日本歯内療法学会(東京都)は、勤労感謝の日にあわせて実施した20代~50代の勤労中心世代200名を対象とした歯の再治療に関するアンケート調査結果を発表した。
今回の調査を通じて、働き盛りのミドル世代(40代、50代)は、歯の神経(歯髄)を抜いた治療経験も再発むし歯の経験も多く、口腔ケアの意識も二極化していることが分かった。
特に、歯の神経(歯髄)を取り除いた経験を持つ人は、歯内療法専門医の定期健診と日々のケアを怠らないことが重要である。調査結果では、次の主要ポイントが明らかになった。
①むし歯の再治療「再発むし歯」が多いのは40-50代のミドル世代
・40代は46%、50代では70%もの人がむし歯の再治療「再発むし歯」の経験あり
・新たなむし歯の発生が減少傾向にあるのに比べ、再治療が急増するのがミドル世代の特長
②ミドル世代は神経(歯髄)を抜く治療まで悪化させてしまうケースも多い
・むし歯治療で神経を抜いた経験は、40代は46%、50代は66%と急増
・そのうち神経を抜いた歯の記憶が曖昧な人は40代で約7割、50代では約8割
・あまり覚えていない人ほど歯の定期健診頻度も低いという結果に
③神経(歯髄)を抜いた歯の再治療は50代で4割近くに!
・神経を抜いた歯の再治療経験は40代20%、50代では38%も
・神経を抜いた歯は痛みを感じにくく、むし歯に気づくのが遅れリスクも高まる
・再発むし歯を放置すると歯を失うリスクが急増
④出来るだけ歯髄(神経)を残す歯髄温存療法が重要
・歯の神経(歯髄)は痛みでむし歯を知らせる役目もある
・治療箇所が悪化し再根管治療となった場合は、治療難度がより上がる
・歯内療法専門医の定期健診と日々のケアを怠らないこと
日本歯内療法学会では、今後も再発むし歯や根の治療の適切な処置を広く発信し、患者や生活者の口腔健康の維持に貢献していく。
■歯の再治療に関するアンケート調査の概要・詳細と結果、治療法解説、日本歯内療法学会からのメッセージは次の通り。
【調査概要】
◆調査主体:日本歯内療法学会
◆調査対象:20代~50代・各50人の計200人
◆調査方法:WEBアンケート
◆調査時期:2021年10月7日~11日
【調査の詳細と結果】
「歯の再治療:再発むし歯、根の治療」意識調査
Q1、 これまでむし歯の治療をしたことがありますか?
20→30代で16%もギャップがあり、治療経験は8割に達するなど、お口の健康の曲がり角は30代からを実証する結果となった。
また、40代→50代は他年代に比べ4%差と少なく、新たなむし歯の発生は落ち着くが、この年代の9割以上の人が治療経験ありと回答しているのが現状だ。
2、 むし歯治療で歯の神経(歯髄)を抜いた経験はありますか?
神経を抜く治療をしたことがある人は全体では43.5%であるが、30代から伸びつつあり、50代では66%と急伸している。
50代で神経を抜く治療にまで悪化させてしまうケースが多いことが分かる。
Q3、 あると回答した人にお聞きします。 神経(歯髄)を抜いた歯がどの歯か覚えていますか?
Q2であると回答した人のうち、40代で約7割、50代では約8割の人が、記憶が曖昧・覚えていないと回答。
若いうちは治療した歯がまだ少なく記憶に残っているが、40代、50代は治療した歯が多くなるにつれて、どの歯か把握できなくなり、神経(歯髄)を抜いた歯を意識した口腔ケアができていないことが想定される。
Q4、 以前むし歯治療した歯を再治療した(している) 経験はありますか?
Q1に比べ40代→50代で24%と急増。新たなむし歯の発生が減少傾向にあるのに比べ、50代ではむし歯の再治療が増加していることが分かる。
Q5、 以前神経(歯髄)を抜いた歯を再治療(根の治療)した(している)経験はありますか?
神経を抜いた歯の再治療が50代では約4割もある。神経を抜いた歯は痛みを感じにくく、むし歯に気づくのも遅れがちだ。むし歯は一度治療したら終わりではない。定期的な検診がとても重要である。
Q6、 現在むし歯治療以外で、歯科医院で検診している頻度を教えてください。
神経を抜いた歯をあまり覚えていない人ほど歯の定期健診頻度も低く、口腔意識と歯のトラブルは相関すると考えられる。
定期的な歯科健診は3~6ヶ月に1回程度を推奨しているが、半年に1回以上の検診は全年代ともに40%以下となるなど、まだまだ日本の歯科検診頻度は低いのが現状である。
【治療法解説】
◆歯の神経(歯髄)とは
歯は、人体の中で一番硬い組織である。その中には、神経と呼ばれる「歯髄」という軟らかい組織が、根の先のほうの小さな孔で、あごの骨の中の神経や血管とつながっている。そのため、歯の痛みを感じ、その異変を察知し、むし歯などの症状を知らせる役目を担っていることがわかる。
だが、歯髄が、むし歯(う蝕)や外傷で、細菌の感染を受けると、強い痛みや、歯肉の腫れを伴うようになる。
このような時に、その歯を救い、さらに長い間機能させるため、歯髄の一部や全部を除去して歯を残す治療が行われる。この治療法は『歯内療法(根管治療)』の領域である。
◆ミリ単位の治療を行う歯内療法
むし歯の進行度は、C0~C4に分類されます。C0は初期のむし歯、C1はエナメル質のむし歯、C2は象牙質まで進行したむし歯、C3は歯髄まで進行したむし歯、C4は歯の根っこだけ残ったむし歯である。
歯髄に進行したむし歯はC3とC4である。その治療法はどのようなものか。
▼ C3の治療法
《歯の状態・治療方法》
歯髄という歯の神経に達し、炎症が起きる。穴が深く大きくなるためいつも痛むようになる。歯髄は多くの場合感染しているため、歯髄を取り除き根の治療を行うことがほとんどだ。昔は、悪い歯はすぐ抜いていたが、できるだけ歯を残すという考えで、このような治療を行う。
《治療》
歯質の残存の状態により修復の方法は異なるが、歯髄をとった歯は破損の心配があるので咬む面は保護することが必要になる。根管治療をして歯髄のあった穴を完全に封鎖する。
▼ C4の治療法
《 歯の状態・治療方法》
むし歯がもっとも進行した状態である。歯の根(歯根)の部分だけが残って、歯髄は感染し腐敗している。このためアゴの骨まで感染すると痛みが出たり腫れたりする。健康な歯質がある程度残り、歯根の長さが十分ある場合は、出来るだけ根を残す努力をする。
《治療》
根管治療をして歯髄のあった穴を完全に封鎖する。歯の形態を回復して冠をかぶせる。根管の先端は見た目の歯の根の先端から1mm内側にあり、繊細で且つ高度な技術が求められる。
同じ歯で再治療を繰り返すと歯を失うリスクが高まる
今回のアンケートでは、働き盛りのミドル世代で歯髄を抜いた経験や再治療の経験を持つ方が高い割合を示した。治療を施した歯の状態が再び悪化すると治療難度は高まう。さらに、治療で神経がなくなった歯は、痛みを感じにくいためむし歯の発見が遅れる傾向にある。
このように、治療を繰り返すことは、歯を失うリスクを高めることに繋がります。「オーラルフレイル」が近年注目されるように、長い人生で歯の本数を保持することは健康維持においてとても重要と言われている。すなわち、歯の本数保持には、歯髄を守ることが重要と言っても過言でないだろう。
歯髄を守る対策は日々歯のケアを怠らない、定期的な歯科健診で歯の状態をチェックする、また普段の生活で歯に痛みを感じたら、放置せず早期に歯科医師への相談し、必要に応じて治療を行うことが重要だ。
これらの実践について、歯内療法の専門医に相談して、適切なケアや治療についてアドバイスをもらうのも良いだろう。歯髄を抜いた歯、そうでない歯も状態をチェックし、ケアを続けることが重要である。
【日本歯内療法学会からのメッセージ】
口腔への意識の低下と歯のトラブルは相関するものと思われる。定期健診の頻度が低いほどお口や歯に対する意識が低く、トラブルも多いということである。虫歯や歯周病は定期的なケアで抑えられる疾患とされている。防げない疾患ではない。まずは、健康意識の向上が必要である。
不幸にして神経を取った歯がある方は、経年的な根の治療の ”その後” のチェックが欠かせない。なぜなら、治療後にも無症状に悪化することがあるからである。
日本歯内療法学会会員の歯科医師たちは、こうした “無症状だが悪化している” 状態を早期に発見し成功率の高い治療を提供する。
また、当学会は、さらなる研鑽を積み、症例審査、筆記試験、並びに口頭試問を通過した会員に「専門医」の資格を与え、国民が「専門医」を受診し易いように学会のホームページにその名簿を公開している。
日本歯内療法学会HP(http://www.jea.gr.jp/ippan/index-6.shtml)