん、乳がん、胆道がんなど幅広く用いられている治療方法である。ICIが無効な患者に対してがんの悪化を防ぐ(サルベージ)役割も期待できる」と解説。
 さらに、「周術期や放射線治療との組み合わせなど様々な治療の選択肢が増えた。抗PD-1抗体とPD-L1阻害薬との併用療法は、現在、これを検証する多様な臨床試験が行われており、これからのがん治療の中心になると考えられている」と指摘し、「ICIの登場は、がん医療を変えた。多くの臨床試験によるエビデンスが証明されてきた。進行期の患者さんでも新たな希望が生れた一方で、よく効く患者さんは多くはない」とICIの10年間を総括した。
 ICIの副作用にも言及し、「頻度が少ないがやっかい(診断が難しい)で時に致死的な免疫関連有害事象があるため、専門施設での治療が必要となる。マネジメント法に関する教育プログラムも学会や大学(がんプロ)など様々な場で提供されている」と紹介。終わりに、「今後も様々な免疫治療が開発されることが期待される」と呼びかけた。

左から岸田氏、清水氏、林氏

 岸田徹NPO法人がんノート代表理事が司会を務めた患者座談会では、清水公一氏(肺がん/ステージⅣ、47歳、社会保険労務士、告知:35歳、) 、林美穂氏(神経芽腫、腎細胞癌/ステージⅣ、36歳、車椅子ダンサー、告知:0歳、31歳)がそれぞれのICIによる治療経験や感想、現況を語った。
 清水氏は、「オプジーボが2015年12月に非小細胞がんへの適応が追加されたのを受けて投与を開始し寛解した。免疫療法を行た後に第2子を授かった」と笑みを浮かべた。
 林氏は、「5年前、10年前なら助からなかったが、薬で助かる希望を持てたのが大きかった。ICIの1年投与で腫瘍が小さくなり、3年間治療を続けている。車椅子ダンサーとして活躍できるようになり、去年出会った男性と今年入籍した」と振り返った。

左から相良氏、高井氏、林氏、岸田氏、清水氏、林美穂氏、スティーブ・スギノブリストルマイヤーズスクイブ代表取締役社長

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