2型糖尿病を合併する慢性腎臓病治療におけるカナグルへの期待 門林宗男(前兵庫医療大学薬学部教授・元兵庫医科大学病院薬剤部長)

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 SGLT2阻害剤「カナグル(一般名:カナグリフロジン水和物)」が、本年6月20日、「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く」について国内適応追加承認を取得した。
 2型糖尿病は、慢性腎臓病の発症や進展の大きなリスク因子のため、同疾患を合併する慢性腎臓病(CKD)患者が多数認められている。こうした患者では、病態の進行に伴い腎機能が低下し、腎不全に至った場合には透析療法への移行が必要となる。透析療法は、患者のQOLを低下させるだけでなく、医療経済的にも重要な課題となっている。
 そこで、「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病」治療におけるカナグルへの期待について言及したい。
 CKD患者数は国内で1330万人(成人の8人に1人)と推計されおり、新たな国民病と言われている。CKDでは、糖尿病を始め、生活習慣や加齢などさまざまな要因によって発症・進行するリスクが高まる。2型糖尿病を合併するCKD患者は、全CKD患者数(1330万人)の3~4割程度に上ると報告されている。
 加えて、CKDは末期腎不全に至るのみならず高い割合で心血管系の合併症を引き起こし、患者の予後とQOLに大きな影響を与える。CKDの初期には自覚症状がほとんどなく、進行するとむくみ、息切れ、倦怠感、貧血などの症状が現れる。気付いたときには、透析治療が必要なほど重症化している場合もある。
 従って、CKDのリスク要因である糖尿病、高血圧などの生活習慣病予防がCKD予防にも繋がることを認識する必要がある。さらに、可逆性のある段階でのCKDの早期発見・治療では、健康診断時の尿検査や腎機能数値への普段からの留意が重要となる。
 現在、日本の透析患者数は34万人(2020年の集計)を超える。透析導入の原因は糖尿病性腎症が最も多く、糖尿病性腎症重症化予防が各自治体で取り組まれている。
 腎不全に至って血液透析療法へ移行した場合、血液透析は外来通院で週3~4回、1日4~5時間程の定期的な透析継続だけでなく、非透析日(透析を受けない日)も職場や家庭内で療養上の制限や社会生活の制約を受ける。
 一般に透析患者は、尿毒症による身体症状や透析器械依存によって生命への危機感が継続するため、QOLは低下する。
 さらに、患者にとって透析導入時の告知やその中止は死を意識する恐怖であり、常に死と向き合った不安定な心理、精神的・社会的ストレス状況におかれている。
 CKD患者と同様に透析患者も心血管系の合併症を高い割合で惹起することが報告されており、さらなるQOL低下を引き起こす。
 その一方で、CKD治療薬の創製は非常に困難とされてきた。その大きな理由は、CKDの臨床試験では、腎移植や透析などの腎死や血清クレアチニンの倍化などのハードエンドポイントが用いられていたことに起因する。
 こうしたハードエンドポイントの評価には、多くの患者組み入れと長期間のフォローアップが必要となり、莫大な労力と費用を要するため、世界的にCKDにおける臨床試験の実施が難しかった。
 今回、SGLT2阻害薬が腎ハードエンドポイントを主要評価項目として、良好な結果が得られたが、レニン・アンギオテンシン系(RAS)阻害薬で報告されて以来、10数年ぶりの発表であったことからもその難しさが伺える。
 とはいえ、最近では、主要評価項目をハードエンドポイントではなく、サロゲートエンドポイント(代替エンドポイント)として臨床試験を進めることが主流となってきたため、CKD治療薬の開発も増加してきた。

CREDENCE試験と国内P3試験でカナグルの末期腎不全への進展抑制効果を確認

 今回のカナグルの「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 ただし、慢性腎臓病又は透析施行中の患者を除く。」の適応追加取得は、P3国際共同治験CREDENCE試験とその類似性を示した国内P3臨床試験に基づくものだ。CREDENCE試験の実施により、国内P3試験は、主要評価項目をハードエンドポイントではなく、サロゲートエンドポイント(代替エンドポイント)であるeGFR30% decline 発生割合(eGFRが観察期開始日および治療期開始日の平均値と比較して30%以上低下した被験者の割合)による評価が可能となった。国内P3試験の結果からCREDENCE試験をpivotal試験、つまり効能追加の根拠となる試験として国内承認申請された。
 CREDENCE試験は、34か国4401例を対象としたSGLT2阻害薬による腎ハードエンドポイントを主要評価項目とした初めてのP3国際共同治験で、2型糖尿病患者を対象に主要複合アウトカムを達成した。
 CREDENCE試験の概要は、標準治療を受けている2型糖尿病患者でステージ2または3の慢性腎臓病、eGFR30mL/min/1.73㎡以上および、ACRといわれる尿中アルブミン/クレアチニン比で300㎎/g超、5,000㎎/g以下で、腎臓でのエビデンスが認められているRAS阻害薬を最大耐用量服用している患者を対象に、カナグル100㎎群とプラセボ群の無作為割付試験(RCT)が実施された。
 主要評価項目である「血清クレアチニンの倍化、末期腎不全 、腎死およびCV死から成る複合評価項目」の結果では、カナグル群はプラセボ群と比較して、主要評価項目のリスクを有意に30%低減した。RAS阻害薬から上乗せしての30%のリスク低減は、かなりインパクトのある結果となった。
 eGFRの経時的変化では、カナグル群では一過的にeGFRが低下したのち、プラセボ群よりも緩やかにeGFRが推移した。試験期間の年間のeGFRの低下率は、カナグル群では-1.85mL/min/1.73㎡で、プラセボ群では-4.59mL/min/1.73㎡であった。
 尿中ACRもカナグル群では投与開始後最初の測定時点である26週後までに尿中ACRが低下し、その効果は投与終了時まで持続した。
 有害事象発現率は、カナグル100mg群で2200例中1784例(81.1%)、プラセボ群2197例中1860例(84.7%)であった。主な有害事象(5%以上発現)は、カナグル100mg群で低血糖225例(10.2%)、尿路感染219例(10.0%)、高血圧症150例(6.8%)などであった。プラセボ群では低血糖237例(10.8%)、血中クレアチニン増加203例(9.2%)、末梢性浮腫202例(9.2%)などであった。
 重篤な有害事象は、カナグル100mg群で737例(33.5%)、プラセボ群で806例(36.7%)に認められた。1%以上発現した事象は、カナグル100mg群では肺炎、急性腎障害などで、プラセボ群では肺炎、心不全などであった。
 投与中止に至った有害事象は、カナグル100mg群で267例(12.1%)、プラセボ群286例(13.0%)に認められ、0.5%以上発現した事象は血中クレアチニン増加、皮膚潰瘍などであった。
 また、死亡例は、カナグル100mg群で168例(7.6%)、プラセボ群で死亡は202例(9.2%)に認められた。これらのCREDENCE試験結果は、2019年4月、国際腎臓学会で発表された。
 CREDENCE試験には日本人被験者110例が含まれていたが、それとは別に2型糖尿病における糖尿病性腎症第3期(顕性腎症期)患者308例を対象とした国内P3試験が実施された
 国内P3試験では、ACE阻害薬またはARBをスクリーニング期開始日の5週以上前から最大承認用量使用している308例を、カナグル100mg群またはプラセボ群に無作為に割り付け(二重盲検)、1日1回104週間投与された。
 サロゲートエンドポイント(代替エンドポイント)は、eGFR 30% decline発生割合を主要評価項目、eGFRの観察期開始日および治療期開始日の平均値からの変化量、尿中ACR(早朝第一尿)の治療期開始日からの変化率(全集団)を副次評価項目とした。
 主要評価項目である治療期104週後のeGFR 30% decline発生割合は、カナグル100mg群18.2%、プラセボ群29.5%で、群間差(プラセボ群-カナグル100mg群)の点推定値は11.3%(95%CI:1.2~21.5)であった。
 また、副次評価項目では、治療期104週後のeGFRの変化量(最小二乗平均±標準誤差)は、カナグル100mg群で-10.39±0.83mL/min/1.73㎡、プラセボ群で-11.49±0.83mL/min/1.73㎡であり、群間差は1.09mL/min/1.73㎡(95%CI:-1.21~3.40)であった。
 治療期104週後の尿中ACRの変化率(幾何平均値)は、カナグル群で-38.8%[0.612(95%CI:0.525~0.714)]、プラセボ群で17.8%[1.178(95%CI:1.010~1.373)]、幾何平均値の投与群間比は、0.520(95%CI:0.418~0.646、p<0.001)であった。
 国内P3試験においても、CREDENCE試験と同様に、既存のRAS阻害薬の治療からの上乗せ効果を示し、両試験結果から日本人のカナグルによる末期腎不全への進展抑制効果が確認された。
副作用発現率は、カナグル100mg群35例(22.7%)、プラセボ群31例(20.1%)であった。主な副作用(発現率2%以上)は、カナグル100mg群では低血糖および血中ブドウ糖減少各13例(8.4%)、頻尿4例(2.6%)などで、プラセボ群では低血糖10例(6.5%)、血中ブドウ糖減少7例(4.5%)などという結果であった。重篤な副作用は、カナグル100mg群で2例(1.3%)、プラセボ群1例(0.6%)であった。投与中止に至った副作用は、カナグル100mg群とプラセボ群ともに1例であった。死亡例は、カナグル100mg群4例(2.6%)、プラセボ群2例(1.3%)で、いずれも治験薬との因果関係は「合理的な可能性なし」と判断された。
この結果から、安全性と容認性についても、CREDENCE試験と大差なく、新たな安全上の懸念は認められなかった。

カナグルの服薬指導
腎機能の定期的検査の推奨が重要

 今回の効能追加において、eGFRが30mL/min/1.73㎡以上の患者で新規投与が可能となったことも見逃せない。この対象となる患者も含めて、添付文書に記載された「本剤投与により、血清クレアチニンの上昇又はeGFRの低下がみられることがあるので、腎機能を定期的に検査すること。腎機能障害患者においては経過を十分に観察し、腎機能障害の悪化に注意すること」の指示通り、腎機能の定期的検査が重要となる。
 「2型糖尿病」でのカナグルの使用では、HbA1c値を基準に効果判定を行っていたが、「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病」では末期腎不全への進展抑制を目的に使用するため、eGFRの低下速度などが基準となることからも定期的な検査を推奨したい。
 今回の効能追加における新たな懸念となる有害事象の報告はなかったが、RMP(医薬品リスク管理計画)において2型糖尿病の適応と同様に低血糖や体液量減少に関連する事象といった重要な特定されたリスクや、腎障害、骨折といった重要な潜在的リスクがあるため、引き続きこの点に留意して使用する必要があり、薬剤使用期間中の患者フォローアップが望まれる。

2型糖尿病合併慢性腎臓病患者の末期腎不全進展抑制効果に期待

 今回の効能ではeGFRが30mL/min/1.73㎡以上の患者で新規投与が可能となったが、同検査値以上の2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者でSGLT2阻害薬が使用されていないケースが多数存在する。
 2型糖尿病患者の腎症発症や進展抑制が国内における喫緊の課題である中、末期腎不全への進展抑制を目指した治療選択肢が増えるのは患者にとって福音である。
 なお、米国糖尿病学会2022年版診療ガイドラインでは、成人2型糖尿病でCKDを合併している場合やそのリスクが高い場合、HbA1c値やメトホルミンの使用とは無関係にSGLT2阻害薬の投与を検討することが推奨されている。
 我が国においても、カナグルを必要とする患者に適正に処方され、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者の末期腎不全進展抑制に寄与することを期待したい。

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