第1節:食生活と栄養
(1)食生活の変遷
わが国における食生活はその時代その時代の出来事等に大きく影響を受けている(1-5)。まず、第一は、農業生産の変化によるものである。戦後間もない食糧難の時代には、不足していた主食の米に代わり、サツマイモや大麦、きびを多く食べ、副菜(おかず)は少量の野菜や魚とされていた。 その後1950年代初頭には、米が食事の中心にまで従来の地位を回復したが、肉やパン、乳製品といった西洋の主要食物が日本人の食生活にも大きく入ってきた。そして、1960年代にわが国は高度経済成長期を向かえ、人々の生活は豊かになっていき、1970年代には、洋食レストランやファーストフードが都市に住む日本人の食習慣をさらに変化させ、朝食や夕食には米食、昼食には麺類という、より伝統的な食事から転じて、都市生活者のほとんどは朝食や昼食には洋食を食べるようになり、米は夕食でしか主食として食べなくなってきた。こうした食事の変化は、食生活を便利にする反面、家庭料理の味や食文化を失わせることにもなった。このような変遷は、「日本人の栄養・健康状態の変遷について」と題して「栄養の状況」と「身体の状況」の面からまとめられている(表4)(6)。
そして、食生活の変遷を辿る中で昭和十一年七月五日発行の「榮養読本(鈴木梅太郎、井上兼雄共著)日本評論社版」の序文は、今日に至る道標になるように思う(7)。
*榮養読本の序文:
我民族が世界に雄飛するには、もっと大きく丈夫にならなければならない。
然るに最近壮丁の體格は益々低下しつつあると云う誠に心細い状態である。
他の文明國に比して幼兒の死亡率が高く、結核で斃れるものが多く、さうして平均年齢が低いことは實に寒心すべき事實であり又我國の耻辱でもある。
これが對策としては榮養の知識を普及せしめ食事の改善を計ることが最も緊要であると信ずる。
吾々がどうして生きてゐるか、又どうしたら健康を保ち天賦の能力を充分に發揮することが出來るか、と云うことは人生最大の問題であるに拘はらず、これを考慮するものが存外少なく、寧ろ食物なぞに頓着しないことを誇りとして居るものが多いことは遺憾の至りである。吾々の生活費中食物は約半分を占めて居るが、これを合理化すると否とは
國民の消費經濟に重大な関係がある。
斯様な見地から近頃一部の人々の間に漸く榮養問題に関心を持つ様にはなったのである
が、更に廣く國民にこれを徹底せしめなければならない。
本篇はこの意味に於て最近進歩した斯學の概念を極めて平易に記述したもので、成るべく多くの人に讀まれんことを希望するものである。
唯怱卒の際執筆したものであるから、誤謬もあるべく、杜撰も尠なくないと考へる。これ等の点は後日改める積りであるから、著者の意のあるところを諒とせられれば幸甚である。
昭和十一年六月
著 者 識
このような中、平成12年度から健康の増進に関する基本的な方向を示し、「健康日本21」をFlagとして掲げて、国民の健康増進に取り組んできている。そして、現在はSecond Stage(平成25年度から平成34年度)の「健康日本21(第二次)」が次の5項目を達成目標として、生活習慣の改善とともに、社会環境の整備を通じて、健やかで心豊かに活力ある社会の実現を目指すこととしている。
- 健康寿命の延伸と健康格差の縮小
・生活習慣の改善や社会環境の整備によって達成すべき最終的な目標。
・国は、生活習慣病の総合的な推進を図り、医療や介護など様々な分野における支援等の取組を進める。
- 生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底(NCD(非感染性疾患)の予防)
・がん、循環器疾患、糖尿病、COPDに対処するため、一次予防・重症化予防に重点を置いた対策を推進。
・国は、適切な食事、適度な運動、禁煙など健康に有益な行動変容の促進や社会環境の整備のほか、医療連携体制の推進、特定健康診査・特定保健指導の実施等に取り組む。
- 社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上
・自立した日常生活を営むことを目指し、ライフステージに応じ、「こころの健康」「次世代の健康」「高齢者の健康」を推進。
・国は、メンタルヘルス対策の充実、妊婦や子どもの健やかな健康増進に向けた取組、介護予防・支援等を推進。
- 健康を支え、守るための社会環境の整備
・時間的・精神的にゆとりある生活の確保が困難な者も含め、社会全体が相互に支え合いながら健康を守る環境を整備。
・国は、健康づくりに自発的に取り組む企業等の活動に対する情報提供や、当該取組の評価等を推進。
- 栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙、歯・口腔の健康に関する生活習慣の改善及び社会環境の改善
・上記を実現するため、各生活習慣を改善するとともに、国は、対象者ごとの特性、健康課題等を十分に把握。
今後は、「人生100年」の時代に入ることから国(厚生労働省)は平成29年9月に人生100年時代を見据えた経済社会システムを創り上げるための政策のグランドデザインを検討する会議として、「人生100年時代構想会議」を設けて、9回にわたって議論が行われ、平成29年12月に「人生100年時代構想会議 中間報告」が、平成30年6月13日に「人づくり革命 基本構想」がとりまとめられた。[(人生100年時代構想会議中間報告より引用)(1)ある海外の研究では、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計されており、日本は健康寿命が世界一の長寿社会を迎えています。(2)100年という長い期間をより充実したものにするためには、幼児教育から小・中・高等学校教育、大学教育、更には社会人の学び直しに至るまで、生涯にわたる学習が重要です。(3)人生100年時代に、高齢者から若者まで、全ての国民に活躍の場があり、全ての人が元気に活躍し続けられる社会、安心して暮らすことのできる社会をつくることが重要な課題となっています。](8)
このような現状から、われわれがこれから生きていくライフステージにおいて、その各々のステージでの特徴を踏まえ、それぞれのライフステージでどのような「健康な食事」のあり方が望ましいのかを考えることが重要であると考えられる(表6:ライフステージごとの「健康な食事」に関わる特徴、図25:ライフステージごとの「健康な食事」のあり方の例)(6)。
【参考資料】
(1)日本人の食生活の変化:Cross Currents
www.crosscurrents.hawaii.edu/content.aspx?lang=jap&site=japan&theme…
(2)日本の生活 文化の変化(食生活):NHK for School
www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005403195_00000
(3)図録 食生活の変化(1910年代以降の品目別純食料・たんぱく質供給量)
www2.dokkyo.ac.jp/~japan/japanese/sub4.htm
(5)調査からみえる日本人の食卓 ~「食生活に関する世論調査」から①~ 世論調査部:村田ひろ子、政木みき、萩原潤治 放送研究と調査 OCTOBER 2016 54-83
(6)日本人の長寿を支える「健康な食事」のあり方に関する検討会 報告書 平成26年10月 厚生労働省
(7)榮養読本(鈴木梅太郎、井上兼雄共著)日本評論社版、昭和十一年七月五日発行
(8)「人生100年時代」に向けて人生100年時代構想会議 平成29年9月に設置、平成29年12月に「人生100年時代構想会議 中間報告」、平成30年6月13日に「人づくり革命 基本構想」
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