難治性乳がん・膵がんに有効な革新的核酸医薬候補開発に成功  慶應大学医学部らの研究グループ

有明病院で乳がん患者対象に医師主導治験(P1)進行中

 川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は20日、谷口博昭 (慶應義塾大学医学部臨床研究推進センター 特任准教授、東京大学医科学研究所 分子療法分野 客員准教授)らの研究グループが、難治性乳がん・膵がんに有効な革新的核酸医薬候補の開発に成功したと発表した。
 今回、開発されたのは、乳がん、膵がんで発現が亢進している転写因子であるPRDM14遺伝子を標的とした配列特異性の高いキメラ型siRNAと核酸を病変に送達するY-shaped block co-polymer(YBC)からなる核酸医薬候補だ。
 乳がん、膵がんを模した動物モデルに本核酸医薬候補を静注投与したところ、腫瘍径の増大を抑制した。また、遠隔転移モデルにおいても、転移巣の減少、生存期間の延長が認められた。
 同研究成果は、13日公開の International Journal of Cancer 誌にオンライン掲載された。また、同研究の成果を受けて、昨年9月より本核酸医薬候補の医師主導型治験を開始している。
 PRDM14分子は、乳がんでその発現が特に高いことが札幌医科大学において豊田実氏(故人)、今井浩三氏らにより発見された。
 その後、谷口氏らによりPRDM14分子が膵がん等の悪性腫瘍においても発現が高く、がん幹細胞性形質(抗がん剤耐性、転移・浸潤、血管新生等)を腫瘍細胞に付与することが見出された。PRDM14分子は、がん組織にのみ発現し、正常細胞で発現を認めないことから、がん治療の良い分子標的になることが想定された。
 一方、PRDM14分子が、核内転写因子であることから、遺伝子情報から創薬が可能である核酸創薬に着手した。また、治癒的切除ができない患者を対象とした静注投与による全身投与法の創出を目標とした。
 これらの核酸医薬のハードルを克服するために、核酸、及びそのデリバリーシステムに関して革新的な技術を適用。東京大学大学院理学研究科で開発された、極めて安全性・血中安定性が高く、十分なRNA 干渉効果が得られる「キメラ型 siRNA」が用いられた。
 また、siRNA 配列探索プログラムを基盤に、off target効果を排除した治療用配列を選定。加えて、東京大学大学院工学系研究科、ナノ医療イノベーションセンターで開発された核酸ナノキャリアであるYBCを用いた。YBCは、優れた血中滞留性を示し、さらに、EPR 効果によりがん組織への高い集積性を示す。
 難治性であるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)、及び膵がんより樹立されたPRDM14分子が陽性であるがん細胞株を用いた動物モデルを作製し、PRDM14遺伝子を標的とするsiRNA核酸医薬候補の治療効果を評価した。
 静注投与でPRDM14 siRNA 核酸医薬候補を投与した結果、乳がん同所移植モデル、膵がん皮下移植モデルの双方において、腫瘍径の増大を抑制し、その効果は抗がん剤との併用で相乗的な治療効果を呈した。
 さらに、遠隔転移モデルに適用したところ、転移巣の減少、生存期間の延長が認められた。YBCの先行型である、分岐型 PEG-poly(L-lysine)と比較して、現在、治験で使用されている分岐型 PEG-poly(L-ornithine)を用いることで、より少量のポリマーにて同等の治療効果が得られることも判明している。また、安全性試験 (非臨床試験)において、重篤な有害事象は認められなかった。
 この成果を受け、がん研究会有明病院において、治癒的切除不能又は遠隔転移を有する再発乳がんの患者に対して、医師主導治験 (P1)が現在進行中である。

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