2021年度の累計122万人超のストレスチェックデータ分析結果公表 ドクタートラスト

コロナ禍の長引きで従業員の疲労感、業務量増加による身体的負担が増加

 ドクタートラストのストレスチェック研究所では、ストレスチェックサービスを利用した累計受検者122万人超のデータを活用し、さまざまな分析を行っている。
 今回、同社は、2021年度にストレスチェックサービスを利用した受検者のうち、およそ32万人の結果を分析し、コロナ禍が続く中での従業員のストレス度合や変化の調査結果を発表した。
 調査結果において2021年度のストレスチェック結果は、2020年度、2019年度と比較して、悪化した面として、①疲れ、へとへと、だるさなどの疲労に関連した症状を感じている、②身体的な業務負担を感じている、③業務の負担が、個人生活に対して好ましくない影響を及ぼしているーなどが判明した。
 一方、良くなった面としては、①仕事が安定していて、職を失う心配がないと感じている、②従業員のキャリアについて、人事方針や目標が明確にされ、教育・訓練が十分に提供されているーなどが明らかになった。
 ストレスチェック制度は、2015年12月以降、従業員数50名以上の事業場で年1回の実施が義務づけられている。制度開始から6年が経過し、当初の設問数57項目版ではなく、ワーク・エンゲイジメントなどが測定でき、職場環境改善により効果的な80項目版が主流となった。ドクタートラストでも、設問数80項目版を提供し、国内トップクラスの受検者数を誇っている。
 今回の調査では、2021年度にドクタートラストでストレスチェックを受検した人のうち、32万4642人の最新結果と、2020年、2019年の3年間の経年比較を分析し、導き出した傾向が明らかにされた。
 調査対象と全体の概要は、次の通り。

【調査対象】

◆調査対象:ドクタートラスト・ストレスチェック実施サービス 2019年度~2021年度受検者

◆対象受検者数:32万4624人(2021年度)、24万0275人(2020年度)、19万9290人(2019年度)

【全体の概要】

1. 受検率と高ストレス者率

図1

 図1は、2019年度~2021年度の受検率および高ストレス者率である。受検率とは対象者に対して何人が受検をしたかを表した割合だ。2021年度ドクタートラストでストレスチェックサービスを利用した940社、2020年度同685社、2019年度同575社の受検率の平均を示している。
 2021年度は、2020年度と同様の結果であった。ストレスチェック制度も始まって6年が経過し、受検者にも制度の浸透がうかがえる。
 また、企業側でも前年度の受検率を下回らないよう受検期間の周知や未受検者への受検勧奨の徹底を努力しており、実施企業数が増えたにもかかわらず、受検率は90%超えを維持できたと考えられる。
 高ストレス者とは、ストレスチェックの結果、ストレスの自覚症状が高い、自覚症状が一定程度あり、ストレスの原因や周囲のサポートの状況が著しく悪いとされた人を指し、2020年度が14.1%であるのに対し2021年度では15.0%であった。
 2021年度は、高ストレス者率が昨年より0.9%増加しているため、コロナ禍でのさまざまな制限により心身に負担がかかっていることが結果を通して判明している。

2.  各尺度の経年変化

 ストレスチェックは、80の各設問に対して「そうだ」、「まあそうだ」、「ちがう」、「ややちがう」の4択形式で回答し、全42尺度を算出するもの。

図2

 図2は、2019年度~2021年度にかけて不良傾向にある尺度ワースト10を示したグラフである。数値は大きいほど不良(好ましくない)、小さいほど良好(好ましい)を示している。長引くコロナ禍でイベント自粛や旅行等の制限によってプライベートを十分に充実するのが難しいと答えた人が多いのではないかと考えられる。
 特に、仕事の量的負担が2020年度よりも悪化している傾向にあり、コロナ禍での需要の変化によって一定の業種で業務量が増加していることが原因だと考えられる。

図3

 図3は2019年度~2021年度にかけて良好傾向にある尺度ベスト10を示したグラフだ。3年間で特に好転したのは、職場のハラスメントである。コロナ禍で在宅勤務を始めた企業も多く、職場の人と直接対話する機会が減ったことが理由の一つと考えられる。
 また、感染状況が落ち着くにつれて在宅勤務が解除され、社内コミュニケーションが増えてくるとハラスメント被害も増える可能性があるものの、2022年4月から企業規模を問わずパワハラ防止法が義務化されたため、大きく不良傾向に転ぶ可能性は少ないと考えられる。

経年で特に差が生じた5つの尺度

 2021年度の結果の中で昨年度よりも差が大きく変化した尺度を紹介したい。その中でも差の大きかった5尺度は次のとおりである。括弧内の数値は何%良好もしくは不良に変化したかを示している。

【悪化した項目】

① 疲労感(「ひどく疲れた」-1.9%、「へとへとだ」-2.0%、「だるい」-1.6%)

② 身体的負担度(-3.1%)

③ ワーク・セルフ・バランス (ネガティブ)(-1.1%)

【よくなった項目】

④ 安定報酬(+3.1%)

⑤ キャリア形成(+2.8%)

次に、これらの詳細と考察を紹介したい。

1. 疲労感(「ひどく疲れた」-1.9%、「へとへとだ」-2.0%、「だるい」-1.6%)
 疲労感は、設問「ひどく疲れた」「へとへとだ」「だるい」の回答状況から算出する。(図4~6)

図4
図5
図6

 疲労に関する設問は、2020年度は良好傾向であったが、2021年度は不良傾向へと変化した。制限のかかった日常生活、また社内コミュニケーションの希薄化やテレワーク環境の限界、モチベーション低下などから「大きな身体の不調はないが、なんとなく調子が良くない」、つまり「コロナ疲れ」により不良傾向の回答が増えたのではないかと考えられる。

2. 身体的負担
身体的負担は、設問「からだを大変よく使う仕事だ」への回答状況から算出する。(図7)

図7

 「身体的負担度」は業種や職種間での差も大きく、特に悪化したのは製造業であった。工場の製造停止や物流停滞、テレワーク増加によるデジタル機器の需要の高まり、さらに半導体不足に陥った事態による業務量増加が要因と考えられる。

  1.  ワーク・セルフ・バランス(ネガティブ)  ワーク・セルフ・バランス(ネガティブ)は、「仕事のことを考えているため自分の生活を充実させられない」への回答状況から算出する。(図8)
図8

 先述のように、身体的な業務負担が続いていくと、過度なストレスから自律神経が乱れ、仕事以外の場面でも仕事が常に頭から離れなくなってしまう。一定の業種で業務負担が増加したことによる心身の疲労が日常生活にも悪影響を及ぼしている可能性が考えられる。

 2021年度は全体的に不良傾向が多かった結果になりったが、中には良好傾向になった尺度も見受けられた。良好化傾向になった尺度は、次の通り。

4. 安定報酬
 安定報酬は、設問「職を失う恐れがある」への回答状況から算出する。(図9)

図9

 図9のとおり、「良好回答」をした割合が3.1%増えた。帝国データバンクが発表している「景気動向調査(全国)2021年12月」では、2021年12月時点での国内景気が4か月連続で改善した結果が報告された。
 また、同様に株式会社帝国データバンクによる「人手不足に対する企業の動向調査」では、2021年12月時点で約5割の企業で正社員が人手不足と示しており、有効求人倍率が1.16倍と前月より緩やかな上昇傾向が見られている。
 こうした背景から、企業側でも労働者の退職防止や人材確保のために賃金改善を行った企業が増えた可能性があると考えられる。

5. キャリア形成

 キャリア形成は、「意欲を引き出したり、キャリアに役立つ教育が行われている」の回答状況から算出する。(図10)

図10

 コロナ禍での就業になり早2年、対面形式での研修が減り、テレワーク拡大とともに研修の形式もオンライン化した企業も多く、キャリア教育への考え方が変化していると考えられる。
 また、受講者が主体性を持って取り組めるように、質疑応答機能を用いたり、1〜5分程の短い時間で学習が可能なマイクロラーニング手法を用いたり、企業によってさまざまな工夫がされているのが見受けられる。
 こうした中で、生まれた時からデジタル機器に囲まれているいわゆるZ世代中心に、対面よりオンラインでの研修のほうが参加しやすく、企業側もコスト面や開催するにあたっての人員確保の手間も軽減されるため、研修の開催回数も増えたとも考えられる。

3年連続で良好傾向・不良傾向だった尺度とは?

 ドクタートラストでは、2019年度~2021年度の3年間で累計76万4207人の受検結果を基に3年連続で、良好傾向の尺度と不良傾向の尺度を分析した。
 その中で、最も良好・不良傾向にあった尺度と設問内容は次の通りである。

【良好傾向尺度】(図11)
職場環境(私の職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない

図11

【不良傾向尺度】(図12)
身体的負担度(からだをよく使う仕事だ)

 図11は、「職場環境」にかかわる設問の平均点を年度別に算出したもの。数値が小さいほど良好(好ましい)傾向を示している。
 2019年から2020年にかけては、テレワークと通常勤務を交互に行っている人が多く見受けられたが、完全テレワークを導入した企業も増えたため、在宅勤務をする上で懸念されていたセキュリティ面が強化された。
 結果的に自宅でもオフィスと変わらず業務を行える環境が整備され、従業員にとって快適な環境での業務が可能になったため、3年連続で良好傾向が続いたと考えられる。

図12

 図12は、「身体的負担」にかかわる設問の平均点を年度別に算出したものだ。数値が大きいほど不良(好ましくない)傾向であると示している。
 3年間で比較しても不良傾向にあると判った。コロナ禍によって需要が高まった業種での業務量が増えたが、求人に対する応募が少なかったり、業務過多から退職者が増えたり、企業に見合う人材ではないなどの理由から生産量に対して人員確保が追い付いていない可能性があると考えられる。

【考察】
 2019~2021年度での3年間のストレスチェック結果を比較すると、コロナ禍が長引いていることにより従業員の疲労感、業務量増加による身体的負担により仕事以外の場面でも仕事のことを考えてしまうなど、不良な変化が多く見られた。
 もっとも、こうした状況下であっても、良好に変化している結果もあるため、企業の取り組みの成果が表れた結果になったのではないかと考えられる。
 ストレスチェックの結果は、個々の従業員や職場の現在のメンタルヘルス傾向を知るうえで、非常に重要なデータである。ストレスチェックの結果に変化がある場合は、その原因を検討するとともに、ぜひとも職場環境改善に活かして頂きたい。

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