細胞の環境ストレス適応のためのメカニズム解明   東京都医学総合研究所

   細胞のがん化や神経変性疾患抑制への応用に期待

 東京都医学総合研究所蛋白質代謝研究室の安田さや香研究員、土屋光研究員らは、細胞が環境ストレスに適応するための新しいタンパク質分解の仕組みを解明した。
 液-液相分離が駆動する新しいタンパク質分解の仕組みを発見した同研究成果は、タンパク質分解の異常が引き起こす細胞のがん化や神経変性疾患を抑えるための基盤になるものと期待される。
 なお、同研究は、日本学術振興会科研費、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団などの研究助成を得て、マックスプランク研究所のRubén Fernández-BusnadiegoグループリーダーおよびWolfgang Baumeister教授らと共同で実施された。
 現在、世界の生命科学分野で注目されているキーワードに「液-液相分離」の現象がある。液-液相分離とは、2つの液体が混ざり合わずに互いに排除し合って、2相に分離する現象を意味する。
 身近な例では、サラダドレッシングが水と油の2相に分かれる状態も液-液相分離で、自然界ではよくみられる。最近の研究により、細胞内でも核酸やタンパク質が液-液相分離を起こして周囲とは異なる液相を形成し、水に浮かぶ油滴のように細胞内で液滴を形成することが分かってきた。
 細胞内には、核やミトコンドリアなどの『膜で仕切られたオルガネラ(細胞小器官)』の存在がよく知られているが、タンパク質をはじめとする生体高分子の液滴は『膜のないオルガネラ』として、様々な役割を担っている仕組みが明らかになりつつある。
 他方、生物の重要な構成成分の一つであるタンパク質は、生体内のシステムによりその品質を厳密に管理されており、正常な合成と分解のサイクルによって、恒常性が維持されている。細胞内タンパク質代謝における主要な担い手であるユビキチン・プロテアソーム系は、異常タンパク質や役目を終えた機能性のタンパク質を選択的に分解除去して、タンパク質の恒常性の維持のみならず遺伝子発現、ストレス応答、シグナル伝達など、さまざまな細胞機能の制御に必須の役割を果たしている。
 近年、細胞質に存在するタンパク質やオルガネラの分解経路が次々と明らかになってきている一方、核内におけるタンパク質の分解機構は未だ解明されていない部分が多い。
 同研究グループは、プロテアソームの細胞内での振る舞いを調べるため、プロテアソームサブユニットに蛍光タンパク質を融合しノックインしたヒト培養細胞株を作製し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、プロテアソームが高浸透圧のストレスに応答して核内で粒状の構造体を形成することを見出した。

 東京都医学総合研究所蛋白質代謝研究室の安田さや香研究員、土屋光研究員らは、細胞が環境ストレスに適応するための新しいタンパク質分解の仕組みを解明した。
 液-液相分離が駆動する新しいタンパク質分解の仕組みを発見した同研究成果は、タンパク質分解の異常が引き起こす細胞のがん化や神経変性疾患を抑えるための基盤になるものと期待される。
 なお、同研究は、日本学術振興会科研費、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団などの研究助成を得て、マックスプランク研究所のRubén Fernández-BusnadiegoグループリーダーおよびWolfgang Baumeister教授らと共同で実施された。
 現在、世界の生命科学分野で注目されているキーワードに「液-液相分離」の現象がある。液-液相分離とは、2つの液体が混ざり合わずに互いに排除し合って、2相に分離する現象を意味する。
 身近な例では、サラダドレッシングが水と油の2相に分かれる状態も液-液相分離で、自然界ではよくみられる。最近の研究により、細胞内でも核酸やタンパク質が液-液相分離を起こして周囲とは異なる液相を形成し、水に浮かぶ油滴のように細胞内で液滴を形成することが分かってきた。
 細胞内には、核やミトコンドリアなどの『膜で仕切られたオルガネラ(細胞小器官)』の存在がよく知られているが、タンパク質をはじめとする生体高分子の液滴は『膜のないオルガネラ』として、様々な役割を担っている仕組みが明らかになりつつある。
 他方、生物の重要な構成成分の一つであるタンパク質は、生体内のシステムによりその品質を厳密に管理されており、正常な合成と分解のサイクルによって、恒常性が維持されている。細胞内タンパク質代謝における主要な担い手であるユビキチン・プロテアソーム系は、異常タンパク質や役目を終えた機能性のタンパク質を選択的に分解除去して、タンパク質の恒常性の維持のみならず遺伝子発現、ストレス応答、シグナル伝達など、さまざまな細胞機能の制御に必須の役割を果たしている。
 近年、細胞質に存在するタンパク質やオルガネラの分解経路が次々と明らかになってきている一方、核内におけるタンパク質の分解機構は未だ解明されていない部分が多い。
 同研究グループは、プロテアソームの細胞内での振る舞いを調べるため、プロテアソームサブユニットに蛍光タンパク質を融合しノックインしたヒト培養細胞株を作製し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、プロテアソームが高浸透圧のストレスに応答して核内で粒状の構造体を形成することを見出した。
 さらに、この構造体を蛍光顕微鏡で詳細に調べたところ、細胞内で活発に動き回っている、互いに融合し1つになる、ほぼ球状であるとの現象から、液-液相分離で形成された液滴であると判明した(図1)。
 一方、プロテアソーム液滴の構成分子を解析したところ、ユビキチン化されたタンパク質をプロテアソームに運ぶタンパク質RAD23B)の集積が認められた。
 続いて、プロテアソームが液滴を形成する分子機構を明らかにするため、精製したユビキチン鎖とRAD23Bの挙動を試験管内で観察したところ、それぞれ単独では液滴が形成されなかったため、液-液相分離にはユビキチン鎖とRAD23Bの結合の必要性が判明した。
 さらに、プロテアソームと結合できないRAD23B変異体では、液滴は形成するがプロテアソームは集積しなかったため、ユビキチン鎖とRAD23Bの相互作用によって液-液相分離が起こり、そこへプロテアソームが動員されてプロテアソーム液滴が生じる現象が明らかになった(図2)。
 加えて、核内のプロテアソーム液滴においては、プロテアソームがユビキチンに選択的なシャペロンであるp97と協調して、ユビキチン化タンパク質の分解を誘導することが判った。
 つまり、細胞内の局所的なタンパク質分解を促進させるために形成されるプロテアソーム液滴は、細胞が環境ストレスに適応するための新たなタンパク質分解の仕組みの一つとして同定された。
 近年、液-液相分離は新たな細胞内現象として高い注目を集めているが、同研究により、これまで未解明であった核内タンパク質の品質管理機構との関連も明らかになった。これは、液-液相分離と細胞内における現象との幅広い関与を改めて示すもので、液-液相分離の視点から細胞内の様々な現象の見直しの進展が予想される。
 また、凝集性のタンパク質の集積は、神経変性疾患の発症や進行に関係していると考えられる。従って、タンパク質の分解という品質管理の分子機構の一端を明らかにした同研究成果は、細胞のがん化や神経変性疾患を抑えるための基盤知見になるものと期待される。

(図1)


 さらに、この構造体を蛍光顕微鏡で詳細に調べたところ、細胞内で活発に動き回っている、互いに融合し1つになる、ほぼ球状であるとの現象から、液-液相分離で形成された液滴であると判明した(図1)。
 一方、プロテアソーム液滴の構成分子を解析したところ、ユビキチン化されたタンパク質をプロテアソームに運ぶタンパク質RAD23B)の集積が認められた。
 続いて、プロテアソームが液滴を形成する分子機構を明らかにするため、精製したユビキチン鎖とRAD23Bの挙動を試験管内で観察したところ、それぞれ単独では液滴が形成されなかったため、液-液相分離にはユビキチン鎖とRAD23Bの結合の必要性が判明した。

(図2)


 また、プロテアソームと結合できないRAD23B変異体では、液滴は形成するがプロテアソームは集積しなかったため、ユビキチン鎖とRAD23Bの相互作用によって液-液相分離が起こり、そこへプロテアソームが動員されてプロテアソーム液滴が生じる現象が明らかになった(図2)。
 加えて、核内のプロテアソーム液滴においては、プロテアソームがユビキチンに選択的なシャペロンであるp97と協調して、ユビキチン化タンパク質の分解を誘導することが判った。
 つまり、細胞内の局所的なタンパク質分解を促進させるために形成されるプロテアソーム液滴は、細胞が環境ストレスに適応するための新たなタンパク質分解の仕組みの一つとして同定された。
 近年、液-液相分離は新たな細胞内現象として高い注目を集めているが、同研究により、これまで未解明であった核内タンパク質の品質管理機構との関連も明らかになった。これは、液-液相分離と細胞内における現象との幅広い関与を改めて示すもので、液-液相分離の視点から細胞内の様々な現象の見直しの進展が予想される。
 また、凝集性のタンパク質の集積は、神経変性疾患の発症や進行に関係していると考えられる。従って、タンパク質の分解という品質管理の分子機構の一端を明らかにした同研究成果は、細胞のがん化や神経変性疾患を抑えるための基盤知見になるものと期待される。

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