モーションキャプチャ技術を用いて幼児の歩行発達メカニズムを解明  花王

 花王パーソナルヘルスケア研究所とサニタリー研究所は、97名の幼児の協力を得てモーションキャプチャ技術による歩行計測を行ない、幅広い月齢の3次元歩行データを解析し、幼児の歩行発達メカニズムを解明した。
 幼児が歩き始めてからの歩行の発達過程における、「骨盤の前傾が大きく、足(股関節)が開いた不安定な歩き方」から「骨盤の前傾が小さく、足(股関節)が閉じた安定した歩き方」への変化を数値データでとらえ、どこの関節の動きがいつ頃変化するかを明らかにしたもの(図1)。
 このデータは幼児の歩行発達研究における貴重な知見であり、歩行を数値化した点も今後の応用において高い価値を持つ。さらに、歩行が大きく変化する3才までの時期に毎日着用されている紙おむつが、幼児の歩き方に影響を与えることも確認した。同研究成果は、日本赤ちゃん学会第20回学術集会(9月19~20日、オンライン開催)で発表された。

図1 歩き始めてからの月数による幼児の歩き方の違い


花王は、以前より、ベビー用おむつ開発のための基礎研究として、乳幼児の日常生活を快適にするためのさまざまな研究に取り組んできた。そのひとつに、すこやかな発達をモニタリングする重要な指標である歩行の研究がある。2011年には、日常生活における幼児の運動量の客観的な指標としての歩行の量、すなわち歩数の調査を行ない、幼児は親が想像している以上にたくさん歩いていることが明らかになった。
 また、2020年には新型コロナ感染症対策としての緊急事態宣言下における幼児の歩数調査も行ない、幼児の活動量が大人以上に大きな影響を受けたことがわかった。
 今回は、歩行の質に着目し、モーションキャプチャ技術を活用して、幼児の歩行発達メカニズムの解明に取り組みました。歩幅などの一般的な歩行計測指標だけでなく、骨盤や関節の角度などの動作解析をあわせて行なうことで、図1のような下半身の動きのモデル化が可能になった。さらに、ここで得られた知見から、紙おむつ着用の歩行への影響についても検討した。
 同研究は、十条こどもクリニック岩崎博之医師、 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科内藤久士教授、上海体育学院 陸大江教授の指導、協力のもと行われた。

歩行の計測には、モーションキャプチャ技術を活用した(図2)。具体的には、幼児に反射マーカを付け、その位置情報を赤外線カメラで計測し、歩く様子をデジタルデータにした。

図2 モーションキャプチャ技術を活用した歩行計測


 幼児の歩行発達メカニズムを解明では、月齢13~37カ月の自立歩行可能な幼児97名の被験者がはき慣れたおむつ(排尿していない状態)をつけて自立歩行し、①骨盤の傾き、②股関節の開き方、③膝の曲がり方、④足首の曲がり方、⑤歩幅、⑥歩隔(左右の足の間隔)、⑦体の重心の揺れ方を測定し、歩行経験月数(歩き始めてからの月数)によって6カ月ごとに4つのグループに分けて解析。
 歩き始めの不安定な歩行から安定した歩行へと発達する過程において、①~⑦の指標がどのタイミングでどのように変化するかを分析した結果、これらの指標の変化は同時に起きていないことが判明した。
 さらに、下肢の関節角度の変化は、骨盤と股関節から始まり、膝関節、最後に足首へと、体の中心に近いところから遠いところの順で起こることが確認された(図3)。

図3 歩き始めて1~6カ月時点の歩き方の特徴と、7カ月以降の変化
1~6カ月時点の歩き方の特徴を出発点に、いつの段階でどのように変化したかを示す。変化が起こる時期が歩行評価指標によって異なり、歩行が段階を追って発達することがわかる。
 


 紙おむつが歩行に影響を与えることの確認では、日本の幼児13名(月齢12~25カ月)と中国の自立歩行可能な幼児26名(月齢18~20カ月)を対象に、歩隔(左右の足の間隔)、体の重心の揺れ方を測定した。
 なお、同確認試験は、構造が異なる2種類の紙おむつ(サンプルA、サンプルB)を着用した状態と、裸(紙おむつを着用しない)の3グループに分け、紙おむつは、排尿を想定して生理食塩水160gを含ませて実施された。
 その結果、日本で月齢12~25カ月の幼児を対象にした検証では、歩隔、体の重心の揺れ方ともに、紙おむつをつけている状態と裸で差がみられ(図4左)、紙おむつが幼児の歩行に影響することが判った。
 中国で月齢を18~20カ月に絞って行なった検証では、紙おむつの違い(サンプルA、サンプルB)で歩き方に差がみられた(図4右)。サンプルAは股下の水分を含んだ吸収体がズレ落ちない構造をしていたことから、このような構造が歩行への影響を小さくすると考えられる。
 今回の研究の「(1)幼児の歩行発達メカニズムを解明」で明らかになったように、歩行経験月数によって歩行にそれぞれの特徴があるため、被験者の月齢を絞ったことで幼児間の歩行の特徴のばらつきが小さくなり、おむつの影響が明確になったものと考えられる。今後、さらに歩行経験月数や月齢ごとに分けた検証の必要性を示唆する結果でもあった。

図4 歩隔と身体重心の揺れ


 今回の研究では、モーションキャプチャ技術を活用して幼児の歩行解析を行なったところ、発達過程の中で下肢のどの関節の動きがいつ頃変化していくかが明らかになった。この成果は、幼児の歩行発達メカニズム解明の一端となる貴重なデータであり、「関節」という歩行の要素に着目したことで、今後、幼児の歩行をより詳細に明らかにしていくための足がかりとなるものである。
 また、このような歩行研究をより深めていけば、幼児のすこやかな発達をサポートするだけでなく、活発に歩き回る幼児一人ひとりの成長段階にあわせた快適な製品開発やサービスの提案につながることが期待される。

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