新薬エクスプレンション 経口腎性貧血治療剤(HIF-PH阻害剤)「バフセオ錠(田辺三菱製薬)」を中心に解説 山本克己(神戸薬科大学薬学臨床教育センター臨床特命教授、前大阪警察病院薬剤部長・医学博士)

 バフセオ錠の使い方と服薬指導のポイント

 腎性貧血は、慢性腎臓病(CKD)の代表的な合併症で、腎臓においてヘモグロビンの低下に見合った十分量のエリスロポエチン(EPO)が産生されないことによって引き起こされる。腎性貧血は、一般的な貧血とは異なり、造血に関わる腎機能に大きく関連しており、腎臓機能の低下が進むほど発症しやすくなる。さらに、腎性貧血は末期腎不全への病態進行を早め、心不全の独立した増悪因子でもあるため、早期発見・治療が重要である。
 従来、腎性貧血治療剤として赤血球造血(ESA)刺激因子のエリスロポエチン注射剤が用いられているが、「注射を打つために受診しなければならない」、「注射による痛みが強い」、「ESA抵抗性腎性貧血」、「EPO抗体陽性赤芽球癆」などの報告もあり、これらの課題が解決できる新しい治療薬の登場が待ち望まれていた。

経口腎性貧血治療剤(HIF-PH阻害剤)

 今般、経口の腎性貧血治療剤(HIF-PH阻害剤)が開発され、現在国内では3剤が上市されている。3剤ともHIF(低酸素誘導因子;ヒフ、後述)を介して内因性のEPOの産生を促進する。ちょうどマラソン選手が低酸素状態の高地トレーニングを行うのと似たようなメカニズムで、HIFが強く働く環境の中でしっかりと造血を促すことで能力を発揮する。
 HIF(低酸素誘導因子)は転写因子であり、体内が低酸素状態に陥ったときに活性化し、EPOの産生を促して赤血球産生を亢進する。通常の正常酸素環境下では、HIFはHIF-PH(ヒフ-プロリン水酸化酵素;ヒフ ピーエイチ)によって水酸化され、分解される。HIF-PH阻害薬は、HIF-PHを阻害することでHIFの分解を強く抑制し、EPOの産生を促進して赤血球の産生を亢進させる作用メカニズムを有する。
 現在、国内で発売されているHIF-PH阻害剤には、・バダデュスタット(バフセオ錠)、・ダプロデュスタット(ダーブロック錠)、・ロキサデュスタット(エベレンゾ錠)があるが、今回は、適応患者の選択および用法用量が最も簡易なバダデュスタット(バフセオ錠150mg,300mg;田辺三菱製薬(株))について詳述する。

1日1回服用の経口剤で保存期から透析までの腎性貧血を治療

 バフセオ錠150mg,300mgは、
① 1日1回の経口投与で、注射剤のESA製剤と同様のHb(ヘモグロビン)値をコントロールできる。(効果についてはダルベポエチンアルファ製剤(持続型ESA製剤)との非劣性が検証されている。)
② 保存期(NDD)から腹膜透析(PD)、血液透析(HD)までのCKD患者において、ESA治療・未治療にかかわらず、開始用量は1日1回300mgに設定されている。
③ 300㎎/日から開始し、150㎎/日、450㎎/日、600㎎/日の4段階の少ないラダー内で簡便にHb値がコントロールできる。血中濃度は用量依存的であり、血中濃度の増加とHb値の上昇とも相関する。なお、体重とAUCは逆相関する(体重が増えるとAUCは低下する)。
④ 投与後は速やかにほぼ完全に吸収され、速やかに消失する。初回通過効果を受けにくい。
⑤ 食後投与時にCmaxがやや低下するが臨床的に問題とはならない。
⑥ 血漿タンパク結合率が高い(99%以上)。血液中では主にアルブミンに結合する。透析の有無が本薬の血漿中濃度に与える影響は小さい(透析によって除去されない)。分布容積は約10L。
⑦(動物実験より)・乳汁中に移行する、・催奇形性は認められない、・がん原性は示さない。
⑧ 代謝は主にグルクロン酸抱合を受ける。チトクロムP450の寄与は小さい。
⑨ 胆汁を介して腸管に排泄され、一部は腸肝循環する。
⑩ 有効成分は、光や温度に対する安定性が高い。光毒性を示す可能性は低い。
⑪ ESA製剤を投与しても貧血が改善し難い腎性貧血にも有効である可能性があり、ESA抵抗性腎性貧血の一つの治療選択肢となり得る。

4段階の少ないラダーでHbターゲットレンジをキープ

 保存期CKD のターゲットHbは11~13g/dL、透析期は10~12g/dLを目標にする。Hb値が安定するまで2週間に一度Hb値を確認し、4週後に、150㎎ずつ増量あるいは減量するのか、そのまま維持するのかを患者のHb値を見ながら判断する。増減の間隔は4週間以上で、600㎎を上限とする。安定後も4週に1回程度実施して、必要以上の造血作用が現れないように注意する。なお、Hb濃度が急激に上昇した場合(4週以内に2.0g/dLを超える等)は、速やかに減量または休薬する。休薬した場合は、1段階低い用量で投与を再開する。バフセオは、4段階の少ないラダーで従来のESA製剤と同程度の割合でターゲットレンジに収まるため使い易い。
 一方、投与時には、必要以上の造血作用が現れないように注意する必要がある。これまでのESA製剤において、短期間で急激にHb値が上昇し、予後的に心血管系イベントなどへの関与を懸念する報告がみられるからだ。バフセオに関しては、Hb値がゆっくりと上がっていくため、急激なHb値の上昇リスクは大きくないと考えられるが、患者によって急上昇するケースもあるため、Hb値をしっかりと確認する必要がある。

血栓塞栓症の増加や血圧上昇の副作用に注意

 副作用に関しては、血中の赤血球を増やす薬剤であるが故に、どうしても血液の粘張度が上がるため、ESA製剤同様に血栓塞栓症の増加や、血圧上昇が挙げられる。ゆえに、脳梗塞,心筋梗塞,肺塞栓等の患者(既往を含む)や高血圧症の患者への投与には注意を要する。
 また、重大な副作用として肝機能障害が設定されている(海外臨床試験において約0.6%の準重篤例が報告)。なお、経口剤ということで注射剤のESA製剤に比べて、治験では消化器症状の発症頻度が高く、下痢,悪心が報告されている。
 HIFは、EPOだけではなく様々な因子への作用が判明している。VEGF(血管内皮細胞造血因子)の発現を誘導し、血管形成を亢進するのもその一つで、メカニズム的には網膜系(網膜出血)や腫瘍系(腫瘍増殖を助長する可能性)の有害事象が考えられる。今後、長期的に見ていく必要があるだろう。

 バフセオ錠は経口剤であるため、保存期でも透析でも院外処方箋として処方される場合が多い。保険薬局では、血栓塞栓症を惹起する可能性があるので、慎重に投与経過を観察する必要がある。特に、心筋梗塞や肺塞栓症の既往歴のある患者は留意したい。また、血圧上昇にも気を付けなければならない。さらに、潜在的リスクとしての網膜出血や悪性腫瘍を合併症とする患者への注意も忘れてはならない。保険薬局では、こうした副作用に関連する症状の出現や、検査値異常を早期に発見して、医師にフィードバックすることが重要である。

多価陽イオン含有製剤等の併用は2時間ずらす服薬指導を

 相互作用として、多価陽イオン(鉄、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、セレン、亜鉛等)含有製剤と併用する場合、これらの薬剤とバフセオがキレートを形成して、バフセオ錠の吸収が阻害されるおそれがある。特に、造血には鉄が必要であることから、鉄剤は貧血患者にはよく投与されているので注意が必要となる。
 多価陽イオン含有製剤や、制酸剤、リン吸着薬などと併用する場合は、これらの薬剤とバフセオ錠の服用間隔を前後2時間以上あけるように服薬指導する必要がある。
 主成分のバタデュスタットにおけるトランスポーター関係の相互作用として、“プロベネシド(OAT1・OAT3を阻害)との併用により本剤の血中濃度上昇”、“本剤がBCRPを阻害することにより、基質となる一部のスタチン類等の血中濃度上昇”、“本剤のOAT3阻害による、基質となるフロセミド、メトトレキサート等の血中濃度上昇”が併用注意とされている。

タイトルとURLをコピーしました