高血糖の継続による「血糖負債」への注意を啓発  日本生活習慣病予防協会

 日本生活習慣病予防協会が実施した「コロナ禍における生活習慣病リスクに関する調査」では、半数以上の医師が「糖尿病を診断する基準として重要な『HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)』の数値が悪化している」と回答し、8割の医師が「糖尿病リスクが高まっている」と実感している。
 だが、その一方で、一般生活者のHbA1c計測に対する認知率は4割に届かないなど、血糖対策への正しい認識は浸透していない現状が浮き彫りになっている。
 こうした背景を踏まえ、日本生活習慣病予防協会では、健常な人々を対象にHbA1cの重要性についての情報発信強化を試みており、その一環として「『血糖負債』メディアセミナー」(6月11日にオンライン実施)を開催した。
 たとえ糖尿病を発症していないとしても、HbA1cの値が高い状態が続いていると、さまざまな健康障害を招くリスクが高まる。この状態を「血糖負債」とし、これをいかに未然に防ぐかが鍵となる。

左から宮崎氏、綿田氏、佐々木氏


 今回のセミナーでは、同協会理事長の宮崎滋氏がコロナ禍におけるHbA1cに関する調査結果について報告し、<第1部>では「血糖負債が生む諸問題とHbA1cを意識して生活することの重要性」をテーマに順天堂大学大学院の綿田裕孝教授が、血糖負債の概念やその指標となるHbA1cについて講演。
 <第2部>は、「コロナ禍でのHbA1c管理~HbA1cと上手に付き合うテクニック~」をテーマに、リンクアンドコミュニケーション最高公衆衛生責任者佐々木由樹氏(公衆衛生学修士、管理栄養士)が、コロナ禍におけるHbA1c管理のポイントなどについて説明した。各講演内容は次の通り。

<第1部>「血糖負債が生む諸問題とHbA1cを意識して生活することの重要性」
順天堂大学大学院綿田裕孝教授

図1

 血糖値は、空腹時と食後では大きく変動するので、長期的な状態を把握するためには、「過去1~2カ月の血糖の指標」となる HbA1c を測定する必要がある(図 1 )。
 HbA1cは、ヘモグロビンの総量に対する糖化した(ブドウ糖が結合した)ヘモグロビンの割合を示すものである。ヘモグロビンの寿命が120日程度あるため、HbA1cは短期間では大きく変動しないので長期的な状態が把握できる。

未病状態でも溜まる「血糖負債」

図2

 人間ドックの判定区分でHbA1cは、6.5%以上で「要医療」と診断されるが、「軽度異常(5.6~5.9%)」や「要経過観察(6.0~6.4%)」の未病状態でも、それが長く続けば続くほど、体は少しずつむしばまれていく。
 このように高血糖が長期に渡って健康リスクを蓄積していくことを「血糖負債」という。「血糖負債」は、例えるなら、蛇口から出る水(血糖)が水槽にたまっていくようなもの。放置すれば知らず知らずのうちにたまっていきがちである。
 しかも、たまった負債を元に戻すのは容易ではないので、日頃からHbA1cを正常域に近づけておくことが重要である(図2・3)。

図3

やせていても要注意、コロナによる重症化リスクも高める!

 ところで、糖尿病は、やせていればかかりにくいと思われがちだが、我々の研究によって、やせた若い女性でも正常体重の中年男性でも「血糖負債」を抱えるケースがあることが分かっているので、「太っていないから大丈夫」という先入観にとらわれずに注意が必要だ。 
 さらに、「血糖負債」に起因する糖尿病の有病者は、新型コロナウイルス感染症後の重症化リスクが高いことや、血糖管理状態が良好であれば死亡率が低下することも分かってきている。

深刻な健康被害が多岐にわたる懸念

 「血糖負債」については、酸化ストレス、AGEs(終末糖化産物)、慢性炎症、インスリン抵抗性、細胞老化などのリスク要因をもたらし、「動脈硬化・心筋梗塞・脳梗塞」や「がん」「認知症」「肌荒れ・老け顔」「糖尿病」など、さまざまな健康被害を生じさせることが懸念されている(図4)。
 「血糖負債」については、「食事療法」「運動療法」、さらに、必要に応じて「薬物療法」を追加することがその解消方法となる。いずれにせよ、「血糖負債」は、ほんの少し高い状態でもそれが長く続くと健康を損なうリスクが高まるので、「見過ごさず対策を打つ」ことが重要である。

<第2部>「コロナ禍でのHbA1c管理~HbA1cと上手に付き合うテクニック~」
リンクアンドコミュニケーション最高公衆衛生責任者佐々木由樹氏

グラフ1

 私たちが行った調査によると、現場の管理栄養士が糖尿病患者への食事指導時に「確認する検査値」「重要視する検査値」は、共にHbA1cがトップで、いずれもほぼ全員が「確認する」と回答している。
 一方、患者については、「HbA1cの意味を理解している人が多い」と回答した管理栄養士はわずか7%にとどまるという結果が出た。

コロナ前後で HbA1c は悪化!

グラフ2

 また、コロナ前後では、患者のHbA1cは、6割以上(62%)の管理栄養士が「悪化している(かなり悪化/悪化)」と回答し、「血糖負債」蓄積のリスクが高まっている(グラフ1)。
 このような「血糖負債」に影響を与える要因としては、「運動不足」( 39 %)、「生活リズムの乱れやストレス」( 28 %)、「食生活の変化」( 22 %)などが挙げらる(グラフ 2 ・ともに 2021 年 5 月同社調べ)。

「 血糖負債」対策のための食事と運動とは?

 特に、食事については、「量ではなくカロリーを減らす」、「主食に未精製穀類を取り入れる」「1日に野菜を4〜5皿(300〜400g)、果物を1日1〜2回(200g)とる」「血糖値が上がりすぎないような食べ方をする」ことなどがポイントだ。間食を食べる習慣のある人は、たんぱく質やミネラルなどの栄養が摂れるヨーグルトを、フルーツと一緒に食べるのも推奨される。
 運動については、「少し息がはずむ運動を、1日20分(週2.5時間)」行うことがポイントである。できれば毎日、難しい場合は、週3回を目標に始めてみよう。こうした食事や運動による日常的な「血糖負債」対策が重要となる。

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