マラリア伝搬阻止ワクチン開発でGHIT Fund助成決定 愛媛大学と大日本住友製薬

 愛媛大学と大日本住友製薬は3日、米国PATHと3者共同で進めている「新規マラリア伝搬阻止ワクチンの前臨床開発プロジェクト」が、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)の助成案件に選定されたと発表した。助成金は約5億円。
 同プロジェクトの対象となるマラリア伝搬阻止ワクチン候補製剤は、愛媛大学とPATHが見出した高品質の新規熱帯熱マラリア抗原(Pfs230D1+)と、大日本住友製薬の新規ワクチンアジュバント(TLR7アジュバント:DSP-0546E)を組み合わせたもの。ヒトに投与することで、吸血した蚊の中のマラリア原虫を死滅させ、ヒトから蚊への原虫感染サイクルを断つメカニズムを有する。同剤が上市されれば、世界初のマラリア伝搬阻止ワクチンとして、マラリア撲滅に向けた切り札になるものと期待される。
 マラリアは、ハマダラカが媒介する寄生虫病で、今回開発する伝搬阻止ワクチンは、熱帯熱マラリア原虫をターゲットとする。マラリア原虫は、ヒトの赤血球に感染して高熱・貧血を引き起こし、脳障害・死に至る場合もある。マラリアの死亡者数は、 2005年頃から減少傾向に転じたものの、2018年には依然として世界で2.28 億人がマラリアに罹患し、死亡者数も年間40.5万人に及ぶ。マラリア対策の切り札としてワクチン開発がこの40年間以上取り組まれてきたが、蚊からヒトへの感染を防ぐ第一世代のマラリアワクチンによる有効率は約30%と低く、より有用性の高い次世代マラリアワクチンが切望されている。
 マラリアの蚊からヒトへの感染メカニズムは、まず、ハマダラカが吸血する際に唾液をヒトの体内に注入する。その唾液の中にスポロゾイト形態のマラリア原虫が含まれており、一旦ヒトの幹細胞に侵入する。幹細胞に入ったマラリア原虫は、メロゾイトへと分化増殖して、赤血球に侵入する。メロゾイトは、赤血球の中で感染して無精生殖を繰り返し、その際、生殖母体の有精生殖で必要な特殊なタイプの原虫が出現する。この原虫が蚊に吸われて蚊の体内で有精生殖を行って生殖体となり、吸血の際にヒトの体内に注入されるというサイクルを繰り返す。
 そこで、現在開発されているのが、スポロゾイトのヒトへの感染を阻止する「感染阻止ワクチン」、赤血球期原虫の増殖を阻止する「発病阻止ワクチン」、蚊の中でマラリア原虫の発育を阻止する「伝搬阻止ワクチン」の3種類のワクチンだ。
 今回、研究助成の対象となったプロジェクトは、Pfs230D1+とDSP-0546Eを組み合わせたマラリア伝搬阻止ワクチン製剤の前臨床開発で、ワクチン製剤を動物に投与して抗体を作製し、その抗体を人工吸血法で蚊に投与し蚊の中でマラリアが殺傷されているかを確認するというもの。
 愛媛大学とPATHが開発した新規抗原Pfs230D1+は、マラリア原虫由来ペプチドで、Pfs230(タンパク質)に係る豊富な研究エビデンスがあり、強い免疫原生と高い安定性/製造効率を誇る。これまでのマラリア伝搬阻止ワクチン開発は、ヒトに投与しても抗体が作製できず頓挫したが、Pfs230D1+はその難題を見事に解決したのが大きなポイントだ。
 一方、大日本住友製薬が有する新規アジュバント(免疫強化剤)DSP-0546Eは、製剤化TLR7アゴニストで、質が高く持続的な免疫誘導と高い安全性を特徴とする。TLR7アゴニストは、ウイルス由来のRNA核酸を感知するTLR7受容体を活性化させる物質である。
 伝搬阻止ワクチンは、マラリア保有蚊を無くすことができるため、マラリア撲滅に必須とされており、WHOは2030年までの実用化を提唱している。
 同プロジェクトは、本年4月からの2年間、PATH が代表者としてプロジェクト全体を管理し、抗原タンパク質の提供、前臨床試験および治験申請業務を担当する。愛媛大学は免疫原性など同剤が誘導する抗体の機能評価を、大日本住友製薬はアジュバント製剤の開発や非臨床評価を担当する。3者は、同プロジェクトの終了後に、米国での臨床試験開始を予定しており、10年以内の上市を目指す。

坪井氏


 坪井敬文愛媛大学プロテオサイエンスセンターセンター長は、「マラリア流行地は年1~2回の流行ピークがある。このワクチンが完成して抗体が十分に流行地のヒトにできて1年間有効であれば、その地域からマラリアを持っている蚊は居なくなると予測している」と強調。その上で、「これから本ワクチンの実用化、ひいてはマラリア撲滅に尽力したい」と抱負を述べた。

木村氏

 一方、会見した木村徹大日本住友製薬取締役常務執行役員は、「愛媛大学、PATHとともに当ワクチン候補製剤の前臨床研究を推進して、グローバルヘルスへの貢献を目指したい」とコメントした。

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