新型コロナの特徴と治療薬・ワクチン開発の現状(その1) 森下竜一阪大教授が解説

 大阪大学の森下竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授、日本抗加齢医学会副理事長)は、日本抗加齢医学会WEBメディアセミナーで、「新型コロナウイルス感染の特徴と病態、治療薬・ワクチン開発の現状について解説した。当サイトでは、「新型コロナウイルスの特徴と病態篇」、「治療薬とワクチンの開発の現状篇」の2篇に分けて紹介したい。

 コロナウイルスは、表面にスパイクがあり、これを輪切りにすると王冠の形をしているので、その形状からコロナの名称が付けられている。コロナウイルス自体は、SARS、MERSが出るまでは、通常の風邪の15%が普通のコロナウイルスによるもので、危険なものと理解されていなかった。幸いSARSやMERSは、パンデミックになる前に流行が終息したが、新型コロナウイルスは感染が広がり易い特徴があり、パンデミックに至ってしまった。新型コロナウイルスは、感染した疾患の症状を「COVID-19」、ウイルスそのものは「SARS-CoV-2」と呼ばれている。
 国別の死者数では、日本は900人程度で、世界的にみると少ない。死者数が少ないのは、わが国のコロナ対策がうまく行った一つの証明でもある。
 また、当初はPCR検査ができなかったため、「潜在的にもっと多くの感染者がいるのではないか」との指摘があったが、厚労省が東京・大阪で実施した抗体検査のデータや、ソフトバンクの大量の抗体検査の結果を見ても、感染者は1000人に数人程度(感染率:0.数%)で、殆どの人は未だ罹患していない。ソフトバンクの医療従事者のデータは若干高く、100人に2人程度の割合で感染者が存在するが、それでも市中感染者の割合は多くはなかった。
COVID-19
症状出る前に感染を引き起こすためパンデミックに

 新型コロナウイルスが非常に厄介なのは、発症前にウイルス量が最大化を示して、感染のピークが発症する前に起こることだ。新型コロナウイルス感染症患者の咽頭スワブのウイルス量は、発症直後最大であった。中国の広州の調査データでは、発症日の一日前に新型コロナウイルスが最も多く、感染例の44%は感染元の発症前に感染したと推定される。
 従って、インフルエンザは症状が出ている人を隔離すればそれ以上拡大しないのに対して、新型コロナは症状が出た時点で既に感染を引き起こしている。患者を隔離しても新型コロナウイルス感染が収まらない一つの理由はそこにある。
 通常、新型コロナウイルスは、咳やくしゃみで飛び散る飛沫感染、あるいは接触感染で拡大する。患者の唾液、血液からうつるケースが多く、結核・麻疹のような空気感染はしない。クラスターが発生している大きな理由は、エアロゾル感染である。

部屋の換気等で新型コロナのエアロゾル感染防止を

 エアロゾル感染とは、咳・くしゃみによる病原体の感染様式で、唾液のような大きなものではなく小さな粒子が湿った状態でフワフワと空気中を舞い、そのために感染が隣に座っている人だけでなく、少し離れたところでも起こる。実際、中国では、バスに座った人の隣だけでなく、そこから5人、6人離れた座席の人も感染している。エアロゾル感染で広がっていくため、感染が拡大する。
 また、声を出すことで口から唾が飛ぶと、エアロゾル感染が起こり易くなるので、ライブハウスやカラオケが危険であることに繋がる。
 これから迎える夏場においては、クーラーをかけたまま締めきった状態でいるとエアロゾル感染が起こり易くなることが中国のレストランで報告されている。クーラーの下にいる人が感染元で、その人のエアロゾルがクーラーの空調に乗って、クーラー吹き出し口に居た人に感染させたケースがある。従って、クーラーをかけていてもできるだけ換気を良くして空気を入れ替える必要がある。
 もう一つ、新型コロナウイルスで厄介なのは、罹患者の約80%を無症状の軽症者が占めていることだ。罹患した本人に症状がないため、他の人にうつしてしまうケースが非常に多い。また、軽症者は大丈夫かと言うとそうではない。新型コロナウイルス感染の最大の特徴は、「悪化の早さ」で、朝方少ししんどい人が、夕方にはエクモ(人工呼吸器)に繋がれていることも珍しくない。
 また、何も症状がないのにCTを撮ると肺炎が見つかり、そこから新型コロナウイルス感染が判ったケースもある。新型コロナ感染が疑わしければ、CT検査をして肺炎かどうかを確認するか、抗原検査をして感染していないかを確認することも重要である。
 
新型コロナウイルス感染初期症状の下痢に注意

 新型コロナウイルス感染の初期症状として意外に知られていないのが消化器症状で、3~4割の罹患者に下痢が発症している。初期段階では、肺炎ではなく、消化器症状を惹起する人も多い。この場合、トイレに新型コロナウイルスが飛び散っていることに留意する必要がある。新型コロナウイルスが含まれた糞便をフタを開けて流せば、床や周囲にウイルスが飛び散り、その後入った人が土足で踏んだり、手洗いをせずに物を食べる、または口に手をやるなどの行為をすれば、感染が拡大していく。
 ダイヤモンドプリンス号で最も新型コロナウイルスが多かった場所もトイレで、感染者と接触した疑いのある人や渡航歴のある人で下痢が発症している場合は、新型コロナウイルス感染を疑う必要がある。
 新型コロナウイルス感染による全体の死亡率は、中国では2~3%とインフルエンザとあまり変わらない。当初、「新型コロナウイルスはインフルエンザのようなもので怖くない」と言われていたのも蝉退の死亡率の数字に因るところだ。だが、新型コロナウイリス感染による死亡率は、高齢者になる程高くなる。
 中国患者4万4672症例における年齢分布と死亡率は、60歳代3.6%、70歳代8.0%、80歳代14.8%である。ここに、喫煙、がん、喘息、COPD、生活習慣病などの重症化リスクがあれば、さらに死亡率は上昇する。
 そのほかにも60歳代では5%前後、70歳代で15%、80歳代では30%亡くなっているデータもあり、高齢者や合併症のある人の死亡率は高いので、ワクチンができるまで高齢者は罹患しないように注意する必要がある。

第2波・第3波も医療崩壊防止策が重要に

 日本・韓国では低いので、「東洋人は死亡し難い」という報道があったが、武漢の死亡率は非常に高い。
また、エクモに繋がれている人の死亡率は50%に上昇する。エクモで治療を受けている人では血管炎症が強く惹起しており、ハイリスクでは、心筋梗塞、脳梗塞が実際の死因に繋がっている。冠動脈疾患、高血圧、糖尿病などの基礎疾患がある人は、死亡率が高い。
 エクモが不足して治療できなくなるとほぼ100%死亡するので、医療崩壊が起こらなければ日本や韓国のような低い死亡率が維持できるものと考えられる。米国では、白人よりも黒人の方が致死率が高い。従って、医療環境が致死率を左右しているものと考えられ、人種差に関してははっきりとしたエビデンスはない。従って、第2波・第3波も、医療崩壊を起こさないようにすることが大きなポイントになる。 

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