Colum (1) 医療経済実態調査を紐解いて     門林宗男 (元兵庫医科大学病院薬剤部長・元兵庫医療大学薬学部教授)

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 医療経済実態調査は、「病院、一般診療所、歯科診療所及び保険薬局における医業経営等の実態を明らかにし、社会保険診療報酬に関する基礎資料を整備することを目的とする」とされ、2年毎に実施される(第22回 調査期間2019年5月30日~7月12日)。薬局は、1ヶ月間の調剤報酬明細書の取扱件数が300件以上の保険薬局が調査対象(約1,900施設)になる。

 調査結果が公表されるまでに約1年超の時間を要する膨大な政府調査資料だが、現状の医療経済及び環境を知る上には格好のデータであろう。興味深い点は、調査年度ごとで調査内容が変化していることである。医療政策上で必要とする現状調査の一つと思われるが、次回の診療報酬・調剤報酬改定のテーマではないかと注視せざるを得ない。

 第20回調査(平成27年実施 調査対象施設:1763、有効回答施設数:911、有効回答率:51.7%)と第21回(平成29年実施 調査対象施設:1835、有効回答施設数:1090、有効回答率:59.4%)を比べれば、有効回答率を見ても同調査への関心度が増していることがわかる。

 さらに、保険薬局関係の調査項目を比べてみれば、基本的事項は変わらないが、機能別集計の項目は異なっている。第20回の保険薬局・機能別集計は、①後発医薬品割合別の損益状況(調剤割合と備蓄割合)、②調剤報酬等の算定状況別の損益割合(在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定回数及び居宅療養管理指費の算定回数)、③店舗数別の損益状況となっている。

 第21回の同調査集計では、①、②、③項目は同じであるが、加えて④調剤基本料等別の損益状況、⑤立地別の損益状況、の項目追加があり明らかに変化が見られる。調剤基本料等別の損益状況については、調剤基本料の区分と点数に関する財務省等の意見が影響も考えられる。また、保険薬局の立地別の損益状況が報告されたことは特に興味深い。

 立地条件の設定が、診療所前、中小病院(500床未満)前、大病院(500床以上)前、病院敷地内、診療所敷地内、医療モール内、左記以外、となっている。時の厚労大臣が病院敷地内薬局について言及したことも影響しているのであろうか。

 ともあれ、このデータを見ると、個人の保険薬局(施設数37)では、中小病院や大病院前及び病院敷地内に立地する施設はなく、診療所前に立地の保険薬局では、前前年度と前年度との比較で、損益差額からは赤字ではないものの減少傾向が示される。受取り処方箋枚数は微減(前前年度13,802枚、前年度13,430枚)、医薬品等費と原価償却費の構成割合が伸びていることが原因であろうか。

 法人の保険薬局の集計は多様で、全体として見れば、1,028施設で受取り処方箋枚数は微増(前前年度18,358枚、前年度18,678枚)だが、損益差額は減少(前前年度14,670千円、前年度13,598千円)を示している。費用増加の要因は対前年比0.5%の増加を示した給与費にありそうで、薬剤師確保の難しさの現れであろうか。

 興味深いデータを一つ紹介すると、保険薬局(法人)の立地による保険調剤収益の前年との対比データから、診療所前や医療モール内は横ばいで、病院前(中小病院、大病院共に)がマイナスなっているのに対し、病院敷地内薬局(施設数4)は、処方箋枚数(前前年度20,428枚、前年度20,398枚)の微増で、1施設当たり収益は248,104千円(伸び率10.6%)となっている。

 病院敷地内への保険薬局進出に関しては、薬剤師職能、経営、高額な敷地貸借料・テナント料など、諸事項で大きな話題になったが、こうした資料に病院敷地内保険薬局の項が堂々と設けられていることが驚きであり、かつての保険薬局の適正配置やいわゆる第二薬局規制の話などは、すでに霧散したと受け取れる。

 今年度の同調査集計で保険薬局は新たな一面を見せることと思われ、病院敷地内薬局、いわゆる門前薬局、かかりつけ薬局、健康サポート薬局、地域連携薬局、専門医療機関連携薬局(改正薬機法による)など、立地と機能が混然となって多様化してきた保険薬局のあり方へのヒントを見つけることができるかも知れない。

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