フィージビリティ向上目指してレセプト情報・特定健診等情報データベースを網羅的解析 臨床疫学研究推進機構

患者数、薬剤クラス、診療行為ごとの特徴を公表

 臨床疫学研究推進機構(東京都)は、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)のサンプリングデータセットを活用して網羅的解析を行った成果を公表した。同解析は、NDBを活用した研究のフィージビリティ向上に資する基礎資料の開発を目的とするもの。
 研究では、2012年1月から2020年1月診療分の間(各年1月、4月、7月、10月)の医科入院、医科入院外、DPC、調剤レセプトを分析対象とし、外来患者延べ1891万4933人、入院患者延べ744万5993人の医薬品情報・診療行為情報・傷病名情報を網羅的に分析した。
 NDBを活用した研究を計画する際に、適格基準に該当する患者数等を事前に見積もること(フィージビリティチェック)が困難であるが、同研究成果を活用することでフィージビリティチェックの代替となることが期待される。
 「NDBを活用した研究のフィージビリティ向上に資する基礎資料の開発:サンプリングデータセットによる網羅的解析」の書籍情報のURLは、 https://icer.tokyo/

 NDBは、全国の保険医療機関から発行された診療報酬明細書(レセプト)を厚生労働省がデータベース化したものを指す。NDBの第三者提供制度が2011年度から開始されて10年以上が経過しているが、その研究成果は未だに乏しい状況だ。その一因として、NDBでは適格基準に該当する患者数等の事前の見積り(フィージビリティチェック)が困難であることが考えられる。
 そこで、同研究では、NDBサンプリングデータセットを活用して、NDBを活用した研究のフィージビリティ向上に資する基礎資料を開発することを目的とした。
 NDBサプリングデータセットとは、NDBに格納された単月の入院レセプトとDPCレセプトから10%、外来レセプトの患者から1%の抽出率で、年齢を層とした層化無作為抽出されたデータセットのことを意味する。同研究では、2012年1月診療分から2020年1月診療分の間(各年1月、4月、7月、10月)の医科入院、医科入院外、DPC、調剤レセプトについてデータ提供を依頼した。
 NDBサンプリングデータセットを活用した同研究成果と、NDBオープンデータとでは、表1に示す点が異なる。例えば,同研究成果では,降圧薬の中ではamlodipineの処方を受けた外来患者が最も多く、次いでnifedipineとolmesartanが多いことが示されている。
 一方で、NDBオープンデータでは患者数を特定できないばかりでなく、薬効分類3桁ごとに処方数量の多い上位100品目の数量しか公表されていないため、降圧薬のように複数の薬効分類が割り当てられ(降圧薬は、薬効分類3桁では212、213、214、217、219、249に区分されている。)、薬効分類の中の品目数が多い場合(例えば、薬効分類214は、降圧薬だけでも1800品目以上、他の薬剤クラスも含めると2000品目以上存在する)、「降圧薬の中でどの薬剤(一般名単位)が最も多く処方されているか」という単純な疑問に答えることができない。

 図1は、2012年1月から2020年1月診療分の間における患者数の推移を示している。外来患者延べ1891万4933人(月平均57万3180人)、医科入院患者延べ420万7526人(月平均12万7501人)、DPC入院患者延べ323万8467人(月平均9万8135人)が特定された。

図 1、 2012年1月から2020年1月診療分の間における患者数の推移

 図2に、2020年1月診療分の年齢構成率を示している。構成率のピークは、外来では70~79歳(19.2%)、医科入院では80~89歳(29.2%)、DPC入院では70~79歳(26.5%)にあることが示された。

図 2. 2020年1月診療分における年齢構成率

 ここでは糖尿病治療薬を基に、薬剤クラスごとの集計結果を例示する。薬剤クラスとしては,降圧薬、脂質異常症治療薬、糖尿病治療薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安・睡眠薬、気分安定薬、抗認知症薬、ADHD治療薬、パーキンソン病治療薬、抗てんかん薬、抗悪性腫瘍薬、抗サイトメガロウイルス薬、抗HIV薬、抗インフルエンザ薬、抗菌薬、ステロイド、吸入ステロイド喘息治療薬、抗リウマチ薬、オピオイド、鎮痛薬、抗血栓薬、抗血小板薬について同様の集計結果をWebサイトに公表しているす。
 図3は、外来において糖尿病治療薬の処方を受けた患者数の推移を示している。2012年1月から2020年1月の間に,患者数は4万5549人から5万8059人へと1.27倍増加していた。
 これは、抽出率が1%であることと抽出月に受診しているとは限らない場合を考慮すれば、糖尿病治療薬の処方を受けている外来患者数は600万人を超えることを示唆している。

図3、. 2012年1月から2020年1月外来診療分の間において糖尿病治療薬の処方を受けた患者数の推移

図 4は、外来において糖尿病治療薬の処方を受けた患者数の推移を、年齢区分ごとに示している。構成率のピークは、70~79歳にあり、次いで60~69歳と80~89歳が上位となった。2012年1月から2020年1月の間に、70~79歳の患者数は1万4272人から1万9948人へと1.40倍増加していた。

図 4、2012年1月から2020年1月外来診療分の間において糖尿病治療薬の処方を受けた年齢区分別患者数の推移

 図5は、外来において糖尿病治療薬の処方を受けた患者数の推移を患者数が上位の薬剤ごとに示している。2012年1月時点の糖尿病治療薬のシェアは、glimepirideが首位、次いでsitagliptinとmetforminが上位であった。2020年1月時点のシェアは、metforminが首位、次いでsitagliptinとglimepirideが上位であり、順位に変動があった。

図 5. 2012年1月から2020年1月外来診療分の間において糖尿病治療薬の処方を受けた一般名別患者数の推移

図 6は、2020年1月診療分の外来において糖尿病治療薬の処方を受けた患者数を、患者数が上位の疑い病名を除く傷病名を年齢区分(全年齢、10-19歳、80-89歳)ごとに示している。
 全年齢区分と80~89歳では、高血圧症が首位、次いで糖尿病と2型糖尿病が上位になった。一方で、10~19歳では、1型糖尿病が首位、次いで、アレルギー性鼻炎と1型糖尿病・糖尿病性合併症なしが上位になった。

図 6、2020年1月診療分の外来において糖尿病治療薬の処方を受けた患者の傷病名

診療行為ごとの分析

 ここでは、傷病手当金意見書交付料(区分番号:B012)を基に、診療行為ごとの集計結果を例示する。診療行為としては、基本診療科のうち入院料等と全ての特掲診療料について同様の集計結果をWebサイトに公表している。

図 7は、外来において傷病手当金意見書交付料の算定を受けた患者数の推移を示している。2012年1月から2020年1月の間に、患者数は1103人から1627人へと1.48倍増加していた。これは、抽出率が1%であることを考慮すると傷病手当金意見書交付料の算定を受けている外来患者数は,月間16万人程に達していることを示唆する。

図 7、 2012年1月から2020年1月外来診療分の間において傷病手当金意見書交付料の算定を受けた患者数の推移

図8は、外来において傷病手当金意見書交付料の算定を受けた患者数の推移を年齢区分ごとに示している。構成率のピークは、40~49歳と50~59歳にあり、次いで30~39歳が上位となった。2012年1月から2020年1月の間に、50~59歳の患者数は226人から395人へと1.75倍増加していた。

図 8、 2012年1月から2020年1月外来診療分の間において傷病手当金意見書交付料の算定を受けた年齢区分別患者数の推移

 図 9は、2020年1月診療分の外来において傷病手当金意見書交付料の算定を受けた患者数を患者数が上位の疑い病名を除く主傷病名と年齢区分(全年齢,30-39歳,50-59歳)ごとに示している。全年齢区分と50~59歳では、うつ病が首位、次いで、高血圧症が上位になった。一方で、30~39歳では、うつ病が首位,次いで適応障害が上位になった。

図 9、 2020年1月診療分の外来において傷病手当金意見書交付料の算定を受けた患者の傷病名

傷病名ごとの分析

 図 10は、外来において口腔・咽頭がんの傷病名コードを有する患者数の推移を年齢区分ごとに示している。構成率のピークは、70~79歳にあり、次いで60~69歳と80~89歳が上位となった。2012年1月から2020年1月の間に、70~79歳の患者数は104人から164人へと1.58倍増加していた。

図 10. 2012年1月から2020年1月外来診療分の間において口腔・咽頭がんの傷病名コードを有する年齢区分別患者数の推移

 図 11は、2020年1月診療分の外来において口腔・咽頭がんの傷病名コードを有する患者数を、患者数が上位の疑い病名を除く口腔・咽頭がんの傷病名と年齢区分ごとに示している。
 50~59歳では、中咽頭癌が首位,次いで,舌癌が上位になった。一方で、70~79歳では、下咽頭癌が首位、次いで中咽頭癌が上位になった。

図 11、 2020年1月診療分の外来において口腔・咽頭がんの傷病名を有する患者の傷病名

処方パターンの分析

 ここでは、精神病床入院中の統合失調症における処方パターンを基に、処方パターンの分析の集計結果を例示する。その他の処方パターンの分析としては、抗認知症薬の処方量、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方量、抗認知症薬処方を受けた患者における抗精神病薬の併用患者数、免疫療法薬処方を受けた患者における吸入ステロイド喘息治療薬の併用患者数をWebサイトに公表している。

 図 12は、精神病床入院中に統合失調症の主傷病を有する患者における抗精神病薬の種類数の推移を示している。2012年1月から2020年1月の間に、3種類以上の抗精神病薬の処方を受けた患者の割合は40.3%から33.9%へと減少していた。

図 12、 2012年1月から2020年1月の間において精神病床入院中に統合失調症の主傷病名を有する患者における抗精神病薬の種類数の推移

図 13は、精神病床入院中に統合失調症の主傷病を有する患者における年齢区分別3種類以上の抗精神病薬処方割合の推移を示している。69歳以下の年齢層において、3種類以上の抗精神病薬処方割合が減少していた。

図 13、 2012年1月から2020年1月の間において精神病床入院中に統合失調症の主傷病を有する患者における年齢区分別3種類以上の抗精神病薬処方割合の推移

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