SGLT2阻害剤フォシーガ 早期からのCKD治療に期待  アストラゼネカと小野薬品がメディアセミナー

左から柏原氏、矢島氏

 アストラゼネカと小野薬品は9月30日、東京都内で「国内における慢性腎臓病治療の新たなアプローチ―SGLT2阻害剤フォシーガの慢性腎臓病(CKD)治療への貢献―」をテーマにメディアセミナーを開催。矢島利高アストラゼネカメディカル本部・CVRM部門長が「フォシーガ開発プログラムの変遷」、柏原直樹川崎医科大学腎臓・高血圧内科学教授が「DAPA-CKD試験」について講演した。
 CKDとは、腎臓の働きが徐々に低下していく疾患の総称で、国内では成人の8人に1人、約1300万人の患者がいると推定されている。
 CKDは、自覚症状がほとんどなく、病気が悪化してから発見されることも少なくない。CKDが進行すれば、透析や腎移植のほか、心血管系の疾患の発症リスクが高まるなど、患者のQOL低下につながる。
 これまで国内で慢性腎臓病に適応をもつ薬剤はなく、本年8月26日、日本で初めてアストラゼネカの選択的SGLT2阻害剤「フォシーガ」が、2型糖尿病合併の有無に関わらず慢性腎臓病治療薬として承認された。
 メディアセミナーでは、矢島氏が、フォシーガの開発経緯について「2014年に2型糖尿病治療薬としての承認を取得してから、2019年1型糖尿病、2020年慢性心不全、2021年CKDと適応拡大していった」と報告。
 さらに、「この経緯は、単なる糖尿病薬開発の歴史ではない」と強調し、「当初、フォシーガは、心血管系の安全性が懸念され、それを乗り越えるために糖尿病とは関係のない様々な臨床試験が行われるようになった」と説明した。
 これらの臨床試験の結果、「心臓病、腎臓病に対してもこの薬剤が効くのではないか」と言う洞察が出てきた。最終的には、その洞察を検証するための試験が行われ、慢性心不全、CKDの適応症を取得するに至った。 
 矢島氏は、「糖尿病、慢性心不全、CKDは、それぞれ異なる疾患であるが、このように全く異なる疾患に1つの薬剤が少しずつ適応を拡大しながら効能を追加していった例は非常に珍しいケースである」と話す。
 CKDは、ステージ3aからステージ5に向かって悪化していくが、CKDの重症度ステージと診断されていない患者の割合は、3aで95%、3bで68.4%、4で26.7%、5で4.1%と初期段階では驚くほど高い。
 その理由について矢島氏は、「これまでCKDの適応症を持った薬剤が無かったので、おそらく診察する側も患者さんに診断をしっかり付ける意義やモチベーションがはっきりしていなかったからではないか」と推測する。
 その上で、「今回のフォシーガのCKD適応症取得により、診断が付かずにそのまま経過観察されている患者も含めてこの薬剤が日本の腎臓病患者に貢献できることを期待したい」と力説した。

柏原氏


 一方、柏原氏は、CKDに定義について、「少し蛋白尿が出ているか、腎機能がわずかに低い人」とした上で、診断基準を示した。
 具体的には、「アルブミン尿(AER≧30mg/24時間;ACR≧30mg/gCr)」、「尿沈渣の異常」、「尿細管障害による電解質異常やそのほかの異常」、「病理組織検査による異常」、「画像検査による形態異常」、「腎移植、GFR低下(GFR<60mL/min/1.73m2)」のうち、いずれかが3カ月を超えて存在する場合、CKDと診断される。
 現在、わが国ではCKDに該当する人は1300万人、透析者は34万人に上る。人工透析に係る医療費は1人月額約40万円、年間総額約1.57兆円といわれている。
 CKDは加齢とともに増加するため、高齢化が進むわが国ではさらに増えていく傾向にある。欧米、中国におけるCKDの情勢も、わが国と同様の傾向を示している。
 こうした中、2001年に「イベルサルタン、ロサルタンのARBに、腎不全への移行抑制効果がある」との研究結果が発表された。だが、総体的なリスク低減率は16~20%と低く、慢性腎臓病治療薬とは成り得なかった。
 その後、20年間に渡ってCKD治療の新薬創出が試みられたが、何れの薬剤も失敗に終わった。その理由は、腎保護効果を標榜するには臨床試験において、「クレアチニン量2倍」、「GFRの低下57%以上」、「透析への移行・腎臓心血管疾患による死亡」を主要複合エンドポイントとし、「対照群と比較して統計的な有意差を示さなければならない」という非常に高いハードルが設定されたためである(柏原氏)。
 フォシーガが、2型糖尿病合併の有無に関わらず慢性腎臓病治療薬として承認取得する根拠となった国際共同P3相試験(DAPA-CKD試験)は、日本をはじめとする世界21国、386施設の18歳以上の慢性腎臓病患者4304例を対象としたものだ。
 4304例は、尿中アルブミン/クレアチニン比200mg/g以上、5,000mg/g以下、eGFR 25mL/min/1.73m2 以上、75mL/min/1.73m2以下の症例であった。
 治験方法は、対象患者をフォシーガ10mg群(2152例)又はプラセボ群(2152例)に1:1に無作為に割付け、標準治療に追加して1日1回経口投与した。投与期間は、主要複合エンドポイントイベントが事前に設定した数(681件)に達するまでとされた。
 DAPA-CKD試験の主要評価項目は、主要複合エンドポイント(eGFRの50%以上の持続的な低下、末期腎不全への進展、心血管死、又は腎臓死)のうち、いずれかのイベントの初回発現までの期間に設定された。
 副次的評価項目は、①腎複合エンドポイント(eGFRの50%以上の持続的な低下、末期腎不全への進展、又は腎臓死)のうち、いずれかの初回発現までの期間、②心血管複合エンドポイント(心血管死又は心不全による入院)のうち、いずれかの初回発現までの期間、③全死亡(死因を問わない)までの期間。
 同試験は、2017年2月2日に1例目が登録されてスタートした。その後、定期的な審査会議を経て、独立データモニタリング委員会は 2020年3月 26日、「408件の主要評価項目イベント(予定数の60%)に基づき、圧倒的な有効性が示された」として試験の中止を勧告した。
 すなわち、P3相DAPA-CKD試験においてフォシーガは、CKD ステージ 2~4、かつ尿中アルブミン排泄の増加を認める患者を対象に、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)もしくはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)との併用で、腎機能の悪化、末期腎不全 への進行、心血管死または腎不全による死亡のいずれかの発生による複合主要評価項目のリスクを、プラセボと比較して、39%低下させた (絶対リスク減少率 [ARR]=5.3%, p<0.0001)。
 加えてフォシーガは、プラセボと比較して、全死亡の相対リスクを有意に 31%低下させたPage 2 of 4(ARR=2.1%, p=0.0035) 。
 フォシーガの安全性と忍容性は、これまでに確認されている安全性プロファイルと一貫していた。
 柏原氏は、この臨床試験結果について「慢性腎臓病患者において、2型糖尿病合併の有無に関わらず、腎不全への移行抑制、心血管イベントおよび全死亡に対するフォシーガの有効性が示された」と解説。その上で、「慢性腎臓病患者を対象としたこれまでの試験の中でも画期的でインパクトのある試験であり、ランドマークとなるものである」と高く評価した。

フォシーガはIgA腎症にも有用性示し腎臓透析を遅延

 柏原氏は、日本人に多いIgA腎症にも言及した。IgA腎症は、20代に発症して30~40代で腎不全になるケースが多い。真面目に治療に取り組んでいても、10年、20年経過すると腎不全への経過を辿る。 
 柏原氏は、「フォシーガは、DAPA-CKD試験でIgA腎症にもハザード比0.29という高い有用性を示した。腎機能が低下した患者において3年後もeGFR20を維持して安定化し、プラセボ群ではeGFR15程度に低下した」と報告。
 その上で、「eGFR15程度になると腎臓透析の準備をしなければならず、患者は非常に不安を持つ。フォシーガを投与すれば3年後もeGFR20を維持できるので、IgA腎症の患者と家族に安心感を与えることができる」と強調した。
 最後に柏原氏は、「今回のフォシーガの2型糖尿病合併の有無に関わらず慢性腎臓病治療薬として承認は、日本の多くの慢性腎臓病患者さんにとって大きな福音になるだろう」と訴求した。

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