後発品メーカーはもっと医薬品製造に対する倫理観と責任感を

 国内後発品メーカー最大手の「沢井製薬」が九州工場で製造する胃炎・胃潰瘍治療剤の後発医薬品「テプレノンカプセル 50mgサワイ」について、8年間に渡り安定性モニタリング溶出試験での不正が行われてきたことが発覚した。不正は、同溶出試験を別のカプセルに薬剤を詰め替えて実施していたもので、2015年から行われていた。同社は、「カプセルを詰め替えて実施した試験による規格内の結果をもって処理することが、上層部からの指示であると考えた試験担当者らにより、不適切試験が継続的に行われていた」と説明している。
 だが、本来のカプセルに入っている中身を取り出し別のカプセルに詰め替えた溶出試験に‟何の意味もない”ことは素人でも理解できる。人の命を預かる製薬メーカーとして考えられない不祥事だ。
 では、なぜこういった不正事件が頻繁に起きるのか。2002年に国の後発品促進策がスタートし、診療報酬は1調剤につき2点加算された。2008年には処方箋記載様式が、これまで「後発品の使用に必要」とされていた医師の捺印を「先発品使用に必要」とする方式に変更。2015年には、後発品の数量シェアは50%台を突破した。
 政府はさらに、2015年の骨太の方針で、「2017年半ばに数量シェアで70%以上、18年から20年までのなるべく早い時期に80%」を打ち出し、現在、後発品の数量シェアは80%以上に到達している。
 こうして後発品メーカーは、後発品の普及を強力に性急に推し進める国の強い追い風に乗って瞬く間に急成長した。勿論沢井製薬もその例外ではない。国の後発品促進策が出るまでせいぜい100億円程度であった年間売上高が、短期間で2000億円規模近くまで拡大している。だが、今回の不祥事発覚により、企業規模だけは急成長したもののその中身は伴っておらず、「張り子の虎」と言われても反論の余地はないだろう。
 後発品メーカーは、毎年の薬価改定が利益を圧迫し、厳しい経営状況下にあるのは間違いない。だが、採算が取れないからと言って、今回のような溶出試験の不正や、他の不祥事のようにGMPの一部を省略するのは言語道断である。
 後発品事業促進では、当初から「多品目、低薬価」を強いられることは判り切っていたのだから、「後発品メーカーは欲に駆られず、できないのなら最初から引き受けなければ良かった」という医療現場の声も少なくない。とはいえ、ここまで後発品促進が促進されれば、もう後戻りはできない。
 溶出試験不正で沢井製薬は「健康被害は報告されていない」としているが、果たして健康被害だけで事は済むのか。胃炎・胃潰瘍治療剤のカプセルが体内で溶解されずそのまま便となって排泄されれば、主作用も副作用も出現しないのは当然だ。だが、期待していた主作用が発揮されず、悪化してしまった症例が無かったのか大いに気にかかるところだ。
 沢井製薬と言えば、一昨年開催された東京オリンピックでのTVCMが記憶に新しい。あたかも研究開発型製薬企業を彷彿とさせるようなTVCMが、大会期間中なんども繰り返して放映された。そのような余剰資金があるのなら、なぜGMP遵守に回さなかったのか残念でならない。
 2020年12月、小林化工が製造した抗真菌薬(爪水虫治療薬)への睡眠導入剤成分の混入から端を発し、日医工の業務停止など各後発品メーカーのGMP遵守違反が次々と明らかになり、後発品の販売停止・回収等が頻繁に行われた。当初、日医工の業務停止を受けて抗アレルギー剤の不足が多かったが、その後、降圧剤や、ビタミンD3、骨粗鬆症薬などの不足にまで影響が拡大。後発品不足は、それに替わる先発品不足も相まって、今や医薬品供給がままならない深刻な状況下に陥っている。
 今回のテプレノン品質試験不正に伴う「沢井製薬九州工場業務停止」の行政処分は、まだ明確にされていない。とはいえ、8年間に渡る品質試験不正検査の非行は決して軽くはないだろう。もし、業界最大手の沢井製薬の主力工場が操業停止になれば、医療現場でのさらなる医薬品不足に拍車がかかるだろう。
 後発品業界は、お題目のように「信頼回復」を唱えているが、それだけでは何の解決にも繋がらない。各メーカーは、もっと医薬品製造に対する‟倫理観”と‟責任感”を持って取り組むべきだ。国も本腰を入れて深刻な医療現場の‟医薬品不足”に対処する時期に来ている。

    

タイトルとURLをコピーしました