「下痢」原因と対処法、鍵を握るのは“腸” 薬剤師に聞く!夏に多い下痢の悩みQ&A ビオフェルミン製薬

 夏は冷たい飲料や食べ物、あるいは冷房によって身体が冷える。特に、おなかが冷えると、胃腸をはじめ内臓の機能が低下しやすくなるため、下痢の悩みが増える時期でもある。
 ビオフェルミン製薬が2021年に行った「下痢症状に関するアンケート」調査では、下痢になったときの対処法として「薬を飲む」(386人)⇔「何もしない」(96)、「水分を控える」(29人)⇔「水分を摂る」(18人)といった正反対の回答が複数見られた。
 身近だからこそ自己流になりがちな対処法。
下痢について正しく理解して、適切に対応しよう。

◆薬剤師に聞く! 夏に多い下痢の悩みQ&A

「下痢止めはどんなときに服用する?」「水分は摂らないといけない?」
回答は、スギ薬局 上青木店(埼玉県)の 薬剤師・八木澤恭子氏。

八木氏

Q 夏によく起こる下痢の特徴はあるか。
A 薄着で寝てしまって起こる冷えや、冷たいものの食べ過ぎ・飲み過ぎによる胃腸機能の低下による下痢が多い。
 また、気温が高く食べ物が傷みやすい季節でもあるため、細菌性の下痢も増加しやすくなる。

Q 下痢の対処法として、「水分を控える」「水分を多めに摂る」 どちらが正しいか。
A 下痢になったら水分補給は絶対!
飲み過ぎで下痢になった人などが「水分を控えよう」と思うのもわかるが、下痢が起きているということは、腸で吸収すべき水分が体外に出てしまっている。
 そのままでは脱水症状になってしまうため、水分を補う必要がある。ゆっくり少しずつでいいので摂取しよう。吸収がよい経口補水液などがおすすめである。

Q 下痢止め薬はどんな下痢のときに飲めばよいかか。
A 暴飲暴食や緊張、ストレスによる下痢に使用する。冷たいもの・油っこいもの・刺激のあるものなどの食べ過ぎ、アルコールや炭酸飲料の飲み過ぎ、食物繊維の摂り過ぎなどが原因と考えられるときである。
 環境の変化が大きい春先や受験シーズンに多い緊張やストレスが原因と考えられるときも服用できる。
 生ものや、夏場に常温で長時間置かれていた食べ物・飲み物が原因の下痢、海外滞在中や帰国後に起きた下痢は、細菌性やウイルス性の下痢の可能性が高いため、下痢止めの使用は控える必要がある。
 下痢止めを使うと排便が止まり、原因菌やウイルスを腸内に留めてしまうため、この場合は下痢を止めず腸を整えるものが望ましい。
 症状から下痢の原因を突き止めることは難しいが、症状が出る何日か前の行動を振り返ってみて、細菌性やウイルス性が疑われる場合は下痢止めの使用を控えて頂きたい。薬剤師にも気軽に相談すればと思う。

Q 下痢止め薬の服用で注意する点はあるか。
A ある。日常的に薬を服用している人は相談して頂きたい。抗コリン作用のあるロートエキス成分などは胃腸薬にも配合されている場合があるので、胃腸薬を服用しているケースは薬剤師に相談してほしい。
 また、ロートエキスなどは一部の緑内障や排尿障害のある人、高齢の人、授乳中の人には注意が必要である。一部の下痢止めに含まれるタンニン酸アルブミンは牛乳由来の成分なので、牛乳アレルギーの人は相談して頂きたい。

 下痢止め薬に限らず、服用している薬や持病によっては、飲むことができない組み合わせもある。普段服用している薬がある人はお薬手帳を持って薬剤師に相談してほしい。

Q いろいろな下痢があると思うが、それぞれの症状に合った成分を教えてほしい。
A ・腹痛を伴う下痢…… 腸の過剰収縮による痛みを和らげる「シャクヤクエキス」「ロートエキス」
・食あたり、水あたり… 便を完全に止めない製品で下記成分配合のもの
・腸内での殺菌効果がある「ベルベリン」
・腸の動きを止めずに整える効能をもつ「木(モク)クレオソート」
・緊張からくる下痢……効果を感じやすいのは速効性があり作用も強い「ロートエキス」や「ロペラミド」
・冷えからくる下痢……おなかを温める「シャクヤク」「人参(ニンジン)」「附子(ブシ) 」などの生薬の入った製品や漢方。漢方の選び方は体質によるため、薬剤師に相談して頂きたい。
いずれの下痢のときも腸内環境が乱れるので、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌も選択肢の1つである。腸を整えるという意味では整腸剤の服用も良いだろう。下痢止めとの併用も可能だ。

<下痢の対処法と予防ポイント>
つらい下痢や腹痛は我慢せずに、症状に合わせて対処を!
 刺激の多い食べ物、アルコール、油っこいものなど、腸に負担がかかるものは下痢を引き起こしやすいため、体質に合わせて食べる量や回数を調整することが大切だ。特に、男性は、腹痛や下痢のつらい症状を我慢する傾向がある。
 我慢することはQOL(生活の質)の低下を招く。受診する・薬を服用するなど、我慢せずに症状を抑える対応をとろう。
 また、痛みやつらさがないからといって、習慣化した下痢を放置している人も要注意。痛みがなくても胃腸の機能に問題があることには変わりはない。疾患が隠れている可能性もあるので、一度受診することをお薦めする。
 腸には、免疫細胞の約70%が集まっており、腸内環境を整えることが全身の健康につながる。規則正しい生活を心掛ける、消化に良いものを食べる、整腸剤を飲むなど、まずは腸にいい生活を1つでも身につけ、それが自分に合わないようだったらほかの種類の腸活を取り入れるようにし、継続的に取り組むようにしよう。

◆「ビフィズス菌G9-1株」が寛解期クローン病患者のQOLを改善!

 兵庫医科大学 消化器内科において実施された臨床研究

 「寛解期クローン病患者における下痢型過敏性腸症候群様症状に対する『ビフィズス菌G9-1株』の影響」に関する文献が、2023年5月10日、Journal of clinical Medicineに公開された。
 クローン病は、生物学的製剤の進歩によって、寛解率が非常に高くなっている。だが、クローン病寛解期において、下痢型過敏性腸症候群症状を発症することが報告されており、著しくQOLの低下を招いている。
「ビフィズス菌G9-1株」を、寛解期クローン病患者11名に4週間投与したところ、QOLを改善した。また、精神状態についても評価したところ、不安な状態が軽減されていた。
 さらに、腸内細菌叢については、うつ病や不安と関係があると報告されているバクテロイデスの割合が増加しており、バクテロイデスの増加が不安の軽減に寄与している可能性が示唆された。
論文の詳細は、https://www.mdpi.com/2077-0383/12/10/3368に掲載。

◆原因も症状の重症度もさまざまな「下痢」

 時間や場所を問わず、突然襲ってくる下痢。一般的に、成人の体内では食事などにより、1日あたり約9~10リットルの水分が腸を通過する。通常はそのうちの約99%が腸で吸収され、残りの1%が便と共に体外へ排出される。
 理想的な便(バナナ便)の水分量は80%なのに対し、下痢や軟便の水分量は90%以上。腸の働きが弱くなり水分の吸収能力が下がることで、便中の水分量が増えて、下痢を引き起こしてしまう。
 下痢の原因は、胃腸機能の低下以外にも、食べ過ぎ・飲み過ぎや、牛乳などの乳製品・人工甘味料の摂取、また細菌やウイルスによるもの、ストレスやほかの疾患が関係しているものもある。
 このうち、細菌やウイルスによる感染性の下痢は感染性胃腸炎、いわゆる食中毒と呼ばれる。消化吸収能力には個人差があるため、牛乳やチーズなどの乳製品、リンゴやぶどうなどの果物、また人工甘味料などが入ったお菓子などが原因で下痢になる人もいる。
 その理由は消化吸収されにくい「糖」が含まれているためだ。「糖」は腸の中の浸透圧を上げてしまい(腸の外から水分を取り込もうとする)、十分に水分が吸収できず、下痢になる。これらを摂ることで下痢になるという人は、食べる量を減らしたり、消化のよいものの後に食べたりして、予防しよう。
 また、気温上昇とともに患者数が増加し、夏頃がピークとなるのが細菌性、冬から春にかけて流行するのがノロウイルス、ロタウイルスなどのウイルス性である。
 下痢の種類には「急性」と「慢性」があるが、食べ物や細菌・ウイルスが原因で起こる下痢が「急性」、ストレスなどが原因で下痢症状が長く続く場合は「慢性」とされている。
 慢性的な下痢が症状としてよく挙げられる疾患が、IBS(過敏性腸症候群)。ストレスが主な原因の1つとされ、日本人のおよそ7人に1人が患っているといわれている。
 その他に、下痢を伴う疾患としては、IBD(炎症性腸疾患)がある。IBDとは、潰瘍性大腸炎(大腸の粘膜が炎症でただれる原因不明の病気)とクローン病(消化管に炎症が起こる原因不明の炎症性の病気)の総称だ。IBDの患者数は約18万人に上り、その数は徐々に増加傾向にあるにもかかわらず、認知度は低いのが現状だ。
 下痢は、多くの場合、安静にしていれば1日程度で改善してくるが、嘔吐や発熱を伴ったり、症状が長引いたりする場合は注意を要する。特に、夏場は下痢になりやすい季節なので、日々腸内環境を整えることを心がけ、もし下痢になったときは必要に応じて医療機関や薬剤師に相談の上、適切に対処しよう。

タイトルとURLをコピーしました