データでみる医療・医薬の世界 八野芳已(元兵庫医療大学薬学部教授 前市立堺病院[現堺市立総合医療センター]薬剤・技術局長) 第6回

八野芳已

第1節:食生活と栄養

(1)食生活の変遷(in19.5.28/Tue.寄稿済)

(2)食生活とライフステージ&附則「天寿を全うする」って・・・(in19.7.3/Wed.寄稿済)

(3)摂取栄養の変化 [「栄養面から見た日本的特質」:農林水産省] (in19.8.25:Sun.寄稿済)

(4)食生活に重要な栄養素 ―種類とそのはたらき―  (in19.9.26:Thu.寄稿済)

(5)栄養素の消化・吸収・代謝 (in19.10.7:Mon. 寄稿済)

(6)エネルギーの摂取と消費

 われわれ人間は、日々の食事を通して活動を継続するために必要なエネルギを摂取し、生命を維持している。その必要なエネルギー量は、身体の大きさや活動量などによって違ってくる。食物の摂取によって得られるエネルギー量を「エネルギー摂取量」、生命維持のためのエネルギー量と活動などによって消費されるエネルギー量の総和を「エネルギー消費量」という。

 では、[エネルギーの流れ]を、I.食品のエネルギー ⇒ II.体内のエネルギー ⇒ III.エネルギーの消費の3つのカテゴリーからみてみる(1、2)

  1. 食品のエネルギー

 食品のエネルギーは、体内で効率よく変換され、生命活動に必要なエネルギーとなる。この時の食品のエネルギーは、一般に熱量で表され、単位はカロリー(cal)を用いている。1calとは、14.5℃の水1gを1℃上昇させるのに必要な熱量で、食物の場合は、この1000倍の単位キロカロリー(1kcal)が使われる。食品のエネルギーの主たる源は、三大栄養素[たんぱく質、脂質、糖質]で、これらの栄養素の持つエネルギー量(1gが生体内で消費された時に発生する熱量)は、それぞれ[たんぱく質4kcal、脂質9kcal、糖質4kcal]である。
 食品のエネルギーを計算する時は、それぞれの成分について分析を行って、摂取量のg数にそれぞれの熱量(kcal)を乗じたものの合計で求める。また、三大栄養素以外でも、アルコール等は計算に加える場合がある。因みに、アルコールは1gが7kcalになる。
 ※表示で1Cal(→Cが大文字:大カロリー)とある場合は、1kcalを意味する。

【よく見る用語:キーワード】

 ・三大栄養素:[たんぱく質、脂質、糖質]を指し、これらはいずれもエネルギー源となる

 ・アトウオーターのエネルギー換算係数(アトウオーターの指数):たんぱく質、脂質、糖質の消化吸収率と、たんぱく質の未利用のエネルギー量から体内で利用されたエネルギー量を示す生理的燃焼値を求めて指数としたもの、アトウオーターのエネルギー換算係数は、各栄養素を1g摂取したときに吸収された量が燃焼して発生するエネルギー量を[たんぱく質:4kcal、脂質:9kcal、糖質:4kcal]とした

 ・エネルギー換算係数(kcal/g):食品の持つエネルギー量を食品ごとに日本人の消化吸収率を考慮して算出される(表1、2)

 ・ジュール(J)、栄養学ではkcal:エネルギー摂取量は、食品中のたんぱく質・脂質・糖質から得られるエネルギーの総和として求められ、単位としてジュール(J)で表される。ただ、栄養学ではキロカロリー(kcal)が使用されていて、1kcalは4.184 kjである

  1. 体内のエネルギー

 図1に示すように、体内のエネルギーは、たんぱく質、脂質、糖質が代謝され、最終的に二酸化炭素CO2と水(代謝水)H2Oに分解されるとともに、高エネルギーリン酸化合物ATP(アデノシン三リン酸)を獲得し、ATPが分解される際に放出するエネルギーを利用することによって消費されている。

【よく見る用語:キーワード】

 ・エネルギー平衡:エネルギーの出納が過不足なく行われ、エネルギー摂取量とエネルギー消費量が等しい状態にあるときのことをいう

 ・エネルギー代謝:生体で行われるエネルギーの獲得とその変化をいう(図1)

 ・解糖系:グルコースからピルビン酸になるまでの化学変化をいい、酸素を利用しないことから嫌気的解糖系ともいう(図1)

 ・クエン酸回路(TCA回路):(図1)

 ・電子伝達系:(図1)

 ・ATP(adenosine triphosphate):一連の過程(解糖系→クエン酸回路→電子伝達系)で産生されるエネルギー源、われわれはこのATPを使って活動している(図1)

 ・β酸化:(図1)

 ・呼吸比(RQ:respiratory quotient):体内で栄養素が燃焼したときに消費した酸素量に対する発生した二酸化炭素量の割合のことをいい、呼吸商ともいう(表3)

呼吸比(RQ)=CO発生量÷O消費量

  1. エネルギーの消費

 食品の持つエネルギーを基に体内で産生されるエネルギーは、われわれの日常生活の身体的および精神的等のどのような状態においても使われ、消費される。下記に示す【よく見る用語:キーワード】にある①基礎代謝、②安静時代謝、③睡眠時代謝、④特異動的作用、⑤活動代謝など生活の各活動段階に起因している。さらに、体格・年齢・性・体質等の様々な因子の影響も受けることになる。

【よく見る用語:キーワード】

 ・基礎代謝(basal metabolism):身体的・精神的に安静にしている状態でのエネルギー消費量であり、生命維持だけに必要なエネルギー(生きるために最低限必要なエネルギー)のこと

(表4,5)

 ・基礎代謝基準値:数多くの実測された基礎代謝量をもとに、性別・年齢階層別に体重1kgあたり1日あたりのエネルギー量として示されるもの

    (例示)22歳で体重55kgの女性の基礎代謝基準値は、

22.1kal/kg/日×55kg=1,216kal/日 

(*:厚生労働省:日本人の食事摂取基準2015年版による値)

 ・安静時代謝(RMR:resting metabolic rate):基礎代謝量の測定のように姿勢や食事・室温などの測定条件を規定せずに、仰臥位あるいは座位で、安静(静かに休息)にしている状態で消費されるエネルギーのことで、通常、安静時代謝量は基礎代謝量のおよそ10%増しとされる

 ・睡眠時代謝:心拍数が低く、骨格筋が弛緩しており、身体の動きが少ない睡眠をとっている状態におけるエネルギー代謝のことで、以前は睡眠時代謝量は基礎代謝レベルよりもやや低いとされてきたが、現在では基礎代謝量と同じであるとされている

 ・特異動的作用(SDA:specific dynamic action):食物を食べることによってエネルギー代謝が亢進することをいい、食事誘発性熱産生(DIT:dietary-induced thermogenesis)ともいう

 ・活動代謝:仕事・通学や通勤のための歩行・家事・身仕度、スポーツなど日常生活におけるさまざまな身体活動によって亢進するエネルギー代謝をいう

 ・エネルギー代謝率(RMR:relative metabolic rate):種々の身体活動やスポーツの身体活動強度を示すもので、活動に必要としたエネルギー量が基礎代謝量の何倍になるかによって活動強度の指標としている

 ・メッツ(METs:metabolic equivalents)(表6):様々な身体活動時のエネルギー消費量が、安静時エネルギー消費量の何倍にあたるかわ指数化したものをいう。メッツはアメリカで広く使われてきたが、最近では、わが国でもとくに運動処方の場合に利用されることが多くなった。厚生労働省が策定した「健康づくりのための身体活動基準2013」では、メッツを身体活動強度として示している。メッツは、metabolite(代謝産物)から名付けられたもので、安静状態を維持するために必要な酸素量(酸素必要量)を性別や体重にかかわらず3.5ml/kg/分を1単位とした。身体活動中のエネルギー消費量を算出する場合、体重あたり1時間あたりで表すと、メッツとほぼ同じ値を示す。ただし、酸素1Lあたりの熱量数を5kcalとする。

 ・身体活動レベル(PAL:physical activity level):総エネルギー消費量を基礎代謝量で除した指標と定義される。

    身体活動レベル=1日あたりの総エネルギー消費量÷1日あたりの基礎代謝量

   「日本人の食事摂取基準(2015年版)」(厚生労働省)では、エネルギー消費量と推定基礎代謝量から計算された身体活動レベルを用いて推定エネルギー必要量の算定を行っている。また、身体活動レベルを推定するために必要な各身体活動の強度を示す指標として、メッツ値を用いた。

    推定エネルギー必要量(成人、kcal/日)=基礎代謝量(kcal/日)×身体活動レベル

      *参考資料(3)

また、農林水産省が、[一日に必要なエネルギー量と摂取の目安]について、①性別・年齢・身体活動量で食べる量が異なる、②活動量に応じた身体活動レベル、③一日に必要なエネルギー量から目安となる食事量(つ「SV」の数)を理解、④対象となる消費者にあった大きさ(適量)のコマを知る の4つの視点からまとめている(3)。一方、日本医師会では[健康になる!1日に必要なカロリー「推定エネルギー必要量]と題して、各人が自分にとっての1日の推定エネルギー必要量の目安がどの程度なのかを把握することを推奨している(4)

【農林水産省:一日に必要なエネルギー量と摂取の目安(3)

「食事バランスガイド」のコマの大きさ(適量)は、対象となる人の性別、年齢、身体活動レベルなどによって、「何を」「どれだけ」食べたらいいのかが異なります。まずは、対象となる消費者をイメージし、その年齢と身体活動レベルを考え、コマの大きさを決めましょう。

身体活動レベルは、日常生活や運動などの活動量に応じて3つの段階に分けています。
通常の生活では、ほとんどの人が「低い」もしくは「ふつう」に該当します。

「食事バランスガイド」では、身体活動レベル「ふつう」「高い」に該当する人を「ふつう以上」としています。身体活動レベルが「高い」人は、その内容や時間に応じて適宜調整が必要です。

一日に必要なエネルギー量から、5つの料理グループ(主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物)ごとに、一日に「どれだけ」食べたらよいかの量「つ(SV)」の数が決まります。活動量の少ない成人女性の場合は、1400~2000kcal、男性は2200±200kcal程度が目安です。

一日に「何を」「どれだけ」食べたらよいのか。それは、以下の表から簡単にわかります。
まずは、対象となる消費者にあったコマの大きさ(適量)を考えましょう。

【日本医師会:健康になる!1日に必要なカロリー「推定エネルギー必要量] (4)

カロリーなんて気にしないで、おいしいものを食べたいだけ食べられればいいのですが、そんなウマイ話はありません。いまの日本では、普通に食べてもカロリーオーバー になってしまいます。健康になるための第1ステップ。まず自分にとっての1日の推定エネルギー必要量のめやすを知っておきましょう。

あなたの 「1日に必要な推定エネルギー必要量」をしらべてみましょう。

推定エネルギー必要量は、エネルギー消費量を計るもっとも正確な手法である「二重標識水法」という方法で導き出されます。

基礎代謝基準値(kcal/kg体重/日) × 参照体重(kg)

基礎代謝量は、早朝空腹時に快適な室内等においての安静時の代謝量です。 基礎代謝量を求めるには、基準代謝基準値と参照体重を掛け合わせます。

基礎代謝基準値  (kcal/kg体重/日) 体重1kgあたりの基礎代謝量の代表値
参照体重(kg) 該当年齢の平均的な体重

 参照体重における基礎代謝量

性別 男性 女性
年齢 基礎代謝 基準値
(kcal/kg体重/日)
参照体重
(kg)
基礎 代謝量
(kcal/日)
基礎代謝 基準値
(kcal/kg体重/日)
参照体重
(kg)
基礎 代謝量
(kcal/日)
1-2 61.0 11.5 700 59.7 11.0 660
3-5 54.8 16.5 900 52.2 16.1 840
6-7 44.3 22.2 980 41.9 21.9 920
8-9 40.8 28.0 1140 38.3 27.4 1050
10-11 37.4 35.6 1330 34.8 36.3 1260
12-14 31.0 49.0 1520 29.6 47.5 1410
15-17 27.0 59.7 1610 25.3 51.9 1310
18-29 24.0 63.2 1520 22.1 50.0 1110
30-49 22.3 68.5 1530 21.7 53.1 1150
50-69 21.5 65.3 1400 20.7 53.0 1110
70以上 21.5 60.0 1290 20.7 49.5 1020

レベルⅠ~Ⅲ

身体活動レベルとは、1日あたりの総エネルギー消費量を1日あたりの基礎代謝量で割った指標です。

レベルⅠ 生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合
レベルⅡ 座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合
レベルⅢ 移動や立位の多い仕事への従事者。あるいは、スポーツなど余暇における活発な運動習慣をもっている場合

※15~69歳の活動レベルの例です

年齢階級別にみた身体活動レベルの群分け(男女共通)

身体活動レベル レベル I(低い) レベル II(ふつう) レベル III(高い)
1-2 1.35
3-5 1.45
6-7 1.35 1.55 1.75
8-9 1.40 1.60 1.80
10-11 1.45 1.65 1.85
12-14 1.45 1.65 1.85
15-17 1.55 1.75 1.95
18-29 1.50 1.75 2.00
30-49 1.50 1.75 2.00
50-69 1.50 1.75 2.00
70以上 1.45 1.70 1.95

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