モノクローナル抗体によるNMOSD治療の有用性を訴求  田辺三菱製薬がメディアセミナー

NMOSD の再発を防止しながらステロイドの副作用を気にしない生活が可能に

中島氏

 田辺三菱製薬は10日、Webによるメディアセミナーを開催し、中島一郎氏(東北医科薬科大学医学部老年神経内科学教授)が「視神経脊髄炎スペクトラム障害治療の新たな選択肢~早期発見と再発予防に向けて~」をテーマに講演した。
 中島氏は、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)治療について、「特に、再発防止が重要である。そのためにこれまで経口ステロイド剤(プレドニゾロン)を中心とした治療が行われてきたが、長期投与に伴う副作用が課題となっている」と指摘。
 その上で、「イネビリズマブを始めとする有効性・安全性の高いモノクローナル抗体の登場により、NMOSD治療はステロイドからの脱却が可能になってきた」と報告した。
 さらに、「NMOSD患者にとっては、再発を防止しながら骨粗鬆症、糖尿病、白内障、緑内障などステロイドの副作用を気にすることなく生活できるのは、非常に有益である」訴えかけた。
 NMOSDは、重度の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする中枢神経系の自己免疫疾患で、2005年に抗アクアポリン4 抗体の発見とともに疾患概念が確立した。それは、血液中の「アクアポリン4抗体」(自己抗体)」による補体依存性のアストロサイト傷害を中心とした炎症が、重度の神経症状を引き起こすというもので、アクアポリン4抗体がNMOSD発症に大きく関わっている。
 わが国のNMOSD患者数は、4000人~5000人と言われている。その9割を女性が占めており、女性患者の圧倒的多さは世界的な特徴だ。
 興発年齢は、他のリウマチや膠原病などの自己免疫疾患と同様に40歳前後だが、3歳くらいの乳児から80歳を超える高齢者まで非常に幅広い年齢層で発症する。
 NMOSDは、神経系と脊髄に障害を起こし易い。海外データでは、初発発作において、神経系35%、急性横断性脊髄炎50%、両方惹起する患者10%、小脳・大脳など神経系以外の中枢神経系障害4%と報告されており、わが国でも同じ頻度である。

NMOSD治療は再発防止が最重要

 NMOSDは、慢性的に進行するのではなく、「再発を繰り返すごとに障害を蓄積する」のが大きな特徴で、再発さえ防げば、進行せずに非常に良い状態で寛解できる。
 その一方で、再発症状の回復は難しい。ステロイドを投与して回復を促しても後遺症が非常に強く残ってしまう場合がある。ちなみに、NMOSDの患者の30%は、片目を失明している。
 脊髄炎では、「体幹の強い痛み」や「筋痙攣」、自律神経の炎症による「疲労」などが後遺症として認められる。
 その他、NMOSDに見られやすい症状には、「こわばり」、「排尿障害」、「排便障害」、「不眠症」、「抑うつ」、「情緒不安定」などがあり、かなりの患者が「疲労」や「痛み」で、重度・中等度の症状を有している。
 従って、NMOSDは、進行させずに良い状態で寛解すれば、症状自体が回復する可能性もあるため、治療では「とにかく再発を防ぐ」ことが非常に重要となる。
 従来、NMOSD再発の予防は、特に国内においては、経口ステロイド剤(副腎皮質ホルモン製剤)を中心としており、10年くらいで半分程度の患者の再発を防止している。だが、再発防止には、経口ステロイド剤の長期投与が不可欠なため、それに伴う副作用が問題となっている。
 患者の多くは、経口ステロイド剤の長期投与によって、骨粗鬆症、糖尿病、白内障、緑内障、感染症といった副作用を来しており、これらに対応する治療を必要とする。
 こうした中、2005年に抗アクアポリン4 抗体が発見され、それを契機に様々なNMOSD治療薬の開発が進み、早くも3つのモノクローナル抗体が上市された。
 本年6月1日に田辺三菱製薬から発売された「イネビリズマブ」もその一つで、同剤は、抗体を産生する形質芽細胞や形質細胞を含むB細胞に発現する CD19というタンパク質に結合し、CD19陽性B細胞を循環血液中から速やかに除去することで、NMOSD の再発を予防する。
 日本を含む24カ国でイネビリズマブの有効性・安全性を検証したP2/3国際共同臨床試験(NMOmentum試験)では、アクアポリン4 抗体陽性患者において、イネビリズマブ群は87.6%の患者が半年間再発せずに経過した。
 これに対してプラセボ群では、半年間再発しなかった患者は56.6%で、有意差をもってイネビリズマブの再発・予防効果が示された。
 さらに、継続して実施された長期試験では、イネビリズマブ群は、半年後の87.6%から一年経過した時点で86.7%、4年経過した時点でも82.7%を維持した。
 長期試験で、「半年経過した後には殆ど再発が見られない」という結果が得られたため、イネビリズマブは非常に長きに渡って効果が持続する薬剤であることが判った。
 また、この臨床試験結果より、最初の半年間は再発がみられるため、その間だけステロイドの併用などを必要とするかもしれないが、注意して半年間を乗り切ればかなり良い状態が保てると考えられる。イネビリズマブによって再発を防ぐことで、NMOSDの症状の回復も期待できる。
 安全性については、大きな問題となる副作用は見られかったが、174例中41例で何らかの副作用が惹起した。その中で、注意が必要な副作用には、薬剤の点滴・注射時にみられるインフュージョンリアクション、感染症、進行性多巣性白質脳症(PML)がある。
 イネビリズマブの投与方法は、通常、成人には、1回300㎎を初回、2週間後に点滴静注し、その後初回投与から6カ月後に、以降6カ月に1回の間隔で点滴静注する。
 イネビリズマブは、投与間隔が半年に1回という利便性から、患者の生活様式にあわせた治療を可能とし、再発予防期のNMOSD 患者の新たな治療選択肢として期待できる。

3種類のモノクローナル抗体は用量・用法面の利便性で選択

 現在、イネビリズマブ以外にも、モノクローナル抗体として、補体阻害剤の「エクリズマブ」(2019年11月承認取得)、ヒト化抗IL-6レセプターリサイクリング抗体「サトラリズマブ」(2020年6月発売)が上市されている。
 エクリズマブの投与方法は、最初の4週間、毎週点滴が必要でその後は2週間に1回の点滴となる。サトラリズマブは、最初は2週間隔の皮下注射薬で、維持期は4週間隔で皮下注射を行う。
 いずれの薬剤も薬価は非常に高いが、‟指定難病”の認定を受けることで公費が適用されるので、患者自身の薬剤費の負担はそれほど大きくならない。
 また、3種類のモノクローナル抗体の使い分けでは、投与経路の違いによる利便性が重視される。すなわち、用量・用法面で、患者の利便性を考えた薬剤の選択が必要となる。
 今後、これらのモノクローナル抗体を上手く使うことによって、ステロイドからの脱却が可能になると考えられる。特に、高齢者に対する経口ステロイド剤の投与では、白内障や緑内障、骨粗鬆症、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病に繋がる合併症が必ず問題になってくる。
 患者にとって、NMOSDの再発を防止しながら、こうしたステロイドの副作用を気にすることなく生活できるのは、非常に有益である。
 一方、モノクローナル抗体特有の副作用として、特に3剤とも「感染症に対する注意」が必要で、感染症の注意深い観察と適正使用が求められる。
 現在、中島氏自身が約40例のNMOSD患者を診る中で、まだ、半分以上は経口ステロイド剤を使って治療している。3~4割の患者はモノクローナル製剤に切り替えている状況にあり、「切替によるメリットの大きさ」を身をもって強調する。
 今すぐに既存の治療法が無くなって、NMOSD患者全ての治療がモノクローナル抗体に切り替わることはないものの、今後少しずつ使用頻度が増えていって、「いずれは経口のステロイド剤を使わない治療方針が一般的になってくる」と予測した。


     

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