コロナ禍での要介護者支援視野にロボットの触れ合い効果を検証 ATRやヴイストンなど

ひろちゃんをあやす高齢者

 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)とヴイストン、隆生福祉会、科学技術振興機構(JST)は、10月下旬よりATRとヴイストンが共同開発した赤ちゃん型ロボット「かまって『ひろちゃん』」との触れ合いが認知症高齢者(要介護者)とその介護者に及ぼす効果を検証する長期的実験を「特別養護老人ホームゆめパラティース」で開始する。実験期間は、6ヶ月。
 コロナ禍により、触れ合いの機会が激減している。特に、介護施設では介護者と要介護者の触れ合いが不可欠であるが、高齢者は重症化リスクが高く、消毒や飛沫防止など細心の注意が必要となり、これまでと異なる介護が求められている。要介護者、特に認知症高齢者は普段と違う雰囲気に不安を感じている。また、介護者側の負担も増加しており、介護の現場では、要介護者・介護者ともに癒やしが求められている。
 こうした中、介護施設では、コミュニケーションロボットによる癒やし効果が期待されている。だが、ロボット自体が高価であるため、1つの施設が導入できるロボットの数は1体〜数体であり、要介護者は複数人で1台のロボットを共有することになる。
 ロボットの共有は、コロナ禍において、要介護者は感染リスクが高くなり、介護者にとっては感染リスク低減のための負担がさらに増えるなど、現実的ではない。
 そこで、要介護者1人に1台提供することを目指して開発されたのが、安価なロボット「かまって『ひろちゃん』」である。ひろちゃんは、石黒浩氏(大阪大学特別教授、ATRフェロー、ATR石黒浩特別研究所 所長)が提唱した人のミニマムデザインのコンセプトをもとに、人間の赤ちゃんの存在感を伝えるロボットだ。

 かまって「ひろちゃん」と、ひろちゃんを高齢者があやしている場面


 2020年1月から本体価格5000円(税別)で販売を開始した。この価格であれば、要介護者1人に1台ずつ提供することが現実的になり、ロボット共有による新型コロナウィルス感染を回避することができる。
 また、コロナ禍の影響により、介護施設では、現在、部外者の立ち入りを制限していることが多いが、ひろちゃんは、壊れにくく扱いやすいため、介護者のみによる介護現場での運用が可能である。
 今回の実験では、要介護者1人に1台のひろちゃんを提供し、長期間、実際の介護業務の中でひろちゃんを利用してもらう。同実験を通じて、「要介護者がひろちゃんと飽きずに長期間関わってくれるか」、「癒やしの効果があるか」、また、要介護者とひろちゃんとの触れ合いの副次的な効果として、「介護者の負担軽減の効果があるか」などを明らかにする。
 検証は、まず1ヶ月、介護施設「ゆめパラティース」において要介護者10名程度を被験者とした予備実験を行い、その後、被験者数や施設数を増やして本格的な実験を行う予定だ。
 ひろちゃんのように要介護者に働きかけるロボットは、「インタラクティブドール」と呼ばれている。今回の実験を通して、コロナ禍で孤立しがちな高齢者施設の社会的な繋がりを支援する取り組みを行いつつ、今後は要介護者と介護者を支援する新たな産業分野「インタラクティブドールセラピー」分野の創出を狙う。
 具体的には、この実験の状況を紹介したり、ひろちゃんを使った介護レクリエーションの方法を紹介するWebサイト(ひろちゃんコミュニティサイト)を開設して情報発信を行うとともに、コロナ禍で孤立しがちな高齢者施設の社会的な繋がりを支援していく。
 ひろちゃんの長期的な導入で得られるノウハウに基づく現場での運用マニュアルの作成や、ひろちゃんを効果的に利用するためのセミナーの開催など、ひろちゃん運用専門家の育成にも取り組む。
 なお、同研究はJST 戦略的創造推進事業(CREST) 研究領域「人間と情報環境の共生インタラクション基盤技術の創出と展開」(研究総括:間瀬健二名古屋大学教授)における研究課題「ソーシャルタッチの計算論的解明とロボットへの応用」(研究代表者:塩見昌裕ATRインタラクション科学研究所室長)の支援を受けて行われる。

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