米を主食とした日本型食生活の有用性を指摘  食育健康サミット2019

日本医師会と米穀安定供給確保支援機構は13日、今秋開かれた「食育健康サミット2019」の総括として、「高齢者はメタボ対策からフレイル対策へ」、「フレイル対策の三本柱は、栄養、身体活動、社会参加で三位一体として実行」など、超高齢化社会に向けて重要となる施策を発表した。
 また、その推進のためのキーポイントとして、「適度な炭水化物摂取」と「継続できる食生活」を挙げ、米を主食とした日本型食生活の有用性を指摘した。
 「食育健康サミット2019」は、11月28日、日本医師会館大講堂(東京・駒込)で、「人生100年時代の健康と栄養を考える-フレイル予防対策における日本型食生活の役割-」をメインテーマに開催されたもので、約550 人の医師、管理栄養士・栄養士らが参加。
 フレイル予防を視野に入れて、個人の状態に合った適正な食事量・栄養バランスと身体活動に焦点を当てたディスカッションが展開された。
 各講演のテーマと、講演内容の趣旨は次の通り。

◆基調講演
「健康長寿 鍵は“食”―人生100年時代を元気で乗り切るためのフレイル予防―」
 飯島勝矢氏(東京大学高齢社会総合研究機構教授)

 健康と要介護の中間にあり、可逆的な状態である「フレイル(虚弱)」は、身体的側面だけでなく、精神心理的フレイル、社会的フレイルなど多面的である。それらは負の連鎖となって進行するため複合的対策が必要であり、栄養、身体活動、社会参加を人々が同時に実行できる体制が求められる。
 まず、サルコペニア(筋肉減弱)はフレイルに大きく影響するため、個人に応じたタイミングでメタボ対策からフレイル対策へのギアチェンジをすべきである。フレイル対策には多様な食品の摂取が大事で、ごはんを主食として主菜や副菜を一緒にとれる日本型食生活はそれを実現しやすい。
 身体活動はフレイルリスクを軽減するが、さらに運動を誰とするかもポイントとなる。運動習慣よりも囲碁や将棋などの文化活動、ボランティアなどの地域活動のほうがフレイルリスク軽減に有効という報告もあり、社会とのかかわりがフレイル対策として非常に重要だと考えられる。
 食事においても同様で、ひとりで食べると栄養バランスが偏りやすく、同居家族がいてもひとりの食事だと健康リスクが高いことがわかっており、食事を誰ととるかという視点も重要となる。

◆講演1
テーマ:「日本国民の元気は食事から ― 食事量と栄養バランスを整える―」

横手幸太郎氏(千葉大学大学院医学研究院/内分泌代謝・血液・老年内科学 教授)
 人生100年時代といわれるようになったものの要介護者が多い。真の健康長寿社会実現には、若い頃からのメタボ対策と、高齢期のフレイル対策をバランスよく維持することが重要となる。
 動物性脂質の摂取が高度成長期に急増したため、免疫力が向上して身体が強くなった一方で、内臓脂肪が増加し、それが糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病をもたらすようになった。
 さらには、動脈硬化などの疾患にもつながり、生命を脅かすとともに障害が残って要介護状態になってしまうケースも多く、生活習慣の改善と治療が求められる。
 ただし、高齢になると、メタボ予防としての体重減少よりもフレイル予防としての筋肉量の維持・強化が重要となる。そのためにはバランス良い食事の十分な摂取が必要であある。
 炭水化物は、多すぎても少なすぎても良くないため、ごはんを中心におかずをバランスよくとる食事が大事である。

◆講演2
テーマ:「現状のエビデンスから見る糖質摂取のあり方 ― 健康長寿を目指して―」

勝川史憲氏(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター 教授・所長)

 低脂肪食と糖質制限食を比較すると、糖質代謝、脂質代謝、体重変化の側面では、食事そのものよりもその継続性が重要となる。ただし、糖質制限食では、腎機能の影響をフォローアップする必要がある。また、糖質の代わりに動物性食品を摂り過ぎないことが重要である。
 死亡リスクの面では、摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が50~55%がもっとも低いことが判っている。以上を考慮すると、継続性も高いごはんを主食とした現在の日本型食生活は非常に有効な選択であると考える。
 また、運動後は、その強度にかかわらず糖質消費が増加する。座位行動を減らしてサークル活動など歩行以外の低強度活動が増加すると、糖質消費量が増す分多く食べ、エネルギーやたんぱく質、ビタミンDなどフレイルに関する栄養素を十分量摂り易くなり、フレイル予防に貢献する可能性がある。

◆パネルディスカッション

テーマ:「人生100年時代の健康と栄養を考える-フレイル予防対策における日本型食生活の役割-」

 まず、フレイル予防対策のためのライフスタイルについての討論では、飯島勝矢氏が、「栄養、身体活動、社会参加を三位一体として実行する必要があり、そのための社会体制が大切である。栄養においては、多様な食材摂取が可能な日本型食生活は有用である」と強調。
 さらに、「メタボ対策からフレイル対策へどう徐々に移行すべきかを年齢に応じて伝えていく」重要性を訴えかけた。
 フレイル対策の開始時期に関しては、飯島氏が「フレイルは高齢期の人々のデータを中心に構築された概念であり、適切な開始時期は一概には言えない」とした上で、「フレイルという概念を人々に理解してもらうためには若い人たちにも伝えるべきである」と力説。加えて、「きちんとした運動よりも歩行以外の身体活動を生活の中で行う方がフレイルリスクが低いという実態を、高齢期だけでなく若い世代にも伝えていきたい」と述べた。
 フレイル予防対策における栄養や食事摂取のあり方については、勝川氏が「糖質制限は、中長期的な質のよいデータが必ずしも支持しているわけではない」と紹介。さらに、「事情により糖質制限食をする場合には、腎機能のフォローアップが必要であり、動物性食品の過剰摂取の回避がポイントになる」と訴求した。
横手氏も「フレイル予防には糖質とたんぱく質の十分な摂取が必要である」との考えを示し、「日光に当たったり、食事を通してビタミンDを摂取して、筋肉や骨の維持に努めてほしい」と呼びかけた。
 一方、食欲が落ちてきた高齢者への対応では、飯島氏が「食欲低下の裏側に病気が隠れていないかをまずきちんと確認すべき」と指摘。さらに、「食欲低下には社会的要素も強いため、家庭や食環境、ライフイベントについても医療関係者がうまく聞き出してほしい」とコメントした。
 ごはんを中心とした日本型食生活のメリットについては、飯島氏が、「日本食は少量でバラエティに富んだものが食べられ、食品多様性を実現するために良い食事パターンである」と明言。さらに、「高齢者に合わせてより手軽に食べられる工夫を産業界と協力して生み出していきたい」と抱負を述べた。
 横手氏は、「ごはんは、炭水化物だけでなくたんぱく質まで含まれているほか、和食だけでなく、どんなおかずとも合わせられる多様な食材である」と紹介。勝川氏も、「口の中で調味して食べる“「口中調味”の重要性」を強調した後、「フレイル予防の側面からも、ごはんだけで完結せずにおかずを組み合わせ易い日本型食生活は、たんぱく質を十分量とりやすく有用である」との考えを示した。
 最後に中村丁次氏(神奈川県立保健福祉大学学長)が、「戦後の低栄養対策としての食事の欧米化の行き過ぎによる生活習慣病の対策として伝統的な日本型食生活が見直されてきている」と断言。
 その上で、「この流れを踏まえ、これからの超高齢社会における健康寿命の延伸のためには、個人にとってもSDGsの観点でも“持続可能な健康的な食事、ごはんを中心とした食事のあり方”を普及していくべきである」と総括した。

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