ゲル材料の弱点克服した“強くて丈夫なゲル”簡単合成法開発 関西大学化学生命工学部

医療分野等の応用展開に期待

 関西大学化学生命工学部の宮田隆志教授の研究グループは12日、従来利用されている汎用的方法で壊れない丈夫なゲル(タフゲル)の合成に成功したと発表した。ゲルとして最も汎用的なポリアクリルアミドだけではなく、医療分野でも実用化されている生体適合性高分子からのタフゲルを合成にも成功した。
 このタフゲルは80~95%が水であるにもかかわらず、押しつぶすことができず、ナイフでも切断不能で、さらによく伸びるといった優れた力学物性を示す優れもの。ゲルの最大の弱点である低い力学強度を克服する画期的な方法として、医療・環境・エネルギー分野等での応用展開が期待される。
 ゲルは,食品や紙おむつ,コンタクトレンズなど身の回りに利用されているだけではなく,薬物放出や細胞培養などの医療分野における最先端材料として世界中で研究されている。だが、一般に利用されているゲルは多量の水を含んだゲル(ハイドロゲル)が多く、低い力学強度がゲルの実用化を阻んでいる。
 一方、人間の体も体重の約60%が水からなるゲルだ。だが、このような自然界のゲルは通常の合成ゲルとは異なり、適材適所で必要に応じた力学物性を発揮する。
 例えば,軟骨細胞は多糖類やタンパク質からなるゲルであるが、強靱で耐久性があり、優れた力学物性を示す。そこで、様々なコンセプトに基づいて優れた力学物性をもつゲルの合成が世界中で試みられている。代表的なタフゲルとしては、滑る架橋点を導入した環動ゲルや高分子と無機材料からなるナノコンポジットゲル、硬くて脆い網目と柔らかくて伸びる網目からなるダブルネットワークが知られている。
 今回、開発されたゲルは、上記のような特殊な分子構造を必要とせず、従来の汎用的なラジカル重合の条件を最適化するだけで簡単に合成できる。その条件は、重合時のモノマー濃度を高く、架橋剤含有率を低くするといった簡単なもので、従来合成されてきた様々なゲルに適用できる。
 この条件でゲルを合成すれば、架橋剤に基づく化学架橋だけではなく、高分子鎖の絡み合いによる物理架橋を導入でき、この絡み合い架橋によるエネルギー散逸に基づいて優れた力学物性を示す。
 今回は、ゲルとして最も汎用的なポリアクリルアミドだけではなく、医療分野でも実用化されている生体適合性高分子からもタフゲルを合成することに成功した。汎用性が高く普遍的な方法として、ゲルの弱点であった低い力学強度を克服でき、ゲル材料の幅広い実用化につながると期待できる。
 なお,同研究成果は、4月9日に英国Nature Publishing Group発行の「NPG Asia Materials」にオンライン掲載され,同誌ホームページのトップページを飾った。

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