新たな歯周病治療薬開発に寄与
新潟大学大学院医歯学総合研究科歯周診断・再建学分野の中島麻由佳助教と多部田康一教授は、ハーバード大学との国際共同研究により、薬剤キャリア「cellular backpack(細胞性バックパック:BP)」を用いてマクロファージを抗炎症性に誘導することで歯周病の進行を抑制することを動物モデル実験で明らかにした。
BPを歯周病治療用に改良し、BPから徐放される極めて少量のインターロイキン4(IL-4)により、抗炎症性マクロファージが効率的に誘導。IL-4を徐放するBP(IL-4-BP)を結合させたマクロファージを歯周病モデルマウスの歯肉に投与した結果、実験的歯周病の進行が有意に抑制された。
同研究により、これまで臨床応用が困難だった歯周病に対する免疫調整薬の開発促進が期待される。同研究成果は、本年11月23日、国際学術誌「Journal of Controlled Release」のオンライン版に掲載された。
歯周病は、病原細菌への感染を主な原因とする疾患で、歯を支える組織(歯肉や歯槽骨)に炎症を引き起こす。進行すると歯の喪失に至る可能性があり、う蝕(虫歯)と並び、歯を失う2大要因となっている。
歯周病治療の基本は、病原細菌の除去にあるが、感染細菌量が少ないにも関わらず進行するケースや、急速な組織破壊を伴う難治性のケースでは、炎症の適切なコントロールが求められる。だが、現在のところ、歯周病治療に応用可能な免疫調整薬は存在しておらず、その開発が期待されている。
マクロファージは、歯周病変部の組織では数が少ないものの、炎症の調整において重要な役割を担う免疫細胞である。炎症を引き起こして一連の免疫応答を誘導する一方で、近年報告された抗炎症性マクロファージが炎症の収束や組織修復を促進することが明らかになりつつある。
同研究グループは、この抗炎症性マクロファージを効率的に誘導することで、歯周病における過剰な炎症を制御する新たな治療薬を提案した。
マクロファージは、IL-4の刺激によって抗炎症性へと誘導される。だが、マクロファージが持つ貪食作用のため、IL-4をそのまま炎症組織に投与すると迅速にクリアランスされ、薬剤効果を持続させることが困難である。さらに、IL-4を含む生物学的製剤は非常に高価であり、通常の歯周病治療への応用には課題があった。
この課題を解決するため、ハーバード大学で開発されたBPを歯周病治療用に改良した。BPはマイクロサイズ(1mmの1/1000サイズ)のディスク状の薬剤キャリアで、精密に設計されており、マクロファージの貪食作用を回避してその表面へ結合し続けることが可能だ(図1)。
同研究では、BPから徐放されるIL-4がマクロファージに作用することで、極めて少量のIL-4でマクロファージを効率的に抗炎症性へと誘導し、その性質を維持させることを確認された(図2)。
また、IL-4-BPを結合させたマクロファージを歯周病モデルマウスの歯肉に投与したところ、マクロファージが抗炎症性を維持し、実験的歯周病の進行を効果的に抑制することが明らかになった(図3)。
同研究は、新たな歯周病治療薬として、抗炎症性マクロファージを利用したアプローチの可能性を示しており、将来的な臨床応用が期待される。
今後は、BPとマクロファージの親和性を強化するなど、さらなるBPの改良を進めていく。将来的には、BP単独投与によるマクロファージ操作技術の確立を目指し、患者が利用しやすい形での治療薬の実用化を目指す。