「脱水にならないための正しい知識」 谷口英喜氏(済生会横浜市東部病院患者支援センター長)が解説

 脱水症の権威の谷口英喜氏(済生会横浜市東部病院患者支援センター長)の新著『いのちを守る水分補給 ~熱中症・脱水症はこうして防ぐ』を本年6月に発行した評言社(本社:東京都)は、「脱水にならないための正しい知識」を同著より紹介している。
 年々進む温暖化の影響もあり、今年も酷暑が続きそうだ。夏場、極端に体調を崩しているほどでないけれども、なんとなくだるい、疲れる、胃腸の調子が悪い、気分が悪い…そんな経験をした人も多い。
 実は、この不定愁訴(なんとなく具合が悪い症状)の根源に、大量の発汗や水分摂取不足から起こる脱水が潜んでいる場合もある。まさに“かくれ脱水”。谷口氏は、「脱水にならないための正しい知識」を“飲水学”と名付けている。

脱水症の影響を受けやすい3つの臓器

 従来は、脱水症状として「喉が異常に渇く」、「尿の色が濃くなる」、「尿量が減る」などがまことしやかに言われていた。だが、高齢化やサプリメントなどの服用者が増えた影響で、それらのサインはあてにならなくなった。それでは、どんな症状が脱水症状なのか。
 成人のからだは、体重の6割が水分で占められている。その中でも、脳・消化器(胃・腸)・筋肉の3つの臓器は水分含有量が9割近くになり、脱水症の症状は水をたくさん必要とするこれらの3つの臓器に出現しやすいといえる。
 また、1つの臓器症状ではなく、3つの臓器の異常が同時に出現することで、他の疾患の症状と脱水を見分けられるケースもある。
 たとえば、手足の麻痺、ろれつが回らないなどの症状が出たら脳梗塞を疑うが、手足の脱力に意識レベル低下や食欲不振を併発(複合症状)していたら脱水症の可能性が高まる。
 胃腸の場合、嘔吐、下痢、腹痛という消化器症状が中心ならば感染性胃腸炎、下痢、嘔吐に頭痛や筋肉痛をともなう複合症状であれば脱水症の疑いありといえる。

脱水症を疑う、3つの臓器の症状

 脳に脱水症が起きたときは、脳血流が減少したり、脳実質の含有水分量が減少し、「意識レベル・集中力の低下」、「認知機能の低下」、「頭痛・悪心」、「けいれん・昏睡」、「高齢者の場合はせん妄、記憶力や認知機能の低下」のような症状が出現する。
 消化器官に脱水症が起きたとき、つまり胃や腸の血流が減少したり、消化器官自体の含有水分量が減少したりする時には、「食欲低下」、「悪心・嘔吐」、「下痢」、「便秘」、「腹痛」などの症状が出現する。
 筋肉に脱水症が起きて筋肉に行く血流が減少したり、筋肉自体の含有水分量が減少すると「筋力低下」、「筋けいれん・こむら返り」、「筋肉痛」、「麻痺」のような症状が出現する。 特に、小児や高齢者では、脱水症の症状に気がつきにくいので、これら3つの臓器の症状がないかをよく見るようにする。各臓器症状が重なって出現したら(複合症状)、大きな疾患を疑う前に脱水症を疑うようにして頂きたい。

すぐにできる脱水症の見つけ方

 脱水症は、3つの臓器異常症状の同時出現が発見の目安で、疲れや痛みも脱水症のサインである。次に示すこんな不調もあんな不調も…実は脱水症が潜んでいる。

①集中力・記憶力・認知機能の低下
 脳に脱水症が起こると、中枢神経の異常が生じます。若い人では集中力の低下、高齢者だとせん妄症状や記憶力や認知機能が低下する。
 万が一車を運転中に脱水症を生じれば、集中力が低下して、交通事故につながる恐れもある。

②膀胱炎、腎盂腎炎を繰り返す 
 介護者のおむつ交換の負担を軽減するために、水分投与を控えたら、結果として尿路感染症を繰り返し発症するようになってしまった。このケースでも、脱水症を起こしている可能性がある。

③運動時のパフォーマンス低下 
 脱水症により脳の血流が減少して集中力が低下したり、筋肉の血流が減少して、筋力の低下や動きが緩慢になったりする。パフォーマンスの低下は、運動時のケガの原因にもなる。炎天下で野球の練習中に水分の補給を制限してしまうことで、「結果としてパフォーマンスが低下し、実力を十分に発揮できない」ということがないように留意したい。

④原因不明の微熱や痛み
 脱水症は、痛みを出現させたり、憎悪させたりする。脱水症を治療すれば、鎮痛剤を使用することなく、水分補給によって痛みの治療ができる可能性もある。

経口補水液を飲んでみる、 “診断的治療”

 脱水症なのか、他の原因で体調が悪いのかが不明なときは、試しに経口補水液を飲んでみるという方法もある。経口補水液は小腸からもっとも水分が吸収されやすい割合で水・塩分・糖分が配合されている飲料で、摂った水・塩分が素早く身体に吸収され、脱水症を改善してくれる。
 経口補水液を試してみてほどなくして症状が改善すれば、脱水症による体調不良であった可能性が非常に高いといえる。
 このように、「病気の診断の検討をし、それに対する治療をしながら経過を観察し、その治療で効果がみられたら、その診断が適切であったとする診断・治療の方法」を診断的治療と言う。
 気温が上がり脱水しがちな盛夏は、熱中症対策としても有効な経口補水液を自宅に備えておくのが良いだろう。
 一方、経口補水液を飲んでも体調不良が緩和されないときは、他の原因である可能性もある。その場合は病院に行くようにしよう。

脱水を効率的に緩和するには経口補水液

 食事をきちんと摂っている場合は、お水だけでもいいが、食欲がなくきちんと食事を摂れていないときは水と一緒に塩分も補給できる経口補水液の摂取が推奨される。
 経口補水液は、「感染性腸炎、感冒による下痢・嘔吐・発熱を原因とした脱水症、高齢者の経口摂取不足を原因とした脱水症、過度の発汗を原因とした脱水症等のための食事療法(経口補水療法)に用いる」飲料とされている。
 適量の塩分を摂らずに水だけを補給しても、かくれ脱水を解消することができない。脱水状態は水だけが不足しているのではなく、塩分も同時に失われた状態で、脱水時に水だけを飲むと一時的に血液が薄まる。体は水と塩分のバランスを調整しようとして水分の排泄が進み、かえって脱水状態を進行させることにもなりかねない。「脱水症」は、水+塩分も不足しているリスクがあることを意識しよう。

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