脂質代謝調節薬剤を脳実質細胞内部に送達するナノマシン開発  iCONMとスペイン・カタルーニャ国際大が共同研究

 川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は3日、スペイン・カタルーニャ国際大学との共同研究により、脂質代謝を調節する薬剤を脳実質細胞内部に送達する「ポリイオン複合体(PIC)ミセル」(ナノマシン)を開発したと発表した。
 開発されたPICミセルは、効果的な脳治療へのさらなる展開、特に脂質代謝の調節が重要となる新たな治療戦略として、カルニチンパルミトイルトランスフィセラーゼ1A(CPT1A)阻害剤および他の負に帯電した分子の細胞内送達への応用が期待される。
 細胞が必要とするエネルギーはATPから得られる。脂質はそのATPの最大の供給源となるが、そのためには酵素CPT1Aの働きにより、カルニチンという舟に脂肪酸を載せ、脂肪酸の燃焼サイクル(β酸化)を持つミトコンドリアの内部に運ぶ必要がある。
 つまり、CPT1Aが働かなければ、 脂肪酸が酸化されないので 脂肪酸からATPが製造できなくなり細胞は弱る。この仕組みを応用してがん細胞や肥満細胞を攻撃する、がん治療や肥満治療の研究が注目されている。
 CPT1Aの強力な競合阻害剤としては、C75-CoAが知られている。だが、C75-CoAは、負に帯電する性質のため細胞膜を透過できず、細胞内にあるミトコンドリアまで到達できない。
 そこで、iCONMとスペイン・カタルーニャ国際大学は、高分子ミセルにC75-CoAを搭載して細胞膜を透過させるポリイオン複合体(PIC)ミセルを開発。このPICミセルを実際のヒト脳神経細胞に投与するとATP産生量は最大1/5にまで減少した。
 ミセル処理は、CO2および酸溶性代謝産物への14C-パルミチン酸酸化の目に見える減少を示し、ATP産生の実質的な低下が脂肪酸酸化(FAO)阻害に関連していることも確認されている。
 また、ミセル治療は、長期インキュベーション後に無料の薬物処理U87MGに対してIC50を2〜4倍減少させた。
 共同研究では、これらのCoA付加体を装填したPICミセルの細胞取り込みを測定するために、蛍光CoA誘導体を合成し、2Dおよび3D培養モデルの両方で効率的な内在化を示すFluor-CoAミセルを調製した。
 これらの結果は、PICミセルがグリオーマ細胞およびニューロンにおけるCPT1Aのアニオン性阻害剤のための有望なデリバリープラットフォームであることを示し、将来の研究や臨床応用の基礎を築いた。
  

タイトルとURLをコピーしました