コロナ禍による健康診断・がん検診控えが疾患進行に影響している可能性を示唆  健康診断・がん検診医療受診意識調査

 ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーは14日、全国の20~79歳の男女1万5000人を対象に実施した「健康診断・人間ドック、がん検診等、医療受診に関する意識・実態調査」結果を発表した。調査では、コロナ禍が、我々の受診行動に影響を与え、結果として疾患の進行にまで影響を及ぼしている可能性が示された。
 今回の調査は、2020年10月末に実施した「健康診断・人間ドック、がん検診に関する意識調査」の2021年版。今年の調査では、「からだの不調など何らかの症状を感じる際の医療機関受診率」について、さらに詳しく調査した。 加えて今年は、がんの診断・治療を行う全国の医師300人を対象とした調査も行い、「がん検診」や「適切な医療受診」に関する生活者と医師との認識の差も検証している。


 男女1万5000人を対象とした調査では、健康診断・がん検診の受診を「控えたい」および「やや控えたい」と回答した人の割合は、昨年調査から減少し、改善傾向が見られた。
 だが、調査回答者の実際の受診率を見ると、依然として「受診予定はない」あるいは「わからない」とする人が少なくなく(がん検診で約6割)、その理由として「コロナ感染リスク」や「からだの変調を感じない」、「健康状態に不安を感じない」といったものが多く挙げられている。
 一方、医師調査の結果からは、「コロナ感染拡大への不安を理由に健康診断やがん検診などが控えられる」、「がんが進行した段階で病院に来る患者が増える」事項を危惧している医師が多いことも判った(それぞれ8割以上、6割以上)。さらに、今回、生活者調査・医師調査の両方で、体調不良時における医療機関の受診控えが懸念される結果も出た。
 同調査結果では、「コロナ禍が、私たちの受診行動に影響を与え、結果として病気の進行にまで影響を及ぼしている可能性」が示された。健康診断やがん検診は、からだに不調を感じていない状態、健康状態に不安を感じない状態でこそ病気を早期発見するために重要な予防医療と位置付けられている。
 がん検診を受診した人の2~3割が「発見が遅れ手遅れになりたくないから」受診したと回答しており、検診の重要性を認識している人もいる。
 また、発見の遅れによる影響や、疾患の症状、科学的根拠に基づいた健診・検診の有効性についての情報を求める声もみられる。なんらかの症状を感じた際にそれが重要な疾患の初期症状である可能性や、早期発見が治療の選択肢を広げる可能性も踏まえ、同調査結果は、人生100年時代において、より多くの方に健康診断やがん検診を含めた適切な受診について改めて考える切っ掛けになりそうだ。

 今回の調査結果サマリーは、次の通り。

[男女1万5000人を対象とした調査]
1) 健康診断・がん検診
受診に関する意識と
実態)

・「健康診断」「がん検診」を「控えたい」+「やや控えたい」の回答は、「控えたい」あるいは「やや控えたい」の回答者が2020年・2021年ともに最も多かった4~6月で、それぞれ昨年の5割台から3割台に改善。だが、「来年度控えたい」も約2割存在

・コロナ感染拡大前3年間に受診歴のある人では、「来年度控えたい」が15.1%に

・「健康診断」「がん検診」受診率は昨年から微増も、依然として約6割が「がん検診」を「受ける予定はない」または「わからない」と回答

・加入保険で受診率に差。「健康診断」も「がん検診」も「国民健康保険加入者」が低調

2) 健康診断と
がん検診を受診しない理由

・未受診者の理由として「コロナの感染リスク」が減少。「健康診断」では12.8pt低下

・「健康診断」は4人に1人が「健康状態に不安はない」や「経済的負担」

・「がん検診」は4人に1人が「からだの変調を感じない」「健康状態に不安はない」

3) 健康診断とがん検診を受診した理由 

・健康診断、がん検診ともに、「これまでも定期的に受けているから」約4~5割、「受けると安心できるから」が約4割

・「がん検診」は、「発見が遅れ手遅れになりたくないから」と約2~3割が回答

[医師]

4)コロナ感染拡大によるがん発見・治療への影響

・コロナの感染拡大ががんの早期発見・がん治療に影響していると考える医師は9割以上

・コロナの感染拡大が、がん治療に影響を及ぼすことを不安に思う医師は8割以上

・コロナの不安から検診回避の傾向を懸念する医師は8割以上、
 がんが進行した段階で病院に来る患者が増えることを懸念する医師は6割以上

[男女1万5000人(生活者)・医師]

5) がん検診の
積極的受診に向けて
重要なこと

・生活者:費用負担の軽減を求める声が3割以上

・医師:生活者がコロナの正しい知識を得ることを求める声が5割以上

6) 健康意識・行動の
変化

・生活者:コロナ感染拡大を受け、「健康意識が向上」 約4割、「病気の予防意識向上」 約3割

・医師の5割 「体調不良くらいでは医療機関に来る人が少なくなっていると思う」

7) コロナ禍での
疾患リスクと不安

・「通院を延期した・控えた」は、2020年調査よりも減少

・通院や受診を延期・控えた理由は、コロナ感染リスクを挙げる人が最も多い

・受診した理由は、「コロナ感染リスクよりも、体調や症状への不安が大きいから」が最も多い

・生活者の適切な医療機関の受診のために重要なこととして、生活者・医師ともに約3割が「かかりつけ医」と認識。また医師の約4~5割が、「コロナの正しい理解」「医療機関の感染リスク低減への対応」「ワクチン接種完了」「治療薬」などのコロナ関連項目が重要と捉える

8) 専門家による
コメント

佐野氏

早期発見が治療の選択肢を広げることを忘れないで
がん研究会 有明病院病院長 佐野武氏

 この調査は、新型コロナウイルス感染症(以降、コロナ)の第5波(2021年7月~9月)が収束してしばらく経った11月中旬に実施された。
 がん研有明病院では昨年12月からコロナ患者専用の病棟を設け、軽症や中等症のコロナの患者さんを受け入れてきたが、全国的な病床不足に陥った第5波では重症化した患者さんを転院させることができないといったことも起きた。
 一方、がんの診療に携わる私たちが危惧するのは、コロナによる受診控えのために早期がんの発見が減り、進行したがんが増えることだ。今回の調査でも、約9割の医師が、コロナががん早期発見と治療に影響を及ぼしていると考えているという結果が出ている。

2020年に前年同様の検診・通院率であれば約9%がんが発見されたと推測

 日本対がん協会の発表によれば、2020年における5大がん(胃、大腸、肺、乳、子宮頸)の検診では、2019年と比較して早期がんの発見が明らかに減少した。もし、2020年に前年と同じように検診や通院ができていれば発見できたであろうがんが、約9%あったと推測される。
 また、がん診療連携拠点病院を中心とする全国800余の医療機関における「院内がん登録」の集計では、2020年のがん登録件数は前年に比べて約6万件減少していた。
 がん検診は、がんの早期発見のために重要である。今回の調査では、検診の受診予定がない方の多くが、「からだの変調を感じないので」あるいは「健康状態に不安はないから」と回答されている。だが、がん検診の目的は症状のない人たちの早期のがんを見つけて治すことだということを忘れないで頂きたい。
 さらに、コロナ感染拡大前3年間にがん検診を受けていた人が、2020年に続いて2021年も検診を控えている傾向が気になる。中でも、「今年度は受診年だが、来年度に回す予定」としている人の「受診しない理由」として最も多かったのが、昨年は「新型コロナウイルス感染のリスクがあるから」であった。
 2021年の調査では、「1年ぐらい受けなくても大丈夫だと思うから」となっていた点も心配である。コロナ禍も相まって「今年はスキップしてもいいか」と思われている人は、どうか検診受診を再検討してほしい。がんの多くは着実に進行し、がん検診が半年、あるいは1年遅れることで、より進んだ状態で見つかる。
 実際当院でも、毎年受けていた検診をコロナの感染を恐れて受けないでいたところ、症状が出現して進行したがんが見つかった人や、手術ができない状態まで進行してしまった人もいた。せっかく毎年検診を受けていたのに、1回先延ばししてしまったことで、早期の発見を逃してしまうケースがあり得る。
 なんらかの症状があった際の医療機関の受診控えについても懸念している。2割から3割ほどの人が、「乳房のしこり、乳房のエクボなど皮膚の変化を見つけた」、「血便、下血、下痢と便秘の繰り返しなど、おなかの不調」、「頭痛の程度が徐々に強くなり、嘔吐の頻度が増加、歩き方や話し方の違和感がある」、「胃の痛み・不快感・違和感、胸やけや吐き気、食欲不振などが続く」といった症状があっても医療機関の受診を控えた、という結果が出ている。
 これらの症状は、それぞれ、乳がん、大腸がん、脳腫瘍、胃がんの症状にもあてはまるため、決して看過できるものではない。
 また、医師の半数近くが、「(コロナ感染拡大を受け)体調不良があっても医療機関に来る人が少なくなっていると思う」と回答している。
 2016年に日本で始まった全国がん登録では、がんの発見経緯も記載されるようになった。それによれば、日本の5大がんの約3割は、「他疾患経過中の偶然発見」である。検診や人間ドックと合わせると、日本のがんのほぼ半数はがんによる症状が出る前に発見されていて、これが日本のがん治療の高い成績を支えている。
 健康診断・がん検診、さらには体調に異変があった際の適切な医療受診がいかに大切かを、今一度ご理解いただきたい。
 例えば小さい胃がんを内視鏡で切除する、あるいは腹腔鏡やロボットを用いて小さい創で手術するといったように、発見が早期であればあるほど、身体に負担の小さい治療法が選べる場合もある。早期のがん発見は、治療の選択肢を広げる。
 これまで検診を受けていたのに現在控えているという方は、「コロナの感染拡大がなければ、自分はどんな行動をとっていたか」を考えて頂きたい。また、検診を予定していない人は、症状がなくても検診でがんが見つかるかもしれないということを忘れないでほしい。日本のがん治療に及ぼすコロナの影響が最小限で済むことを祈るばかりである。

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