能の講演

 今年度より母校の同窓会の企画委員長を務めさせて頂くことになりました。
このコロナ禍の中、果たして講演会を開催できるのかどうかが問題でしたが、委員会で慎重に準備を重ね、同窓会会館の使用ガイドラインを遵守し、人数制限をするなど感染拡大防止を十分にした環境を作り、無事に開催することができました。
 9月のゲストスピーカーは、能楽大倉流小鼓方の上田敦史さん(47)。注目を浴びる疫病封じの妖怪「アマビエ」を新作能として創られた同窓生です。
 鼓の演奏で始まった講演では、古く奈良時代に始まる能の歴史、観阿弥や世阿弥の頃の時代への変遷、鏡の間、揚幕、橋掛りなどからなる舞台の役割など、初心者にもわかりやすく説明してくださいました。能舞台は南向きで本舞台と橋掛りが成す角度にも意味があることや、黄泉の世界とのつながりなど神秘的なお話に興味津々で聞き入りました。能舞台は壮大な空間、宇宙空間であるようです。
 能楽堂の五色(緑・黄・赤・白・紫)の揚幕が陰陽五行説に由来するそうで、漢方や東洋医学にも通じるので、後日ググって復習をしました。陰陽五行説では、五色は青・黄・赤・白・黒で万物を象徴するもので、森羅万象すべての要素が「木・火・土・金・水」の五行にわけられます。木は青、火は赤、土は黄、金は白、水は黒です。土(ど)の色は、中国大陸の色が黄色であるため、黄を配したとされています。地軸の傾きは春夏秋冬の四季を生み、方角は東西南北と四方向ですが中心を入れると五行が生まれます。木は春・東、火は夏・南、土は土用・中央、金は秋・西、水は冬・北にそれぞれ配置されます。
 五行は、お互いに影響しあい、隣同士で相手を強める関係を「相生(そうじょう)」、向き合った相手を打ち滅ぼす関係を「相剋」(そうこく)」といい、全体が五つのバランスで成り立っているという考え方です。「陰陽学」とは、物事すべては陰と陽からなるという考え方で、例えば「男と女」「昼と夜」「天と地」などです。これらは善悪ではなく、相反する二つの性質を持つものの調和からなっているとされます。また、五行の「生長化収蔵」は、生まれ、成長し、変化して、収穫し、種となって次の芽生えを待つ、ということを意味します。
一方、人間の生理活動を担っている基本要素を、東洋医学では「気血水」の三つから成ると考えます。「気」は運動や機能のエネルギー。「血」は血液や栄養物。「水」はからだを潤す生理的水液。「気血水」のバランスが崩れると不調を招いてしまいます。これらはお互いが助け合う関係で、三つが密接に関係しながら全身を巡ります。そしてこれらの生成・貯蔵・運搬を行うのが五行にあたる五臓の役割です。人体は小宇宙のようです。
 さて新作能のアマビエのお話に戻ります。江戸時代、アマビエは肥後(熊本県)の海に現れ、「病がはやった時は、私を写し、人々に見せよ」と言い残して海中に消えました。新作能では、現代の役人が、夢で見たアマビエのお告げ通りに姿を描き写すと、疫病が退散。感謝の音楽を捧げたところ、アマビエが姿を現し、舞を披露するという筋書きになっています。上田さんは「舞台があると新作を作る暇がなく、自粛生活は悪いことだけではなかった。苦難も心を一つにすれば乗り越えられるという前向きなメッセージを届けたい」と話されました。日本古来の伝統芸能にも、ポジティブな姿勢を見せていただくことができ、元気が出ました。

                                    薬剤師 宮奥善恵

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