レビー小体型認知症 多彩な症状を手掛かりとした専門医による認知機能低下前の‟早期診断”が可能 住友ファーマプレスセミナー

池田氏
橋本氏

 住友ファーマは17日、「レビー小体型認知症(DLB)」に関するプレスセミナーを開催し、池田学大阪大学大学院精神医学教室教授が、「第2の認知症〜DLBの多彩な症状と治療法の進歩〜」、橋本衛近畿大学医学部精神神経科学教室主任教授が、「DLB当事者に目を向けた診療のすすめと当事者、介護者、主治医にお伝えしたいこと」をテーマに講演した。
 DLBは、レビー正体の中心的な構成タンパク質であるαシヌクレインが脳内の神経に凝集・伝搬して発症し、認知機能(注意障害)、精神症状(幻視、妄想、うつ)、神経症状(パーキンソン症状)など多彩な症状を惹起する。
 セミナーでは、こうした多彩な症状を手掛かりとした認知症治療と老年精神学会の専門医の診断と指標的バイオマーカーの進化により、‟認知機能低下が起こらない段階からの早期診断”が可能になってきたことが強調された。
 また、DLBの治療では、パーキンソン病の症状を悪化させない抗精神病薬として「クエチアピン」、精神症状を悪化させないパーキンソン病薬として「トレリーフ」(一般名:ゾニサミド)が使用されている現状を紹介。
 DLBの新薬開発では、①αシヌクレインを能から取り除く疾患修飾薬(抗体治療)、②脳のシナプスとシナプスを伝搬するαシヌクレインの移動を阻止するーの2方向からの創薬の可能性が示された。
 日本の2014年患者調査(厚労省)では、DLBの属する「血管性および詳細不明の認知症」の患者数は14万4000人と報告している。DLBは、全ての認知症の数~10数%程度の頻度で見られ、この10年間でアルツハイマー型認知症に次いで2番目か3番目に多いという実態が把握されるようになった。
 DLBは、レビー正体が生成されることで、神経細胞が死滅して惹起する。レビー正体は大脳皮質に多くできるが、1999年頃に、このレビー正体の中心的な構成タンパク質がαシヌクレインであることが判明している。
 70~80歳の高齢者に多発し、男性にやや多い(アルツハイマー型認知症は女性に多い)。パーキンソン症状や、自律神経障害など身体面の症状を伴い、多数の症例ではっきりとした脳の萎縮はみられない。DLBの病態は、緩やかに進行する事例が多いが、急速に認知機能が変動する場合もある。
 特徴的な症状には、認知機能としての注意障害、認知の変動、精神症状としての幻視・妄想、うつ症状、神経症状としてのパーキンソン症状に加えて、自律神経症状、睡眠時の異常言動などがある。
 このように、DLBは、認知障害機能だけでなく、BPSD(行動心理症状)、パーキンソン症状などの運動障害、便秘や低血圧など極めて多彩な症状が惹起する。
 診断では、レム睡眠行動障害(RBD)、認知機能の変動、幻視、パーキンソンニズムのDLBの臨床症状の中核的特徴のうち、2つが出現すれば、DLBと診断される。
 DLB以外の疾患にも出現するため‟DLBの支持的特徴”とされている「繰り返す転倒」、「抗精神病薬に対する重篤な過敏症」、「幻想以外の幻覚」、「体系化された妄想」、「うつ」なども、DLB診断において非常に重要な症状である。精神症状が初期から出やすいのもDLBの特徴である。
 こうした症状の出現時期は、「頑固な便秘」、「嗅覚障害」は記憶障害発現の9年前、「うつ症状」や「レム期睡眠行動異常」は同じく4~5年前、「立ちくらみ」、「失神」は同じく1~2年前から出現するという報告がある。
 池田氏は、「DLBは、必須症状の‟認知機能の低下”出現までに多彩な症状が惹起するので、それがヒントとなって‟認知症の無い段階での早期診断”が可能である」と訴求する。
 加えて、「SPECTまたはPETで示される基底核におけるドパミントランスポーターの取り込み低下」、「MIBG心筋シンチグラフティでの取り込み低下」、「睡眠ポリグラフ検査による筋緊張低下を伴わないレム睡眠の確認」など、DLB診断における指標的バイオマーカーの急速な進歩も、早期診断を後押ししている。
 これまでDLBは、認知症の中でも「予後が悪い」とされていたが、最近では、多彩な症状を手掛かりとした専門医の診断と指標的バイオマーカーによる早期診断・治療が可能となり、それほど予後は悪くない。むしろ、DLBでは、「アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症ではあまり例のない、認知機能の低下のない段階からの早期治療が始まっている」(池田氏)。

患者・介護者と医師の間でパーキンソン治療のニーズが一致

 多彩な症状が出現するDLBでは、様々な薬物療法が必要となる。認知機能に関しては、「ドネペジル」が世界で初めて日本で承認された。池田氏は、「ドネペジルは、うまく合えば、アルツハイマー薬よりもDLBの認知機能に有用である」と自らの経験を話す。加えて、「抗認知症薬は、自律神経障害に影響する」と注意を促す。
 抗パーキンソン病薬は、幻覚や妄想などの悪化を引き起こすケースがあるので少量から投与する。なるべく幻覚や妄想を悪化させずにパーキンソンの治療を行うことが重要だ。
 その一方で、幻想や妄想に使用される非定型の抗精神病薬(保険適応外)は、パーキンソン症状や過鎮静の副作用の発現に注意を要する。
 幻覚・妄想、興奮に対する薬物治療では、保険適用薬はないが、非定型の抗精神病薬が使用されている。抗精神病薬を投与する前に、漢方薬の「抑肝散」や認知機能に効くドネペジル等で、幻覚・妄想をかなり抑制できる。ちなみに、抑肝散は、服用量が多く、苦味がある。
 こうした中、橋本氏は、「DLB治療では、全ての症状を治療することは難しく、主治医は個々の患者の病状や予後、治療薬の相互作用、患者・介護者の治療ニーズを考慮しながら、治療すべき症状に優先順位を付ける必要がある」と訴えかける。
 その上で、患者・介護者と医師の間の治療ニーズの一致について、「パーキンソニズムは両者で合致しているが、医師は精神症状、患者は自律神経障害の治療を優先的に考えている」傾向を紹介した。
 さらに、パーキンソン治療と精神症状の治療では、「精神症状を悪化させないパーキンソン病薬と、パーキンソン病の症状を悪化させない抗精神病薬の選択が重要になる」と強調し、「精神症状を悪化させないパーキンソン病薬として、トレリーフ(一般名:ゾニサミド)」を挙げた。
 トレリーフは、唯一、DLBに伴うパーキンソニズムを適応症とする世界初の治療薬で、「他のパーキンソン病薬と比較してDLBの精神障害を悪化させない臨床試験結果が得られている」と報告する橋本氏。
 他方、パーキンソン病の症状を悪化させない抗精神病薬では「クエチアピン」を挙げ、「クエチアピンは基本的に使い易いが、糖尿病に禁忌である。また、抗幻覚暴走作用が弱い」と説明する。
 さらに、「我々はDLB治療において、もっと幾つかの薬剤選択肢が増えて来ることを望んでいる」と訴求し、DLBの新薬開発にも言及。
 ①αシヌクレインを能から取り除く疾患修飾薬(抗体治療)、②脳のシナプスとシナプスを伝搬するαシヌクレインの移動を阻止するーの2つの方向からの創薬の可能性を示唆した。
 疾患修飾薬とは、疾患の原因となっている物質を標的として作用し、疾患の発症や進行を抑制する薬剤で、池田氏は「早期アルツハイマー治療薬の抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体‟レカネマブ”の成功例が、DLBの抗体治療にも光明をもたらすだろう」との考えを示した。

DLBのケアでは「転倒」、「誤嚥」に要注意

 DLBのケアについて池田氏は、「多様な症状が惹起するため、アルツハイマー型認知症と比べてケアが難しい」と話す。
 「転倒」と「誤嚥」がDLB患者にとって致命的になる可能性があるので、「プロの介護士と家族の介護者の情報共有」と「科学的なケア」が不可欠となる。
 在宅介護サービスを最大限に利用しても、症状が介護力を上回ってしまい、家庭では安全性を保てない時期が比較的早期に訪れる場合もあり、「必要な場合は入院や入所も積極的に考慮すべきである」(池田氏)。
 橋本氏は、「DLB患者と介護者の治療ニーズと医師の理解状況」についての研究結果について言及し、「パーキンソニズムに対する患者と医師の治療ニーズは合致しているが、自律神経障害、睡眠関連障害、食事行動問題における治療ニーズの合致率は低く、これらの症状が実臨床において見逃されている可能性がある」と指摘する。
 その上で、患者には「治療ニーズをしっかりと主治医に伝えてほしい」、DLBを治療している全国のドクターには、「患者も自らの治療ニーズを伝えることができる。患者と介護者の治療ニーズは同様ではなく、患者の意向を尊重する診療を期待したい」と要望した。
  

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