アストラゼネカは、安全性・有効性の高いワクチン開発に向けてスピーディな対応を

 英製薬大手アストラゼネカとオックスフィード大学が共同開発している新型コロナウイルスワクチン(AZD1222)をめぐって、臨床試験の被験者に深刻な副作用の発生が疑われる症例が報告され、全世界的に治験が一時中断された。同治験は、南アフリカでP1/2相試験、イギリスでP2/3相試験、ブラジル・米国でP3相試験が実施されているもの。
 日本国内でも既にP1/2相臨床試が開始されており、同様に中断された。日本政府は、アストラゼネカとの間で、来年初頭より1億2000万回分のワクチンの供給が可能となる国内体制を構築することで合意している。現在、厚労省は、副作用の詳しい症状や供給計画への影響などについての情報収集に努めている。
 今回の中断の原因となった副作用は、英国の治験で発症した。詳細は明らかにされていないが、一人の患者で重篤な副作用が見られ、現在は回復段階にあるようだ。
 アストラゼネカは、「任意的に一時、全ての臨床試験を中断し、独立した組織であるデータ安全性モニタリング委員会(DSMB)によるチェックを受ける」と発表している。
 世界で最も開発が先行している新型コロナウイルスワクチンとして注目されるAZD1222は、「ウイルスベクターワクチン」で、ウイルスの遺伝子情報の運び役にアデノウイルスが用いられている。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の一部の遺伝子情報を利用するため、実際のウイルスは使用しない点で安全性は高いと言われている。さらに、ウイルスそのものを弱毒化せずに、ウイルスの遺伝情報さえ判れば製造できるため、早期開発を可能とする。ベクターにアデノウイルスを使うため、非常にたくさんの抗原ができ、抗体もできやすいという利点も見逃せない。
 その一方で、アデノウイルスそのものに毒性があり、既にイギリスのオックスフォード大学のデータ等で、発熱・風邪の症状がほぼ全員に出現している。加えて、肝毒性の問題もあり、慎重に投与する必要がある。また、アデノウイルスそのものの抗体が体内にできるため、2回目・3回目のワクチン投与は不可能である。ウイルスベクターワクチンを投与して抗体価が長持ちしない場合は、次回は他のタイプのワクチンに移行する必要がある。
 AZD1222にはこうした特徴があるが、臨床試験が一時的に中断するのは珍しいことではない。ワクチン開発の成功率は約4%で、P3段階でのドロップアウトが最も多い。だが、今回の任意的な治験の一次中断は、重篤な副作用の発現が「被験者に起因するもの」か、「ウイルスベクターワクチンの特性によるもの」か、「ADE(抗体依存性感染増強)によるもの」かなど、安全性について検証するもので、ドロップアウトではない。治験での標準的行動で、アストラゼネカには今後、安全性・有効性の高いウイルスベクターワクチン開発に向けてのスピーディな対応が要求される。
 コロナワクチンの開発をめぐっては、8日にアストラゼネカを含めた欧米の製薬会社9社が「接種での安全性と健康を優先して取り組む」共同声明を発表した。
 AZD1222については、今年10月に予定していた提供開始時期が遅れる可能性は高く、供給計画への影響が懸念されるものの、経済に大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルスのパンデミック収束には、新型コロナワクチンの開発は極めて重要だ。
 とはいえ、共同声明で改めて確認されたように「治験で安全性と有効性を確認できた後に当局の承認を求め、幅広く提供できるよう世界的な供給体制の構築」は不可欠で、拙速な開発は絶対に避けるべきである。
 期待される新型コロナワクチンは、AZD1222のほかにも、米ファイザーのRNAワクチン(日本が1億2000万回分の供給授与で基本合意)、米モデルナの「RNAワクチン」(日本が1億2000万回の供給授与で交渉中)、米ノバックスの「組み換えタンパクワクチン」(武田薬品が製造販売予定)、米イノビオ・ファーマシューティカルズの「DNAワクチン」、日アンジェスの「DNAワクチン」などがある。未曾有の世界的危機を乗り切るためにも、各製薬企業には、あらゆるスキルを収束させて、安全性・有効性が高く、かつ迅速な新型コロナワクチンの開発に尽力してほしい。
 

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