早期膀胱がんの悪性進展を抑える新しい核酸医薬開発 岐阜大学平島特任助教らの研究グループ

 岐阜大学の平島一輝 G-YLC特任助教(高等研究院・大学院連合創薬医療情報研究科)らの研究グループは、悪性に進展しやすい早期膀胱がんの性質を反映した動物モデルを確立し、マイクロRNA-145(miR-145) という小分子RNAの低下が早期膀胱がんの発生・進展のトリガーになっていることを明らかにした。
 また、miR-145の化学構造を改変して抗がん活性を向上させた核酸医薬(miR-145-S1)を開発し、早期膀胱がんモデルに膀胱内投与すると病変の悪性進展が抑えられることを実証した。
 miR-145-S1は、早期膀胱がんの悪性進展を抑える新たな核酸医薬シーズとして今後の開発が期待される。また、同研究で確立した動物モデルを応用することで、今後の早期膀胱がんの治療研究開発がさらに加速化するものと考えられる。
 これまでの医薬は、タンパク質に直接結合して効果を示すものがほとんどであったが、一部のタンパク質は複雑な構造を持つため薬剤が結合できず治療薬の開発が難しい場合があった。
 核酸医薬の場合、タンパク質をつくる設計図であるRNAに結合しタンパク質の合成を抑えることで薬効を発揮する。核酸医薬のRNAに対する結合は規則的かつ安定的に起こるため、どのような遺伝子でも標的にできるメリットがある。
 特に、赤尾幸博特任教授の研究グループが20年前から研究を進めてきたマイクロRNAは、複数の遺伝子を同時に調節できる特徴があり、これまでの一つの遺伝子を標的とした薬剤とは全く異なる新しい概念の治療薬への発展が期待できる。
 近年、臨床で効果が実証されたCOVID-19ワクチンも核酸医薬であり、核酸医薬は次世代のバイオ医薬品として期待されている。
 これらの研究成果は、3日(日本時間)にMolecular Therapy Nucleic Acids誌分野のオンライン版で発表された。
 膀胱がんは、最も多い泌尿器系がんで、喫煙歴のある男性に多く発生する。全世界で年間43万人以上が新たに膀胱がんと診断され、18万人が死亡している。。膀胱がんの75%以上は早期に発見されるが、早期段階でもすでに遺伝子異常をもち悪性に進展しやすいタイプ(UROMOL2021 class 2b)があり、再発や全身転移、死亡の原因となっている。
 早期膀胱がんは血管に乏しい膀胱粘膜表層に存在するので、血管内ではなく膀胱内への薬剤注入により治療される。現在は、弱毒化ウシ型結核菌(BCG)を膀胱内に注入し、非特異的に免疫を刺激する治療が行われているが、BCGによる治療では悪性化に関わる遺伝子異常は抑えることができない。
 そのため、治療を行ったとしても再発や悪性進展を十分に抑えられないうえ、一部の症例では激しい副作用が起こることが問題である。だが、過去数十年にわたり悪性化に直結する遺伝子異常を抑えられる新しい膀胱内注入医薬は開発されておらず、治療法に改善がない状態であった。
 これまでに赤尾幸博特任教授は、進行型の悪性膀胱がんではmiR-145の低下が病態に関わる因子として極めて重要であることを明らかにし、miR-145の補充が有望な治療戦略となりうることを報告してきた 。
 だが、早期膀胱がんに対しては、薬効を検証できる適切な動物モデルが存在せず、悪性進展におけるmiR-145の役割や治療効果を検証できない状態であった。
 こうした中、平島特任助教、赤尾幸博特任教授(岐阜大学院連合創薬医療情報研究科)らは、病理組織学的解析、次世代シークエンサーによるゲノム解析、生化学的試験などの研究手法を使って動物モデルの検証を行った。
 その結果、喫煙に関連して発生するN-Butyl-N-(4-Hydroxybutyl) Nitrosamine (BBN)という化学物質を特定の条件でラットに与えると発生する早期病変が、悪性に進展しやすいヒトの早期膀胱がん(UROMOL2021 class 2b)と極めて類似した性質をもつことを発見した。
 この動物モデルを利用して研究を進めたところ、miR-145は病変形成のごく早期から低下しており、多くのがん遺伝子の制御を介して早期膀胱がんの発生・進展に中心的な役割を果たしていることを実証した。
 さらに、研究チームはmiR-145の化学構造を改良し、高い抗がん活性を持つ新しい核酸医薬シーズであるmiR-145-S1を開発した(図A)。miR-145-S1を早期膀胱がんモデルの膀胱内に投与しmiR-145の発現を補充したところ、早期病変の悪性進展が抑えられることを実証した(図B)。

図 早期膀胱がんの悪性進展を抑える核酸医薬の開発
 

 miR-145-S1は、早期膀胱がんの悪性進展を抑える新たな核酸医薬シーズとして今後の開発が期待さる。また、同研究で確立した動物モデルを応用することで、今後の早期膀胱がんに対する治療研究がさらに加速化すると考えられる。

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